只では転ばない

私は生憎と目視確認で魔力が視えない。医師や魔術師の方々は視える方が大半らしい。言葉の端々で魔力の掛かり具合を指摘していた、エイレミルダ妃は視える方のようだ。


エイレミルダ妃は扇子を突きつけるようにしてマリエリーナを指した。


「あ…あなたっ御子がいるのでしょう?何故王族の護りが無いのよ?!」


マリエリーナはビクッと体を動かした。


私は気が付いた。妊娠はしているが、王族の護りが無い…ということは当然子供の父親は


殿…ということだ。


今まで男爵家の家から出ないで隠れていたのは、自身に王族の護りが無いことがバレたくないということだ。


私は隣の椅子に座っているリーフェを恐る恐る見上げた。真っ直ぐにマリエリーナを見詰めている。これは…リーフェは知っていたね?


「マリエリーナ、答えてくれ…腹の子は…」


シュージアン殿下が言い終わる前にマリエリーナが泣き出したので、それが全てだった。ただここで終わるマリエリーナではなかった。


泣き出して…皆が、押し黙った時に急に叫んだのだ。


「リスリー様とシアン様に襲われたのですぅ!!」


リスとシアって誰だーーって?!襲われたぁ?


シュージアン殿下以下、皆がびっくりしている間にもマリエリーナは更に言い募った。


「無理矢理襲われたんですぅ……助けてぇシュージアン!」


だから……襲われたってその襲われた彼らの子供を妊娠している訳なのよね?シュージアン殿下に認知しろというのか?どうすんのこれ?


「リスリー=バース伯爵子息とシアン=ノマリ侯爵子息を呼べばいいだろう?二人がマリエリーナ嬢を強姦したというのなら、捕まえて裁きを受ければいい。腹の子はどうするかはシュージアンとマリエリーナが決めればいい。認知して自身の子として育てるか…色々、選択肢はある」


リーフェがそう言ったことで…あっ!と叫びそうになるのを何とか押さえた。


伯爵子息と侯爵子息…マリエリーナのお友達のことなのか!


そうか…同時期に同時進行で三人共と関係が?…それが本当なら恐ろしや、マリエリーナ。さあて、友達方はなんていうかなぁ~?


宮廷ドロドロ愛憎劇場の第二幕があがったようだ。


近衛騎士団と軍人にひっ捕らえ…失礼、連れて来られたリスリー=バース伯爵子息とシアン=ノマリ侯爵子息は始終キョロキョロとしていた。


当たり前だけど国王陛下を見て顔色を悪くしていたが、マリエリーナがいることに気が付くと、半ギレ状態になってマリエリーナに向かって叫んだ。


「マリエリーナどういうことだよ?!」


「強姦って…」


「きゃあああ!あなた達が私を強姦したんでしょう?!酷いわっ!」


マリエリーナが彼らの言葉に被せるように泣き叫んだので、お友達達は狼狽えながらも押し黙ってお互いを見たり、シュージアン殿下を見たり…オロオロしている。


その中でリーフェが静かに声を響かせた。


「マリエリーナ嬢はあくまで、リスリー=バース伯爵子息とシアン=ノマリ侯爵子息に強姦された…と訴えるのだな?では子息方は容疑が晴れるまで、収監することにしようか」


このリーフェの言葉に子息達ふたりは仰天したようだ。


「お待ち下さい?!リアフェンガー殿下!私達は強姦なんてしていませんっ…マリエリーナ嬢とは合意の元…」


「そうですっ!私達はそうい…」


「嘘よっ嘘よ…あなた達が私に酷いことをしたんでしょう?!」


このマリエリーナの言葉に、伯爵子息が血相を変えてマリエリーナを睨みつけた。


「どういうことだよっ!今まで遊んできてやったじゃないかっ!」


まさに男と女の愛憎ドロドロ劇場だった…お互いを罵り合い、当事者?であるシュージアン殿下そっちのけで、罵声を浴びせて…やった、やらない、遊んでいた、襲われた、を繰り返している。


胸が痛くなる…お腹の中の子供がもはやどうなる、という問題ではなくなってきている。


「静まれ!」


国王陛下が一喝したので、皆が押し黙った。ふぅ…やれやれ一時休憩か。


「双方の意見は食い違い…平行線を辿るのみ、然るべき法に則り審議すればよい。マリエリーナ=リーム男爵令嬢、どちらにせよシュージアンとの婚姻は認める訳には行かない」


「そんなっ?!」


マリエリーナとシュージアン殿下の声が重なったけど、当然だろう。マリエリーナの言い分が正しいと司法が判断したとしても、何事も無く王族に連なることは無理だ。


後残るはシュージアン殿下が継承権を放棄して市井に出た時にマリエリーナと結婚する…という方法があるにはあるが。


シュージアン殿下は、何故か私の顔を見た後にマリエリーナを見た。


「マリエリーナ、時間はかかるが市井で共に暮らそう…お腹の子供と共にお前を守って生きていく」


おおっ…宮廷愛憎ドロドロ劇場から純愛ロマンス劇場になった!いつか愛する人と巡り合いたい…と言っていた、子供の頃の可愛いシュージアン殿下の笑顔を思い出していた。


さあ、マリエリーナ!ここでシュージアン殿下の…手を…手を…手を?


「う…うぐ…っ…おええええぇぇ…」


マリエリーナに向けて差し出していたシュージアン殿下の手に、マリエリーナは……ゲ〇を吐いた。吐いてしまった…見事に綺麗にしっかりと……


マリエリーナはシュージアン殿下のプロポーズの返事をしないまま、そのまま具合が悪くなったので城の医術室に運ばれてしまった。


シュージアン殿下は浄化魔法でご自身を身綺麗にしていた。なんか…声かけ辛いね。


「私達は合意のうえで何度も…」


そんな騒ぎの後に、誰か早く連れて行けばいいのにその場に残っていた子息達は、マリエリーナとは合意だったと弁明を繰り返して、結構えげつない内容の艶事の話を周りに話し始めてしまった。


このことはシュージアン殿下は知らなかったんじゃないかな…


近衛の方々が悪態ばかりつく子息達を連れて行こうと促したら、よりにもよってリスリー=バース伯爵子息がシュージアン殿下に向かって


「あんな誰にでも股を開ける女なんて、こっちから願い下げだよ!」


と、叫んでしまいそれを聞いたシュージアン殿下はフラフラしながら、ソファに座り込んでしまったからだ。


「殿下…知らなかったのかな」


ついそう呟くと、リーフェが私を引き寄せて同意してくれた。


「それでもいい…と求婚までしたのにな…」


そんなシュージアン殿下の傍にエイレミルダ妃が寄り添い、ずっとシュージアン殿下の背中を擦ってあげていた。


°˖✧ ✧˖° °˖✧ ✧˖°


結局…マリエリーナはシュージアン殿下の手を取らなかった。シュージアン殿下と婚姻する条件は市井で生活をしないといけないこと…それは私にはとても無理です…そう言って断ってきたらしい。


お腹の子供を抱え、男爵家はどうするのか…そこから先は男爵家の問題として解決していかねばならないだろう。


色々やらかしたマリエリーナは、不敬罪に問われないのだろうか?と思っていたのだが、シュージアン殿下が不問にして欲しいと国王陛下に頭を下げたらしい。


結局、私と婚約破棄をして『いつか愛する人と巡り合いたい』と突っ走ってしまったシュージアン殿下は引っ込みがつかなくなって、暴走するしかなかったのだと…後にリーフェが推察を語ってくれた。


シュージアン殿下は今は粛々と政務をこなしているらしい。


あんなに私に嫌味を言ってきていたシュージアン殿下だったけれど、今はフラれてしまったので逆に憐れみさえも感じてしまう。これからシュージアン殿下も誰かと婚姻を結ぶことになるだろう。もう自由恋愛は諦めた方がいいと思う。


さてそろそろドロドロ劇場も終わったので、カリータ領に帰ろうか…という話が出てき始めた頃、私はマーシ・ボワーレのドレス工房にお邪魔して、例の落書きされたデザイン画を見せつつマーシ女史に


「異世界ではブラウンカラーのドレスもありましてねぇ…」


と、必死に説明してドレープの雰囲気やドレスのイメージを下手くそなりにも紙に描いてマーシ女史に見せていた。


最初は渋い顔をしていたマーシ女史も、異世界のファッションの話をし始めると食いついてきて、ドレスから下着…マタニティウェアや子供服の話題まで話が弾んだ。


どうやらその話でヒントを得たマーシ女史は、制作魂に火をつけたみたいだった。


「可愛い赤子用の服と妊婦用のドレス考えますわぁ~出来上がりましたら妃殿下にお送りしますね!」


と笑顔で言われた。子供服、非常に楽しみだ。


そして…ファファミーラのミーラ(おじ)様の店に訪ねてこちらでもマリエリーナのお詫びを入れておいた。


「大丈夫よん♪あんなチンクシャ、二度とくるな!って追い出しておいたから~」


どこの世界でもオネエは強いな…


それにしても、マリエリーナとシュージアン殿下の婚約式の今までかかった費用が勿体ないな…どこかで利益生む上手い金儲けのネタないかな。


「リーフェ…どこかに儲け話、転がってないですか?」


ファファミーラの帰り道、徒歩移動で城へ移動している私は隣を歩く美しい王弟殿下、我が夫のリーフェに聞いてみた。


「う~ん…じゃあ今度、産まれてくる俺達の子供のお披露目会でもするか?」


「それいいね!」


よーし、それ乗った!只では転ばんよ?

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