護って頂いてます

リーフェは時期が時期だけに、国王陛下に報告するのはもう少ししてからにしようか?と聞いてきた。


「確かに妊娠初期ですしね。まだ無事産まれるか分からないものね」


私がリーフェに伝えるとリーフェはキョトンとしていた。そして、医師のおじ様を連れてきて、おじ様から王族の妊娠とは…の説明を聞いて仰天した。


「流産は絶対無い?どういうことですか?」


医師のおじ様はリーフェと私を交互に見ながら説明してくれた。


「王族の血族だけの特殊な血と申しますか…一度、胎に子が宿りますと防御魔法が御子と母胎に発動しまして、まず外因や内因が作用するような衝撃等は完全無効化出来るのです」


何、そのバリアみたいな凄いの?!ふぁ〜じゃあ妊娠してしまえば、私も子供も絶対安全状態になっちゃう訳だ。


リーフェが頷きながら補足してくれた。


「先日、ヴァルがシュージアンに妊娠初期に婚約式や婚姻式などを行うのは、母体と胎児に非常に悪い影響を与える可能性もある…と説明していただろう?王族は安全なのにおかしいな~と思っていたが、知らなかったんだな?」


「はい、申し訳ありませんでした…では、王族の方々はある意味、産まれるまでは安全なんですね」


リーフェも医師のおじ様もちょっと苦笑いしている。


「まあ、王族の血筋の者は無意識化で使える自己防御魔法と自己治癒魔力が高いんだ。これは遙か昔からだから…え〜と遺伝というのかな?」


リーフェは医師を見た。医師のおじ様も頷いている。


「王族特有と言いますかね、私は神族の末裔説を推しますけど!」


なんだそりゃ?…と思ったらなんと、王族の血筋を辿れば遙か昔、ドラゴンと婚姻したとか…はたまた、神様の血筋だったとか…要するに伝説や伝承の類の眉唾なものが未だに論争されているらしい。


金儲けしか興味が無かったから、王族の歴史とか王族解体新書とか全然興味がなかったわ…そんな民話や都市伝説もどきがあったなんてね。


「つまりは、優性遺伝子が自己防御魔法系に特化してるってことでしょ?それはそうなりますよ。婚姻の度に高魔力保持者との婚姻を繰り返していたら、王族には凄い魔術使いばかり産まれますって…だから神様だか、ドラゴンだかそんなモノの子孫な訳ありませんよ」


私がそう断言すると、医師のおじ様とリーフェまでもが睨んできた。な、なによ?


「必ずヴァルみたいに、全否定してくる奴っているんだよ…夢が無い」


「遙か太古の神、キブリフェイザル神の末裔だというのが王族を神格化する由緒正しき伝説ですのに…」


由緒正しかろうがただの都市伝説だし、ドラゴンってあくまでイメージだけど、爬虫類系統だろう?どうやって人間に〇ッ〇〇〇だよ!という言葉は心の中に仕舞っておいてあげた。


声に出して嘲笑い、鼻で笑わないだけ有難いと思って欲しい。男とは異世界でも夢見がちである。


という訳で今、私は最強の防御ボディを手に入れた。我が子よ、存分に母を護ってくれ。


イヤ~ホントにさ、妊婦になって何が怖いかって、転んだりして何かしらの怪我でお腹の子供に害があるんじゃないかと、それを考えて動けなくなりそうだったんだけど逆に妊婦になって、俺最強!なんてナニソレうれしすぎる。


「うえぇぇぇ……」


しかし、この魔力酔い&悪阻よ。最強ボディでも悪阻の気持ち悪さは耐えられんわ。


リーフェは迷っていたけれど、国王陛下に私の懐妊を知らせたらしい。


そして…嬉しさが爆発したのか、リーフェはトーナメント試合でサリオ班長と黒髪のイケメン様のクゥベルガー大尉も押し退けて総合優勝を果たしたのだ。


下馬評通り、一位リアフェンガー殿下、二位サリオ班長、三位はクゥベルガー大尉、四位がバファリアット少将…そして五位は敗者復活戦から見事勝ち上がったライビルさんになった。


リーフェの総合優勝は、忖度とかご祝儀で総合一位になった……ということは無いと信じたい。異世界も御上からの御意向で皆が控えおろう状態ではない……と信じたい。


なんとか第一回トーナメント模擬試合も無事終わったので、リーフェと私はまた王都に行くことになった。


王族の護りが発動しているから、王族の妊婦さんは比較的アグレッシブに動くことを許可されているらしく、リーフェ曰く「俺の嫁、間違いなく王族の血族を妊娠してっから!」というアピールも兼ねてドヤリまくるのが通例らしい。


どんなしきたりなんだ、それ~めっちゃ、俺様妊婦様状態じゃないのさ。


まあ郷に入っては郷に従え…異世界に入っては異世界に従え…で逆らいはしませんよ?


王族の護り~の他にリーフェの防御障壁もかけられて、念の為に作った防音防臭の魔法印のエチケット袋(悪阻対策)を持参して準備は万端だった。


出迎えてくれた国王陛下とエイレミルダ妃はものすごく喜んでくれた。


いやいや?何だかエイレミルダ妃が不自然なほどはしゃいでませんか?私を見て、リーフェを見た後…目がチラチラと周りに向いている。そして殊更に大声をあげた。


「リアフェンガー殿下とヴァレリアとの子供ならそれはそれは高貴で美しく清廉な御子になるわね~」


なんだこれは……褒めてるのか、馬鹿にしてるのか…すると黙ってニコニコしていたリーフェが


「ところで同じくご懐妊中のマリエリーナ嬢のお姿を最近お見掛けしませんが?」


と爆弾を落としてしまった。


エイレミルダ妃の目付きが変わる。


リーフェさ…多分わざとなんだろうけど、こういう傷を抉るような隠しているのにわざわざ暴くところが、エイレミルダ妃に嫌われる原因なんだと思うよ?


エイレミルダ妃は小刻みに震えながら(怒りか?)扇子を握り締めている。


「ふ……マリエリーナ様はご気分が優れないそうで、男爵家の屋敷の中に閉じこもっていて…妃教育もずっと…ずっとさぼっておられますわぁ……そりゃ多少は魔力酔いや悪阻もあるとは思いますけど?基本は王族の護りの防御魔法で妊娠中は大病を患うことすらないのですよ?」


「まあ…!そうなんですか…」


それも知らなんだ…こりゃ益々妊婦最強様じゃないか!


私が合いの手を入れたことにちょっと怒りが静まったのか、エイレミルダ妃は笑顔を取り戻している。


「ヴァレリアにかかっている防御魔法は特に強固に感じますし、きっと産まれて来る御子は素晴らしい魔力を秘めているのは間違いないですね」


「そ…そうだな!流石ヴァレリアとリアフェンガーの子だな。エイレミルダも…その、甥か姪…どちらかな?楽しみだろう?」


ここで急いで国王陛下が会話に加わって、なんとかエイレミルダ妃に擦り寄ろうと頑張っていた。


「そうですよね…あーんな田舎者の男爵家の娘の子より美しく聡明な子が産まれるでしょうしね!」


あ……エイレミルダ妃の本音が出た。


なるほど、息子の子供というよりマリエリーナの子供という認識が強いのだろう。それならば無条件に可愛がれる甥か姪の誕生の方が嬉しいのか。リーフェの子供なら私の成分は兎も角としても、そこそこ造形も可愛いに決まっているしね。


息子を盗った憎き女の子供よりはね。


…と最初は吞気に構えていたのだけど、城に滞在している間…マリエリーナは一度も顔を見せに来ていない。おまけにシュージアン殿下も男爵家の中に入れてもらえないらしい。


「そんなに悪阻が酷いのかしら…」


こればかりは個人差があるから一概には言えないけれど…普通、子供の父親であるシュージアン殿下の面会すら拒む?あまりにもマリエリーナが不義理な気がしてならない。


リーフェは一緒に登城しているジル=グルフーリ様に頻繁に何かの指示を出しているし…おまけに護衛と称してあの、あの黒髪のクゥベルガー大尉を呼び寄せちゃうし…何かあるの?


「クゥベルガー大尉は念の為だよ」


念の為…ね。私の背後に立つクゥベルガー大尉を見上げるとコクリと頷く無口な軍人。


そして次の日…朝から廊下が騒がしいな…と思っているとリーフェが私を呼びに来た。そう言えば朝からどこかに出かけていたね。


「ヴァル調子はどう?」


「大丈夫です、何か騒がしいですが?」


リーフェはニヤーッと嫌な笑いを返してきた。


「シュージアンを煽ってさ~マリエリーナ嬢を男爵家から浚ってきたんだ~見に来

ない?」


何を見るの?と思ったけれど、こんな宮廷愛憎ドロドロ劇場はめったに見れるものじゃない。エチケット袋に吐いている場合じゃない!急げぇぇ!


勢い込んで貴賓室に駆け込んだ私の目に飛び込んで来たのは、青白い顔をしてソファに座っているマリエリーナと、国王陛下とエイレミルダ妃…そしてシュージアン殿下の宮廷愛憎ドロドロ劇場の出演者の皆様だった…!


私は観客席(下座)に移動すると、劇場の開幕を今か今か…と待っていた。


すると…エイレミルダ妃が呟いた。


「マリエリーナ様……あなた王族の護りが無いじゃない……」


「!」


なんだってぇぇ?!それどういうことだよ?!

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