とんでもない勘違いの末…
本日は初めてリーフェに負傷させられた日から数えて、六日目でございます。
私が眠る寝台の隣には、この世で一番美しいのはだぁれ?の問いかけに、満場一致でリアフェンガー殿下でぇす!と言われるほどの美貌の持ち主、リアフェンガー=クレガ=ホースト王弟殿下、辺境伯が眠っている。
これはおかしい。流石に私だって気が付いている。六日連続でリーフェは私の隣で眠っている。
そしてこの六日目のお泊り?の朝……私が執務室にお邪魔した時に衝撃的なことを妾妃様達に言われてしまったのだ。
「いや~リアフェンガー殿下が羨ましいなぁ~俺も早く婚姻したいですね!」
リード=ピレビュー少尉のこの言葉に思わず目を剥いてしまった。更にその後に
「辺境伯領で以前、殿下の女性関係で揉めましたからね~私は懲り懲りでしたが…確かに婚姻はいいですね」
そう言ってジル=グルフーリ様が私をチラリと見て……頬を染めた、頬を染めたぁ?!
ここでリーフェが会話に割り込んできた。
「おい…俺の女性関係とはなんだ!…ヴァルに変な誤解を与えるな!ヴァル何もないからね?」
「……女性関係?」
私が無意識にそう呟くと、ヒュッ…と息を吸い込んだリーフェが、そのふくよかな胸筋で私を抱き込んできた。ぐええっ…苦しい。
「以前…この領に姉達が送り込んできた刺客…いや、女性と共に連れて来たメイド達がな…中々の曲者ばかりでジルやリード達にも絡んできたりがあってな…そんなことがあって煩わしさを感じて、女性の使用人は乳母達の三人を覗いて、侍従や男の部下に全て任せるようにしていたんだ」
リーフェの説明を聞いて、男の使用人ばかりなのはそういうことかと思い至った。しかしジル=グルフーリ様やリード=ピレビュー少尉に絡んだりとは…それは肉体的にも絡みに行ったということなのかな。
「本当にあのメイド達や侯爵令嬢、王女殿下も我儘で生意気で…女性に幻滅するしかない令嬢達でしたね…」
リード=ピレビュー少尉が遠い目をして、私が差し入れたプリンを食べている。
リード=ピレビュー少尉は可愛い顔をされているから、年上のおねーさまに狙われたのかもしれない…わいせつ行為ダメッ絶対!
しかしここで私は再確認をしなければならない…
「ジル=グルフーリ様もリード=ピレビュー少尉も…女性と婚姻したいとお考えですのね?」
二人は私がリーフェの腕の中(胸筋の隙間)から問い掛けると、大きく頷いた。
「もちろん出来るなら…」
「したいですよぉ!どこかに可愛い女の子いないかなぁぁ」
「………そうですか、早急に検討させて頂きます」
あまりの衝撃に無意識にそう答えて…私は血の気が引いていた。
皆……リアフェンガー殿下の妾妃様じゃなかったのかーーー!!!
ああ…ああ…私ってば何を早とちりをして、勘違いして妄想して…
「ん?ヴァルどうした?ぐったりして…」
「殿下が締め技を繰り出したんじゃないですか?」
バファリアット少将が怖い顔でリーフェに言っているけど、そうじゃねぇぇぇ!!いや、ある意味、胸筋で絞めているのか?でも、そうじゃねぇぇ!!
「殿下…少し疲れましたので部屋で休ませて頂いても宜しいでしょうか?」
私がリーフェに告げると、ああ…とか、そうか…とか言いながらもリーフェは私を解放してくれた。
ダメージがデカすぎる。自分への自己嫌悪で嫌になる…昔から思い込んでしまったら、周りが見えなくなるのだ…もっと冷静にならなくては…
精神的なダメージにヨロヨロしながら、部屋に辿り着いた。
暫くカウチソファーに座り…考えていた。
そう、この一人勘違い妄想劇場…これは黙って墓場まで持って行く案件だ。幸いにも口に出してその道の恋愛を名指ししてジル=グルフーリ様達に話した記憶は無い。
辺境伯領に妾妃がいるようだ…と、とんでも情報を私に寄越してきたお父様には後日、もっと情報を精査しろ!と、怒鳴りつけることにして…この辺境伯領にいる方々には絶対に絶対に言わないでおこうと心に誓った。
何もかもをあけすけに口に出して良い訳ではない。時には必要な沈黙もある。秘密は女を美しくする………あくまで私の持論だけど。
「よし…そうと決まれば…」
クヨクヨしない。今の私はなんだ?そう…辺境伯夫人の王弟殿下妃、ヴァレリアだ。パンパン…と頬を手で打った。
ここで皆のお役に立つのに、何も変わりはない。私は私に出来ることをしよう。
さて……明日は軍の皆さんの前で『トーナメント』と『トミクジ』の説明をせねばならない。頑張ろう!
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私は、朝の全体鍛錬の説明会に臨んだ。全体鍛錬と言っても、第一鍛錬場に集まってくれているのは、第一から第三部隊の各班の班長と副班長の約三百名くらいだ。いやいやぁ?三百人を前にプレゼンなんてどこのCEOかっての?緊張しない方がおかしいよね。
しかも鍛錬場の中に設置されている朝礼台っぽいものの檀上に上がってご挨拶ときたもんだ!どこの校長先生かっての?これで緊張するなと言う方がおかしいよね。
私が緊張で震えていると、リーフェが肩を擦ってくれた。
「ヴァル…大丈夫か?」
「リーフェ…」
隣に立つリーフェを見上げると、リーフェはグッ…と息を飲みそして、耳を赤くしている。
どうしたの?
「緊張して震えているヴァルも良いなぁ…と思って」
それを聞いて一気にスン…と気持ちが落ち着いたわ。綺麗な顔をして変態め変態め変態め…と三度呪っておいたらスッキリした。
変態旦那の手を借りて、朝礼台に上がると声を遠くへ届ける『拡散魔法』を使った。
「おはようございます、ヴァレリアでございます。朝からお忙しい中お集まり頂きましてありがとうございます」
冒頭のご挨拶で妃殿下が低姿勢なのも如何なものかとも思ったけれど、あくまで私は元公爵家のご令嬢でシュージアン殿下の元妃候補…傍から見ると只のご令嬢だ。
新参者は慎ましやかに…鉄則だ。
「先ずはトーナメント方式の模擬試合についてご説明させて頂きます…」
事前に軍の詰所の廊下と食堂に、トーナメント方式の模擬試合のお知らせとトミクジの開催のお知らせを掲示板に貼っておいた。
それを見た軍人の皆さんは戸惑い、説明をお求められることも多かった。裏を返せば皆がトーナメント試合とトミクジに興味があるということなのだが…良くも悪くも興味を抱かせたらこちらのものだ。
「……というのが大体の流れでございます。ご質問には後ほどまとめてお答えします。次にトミクジのご説明に入ります…」
「お待ち下さいっ!」
でた……思わず読み上げている資料の紙の束で口元を隠して、ほくそ笑んでしまう。目を吊り上げて、私を睨むようにしてこちらを見ている男達…
お荷物軍団…都会のお坊ちゃん達…貴族の三男、四男…裕福な商家の妾の子…まあ要するに実家から持て余されてこちらに放り込まれて腐ってる男達の集団だ。
リーフェに聞くと、どこの地方領主の私兵軍にも一定数、実家で何かをやらかして、庇い切れなくなったロクデナシが混じっているらしい。
そんな地方左遷組の中には、貴族の家を不当に追い出された不遇の逸材も眠っているので皆が皆、お腐れ様状態ではないらしい。
この辺境伯領にリーフェが拝領して来た時は、そんな面倒な輩はそれほどいなかったらしいのだがこの三、四年で急に数が増えたと聞いている。
私は現王妃の差し金ではないかと思っている。シュージアン殿下の足元を脅かしそうな綺麗で優秀なリアフェンガー王弟殿下のお膝元に、お腐り様を送り込んでおいてやれ…という意地悪の気配を感じる。
馬鹿息子可愛や、義弟憎し…こんな所だろう。…おっと不敬だね。
「そんな模擬試合などして意味がありますか?」
「そうですよっ!今まで何も問題ないでしょう?!」
吠える、吠えるねぇ~吠えているのは駄犬のみ…
「意味はありますよ」
私が言い切ると、軍人達はざわついている。第一部隊の四班のおじ様達とその他の大半の軍人さん達は皆、良く吠える駄犬達を見てニヤついている。
私も悪役令嬢の如くニヤリと笑いながら声高に叫んであげた。
「文句があるなら力でねじ伏せなっ!!」
あ~スッキリした!
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