何だかおかしい??

冷凍マグロは起き上がることが出来ませんでした。愛されてない正妻の定番、朝起きたら旦那はいない……ということはなくて朝からリアフェンガーこと、愛称で呼んでくれと夜中から妙に煩いリーフェが、私と一緒にまだベッドの中にいた。


「おはよう、ヴァル」


「…おはようございます?」


何故、まだベッドに一緒にいるの?政略結婚のド定番は、コトが済んだらボロ雑巾のように扱う…これだよね?


だって宮廷愛憎ドロドロ小説に書いてあったけどな…


「身の程を知れ!お前とのことは義務だぁ!」


そう言って、旦那から愛の欠片も無い言葉を投げつけられるはず?


私がジッとリーフェを見詰めていると(動けないとも言う)リーフェは微笑むと


「朝から可愛いな、ヴァル」


と、口付けてきた。


んん?


リーフェはガウンを羽織るとメイド達を呼んで、直ぐに出て行くかと思いきや、私がお風呂から出て来るまで側で見守り…食事を取る時も側に付いていて甲斐甲斐しく世話をしてくる。


んんん?


「おかしいわね…」


流石にトイレの中には入って来ないので、用を足しながら独り言を呟いた。


リーフェの態度がおかしい。正妻の私に甲斐甲斐しくしていたら、妾妃様達から怒られない?


と、思っていたら扉の向こうからリーフェと第一妾妃様のジル=グルフーリ様の声が聞こえてきた。


「いつまでヴァレリア妃にくっついているつもりですか?いい加減に討伐の準備をして下さい」


ひぇっ妾妃様からの嫉妬だ!これはいけないよ?!


私は急いでトイレから出ると、ドアを開けて部屋の中を覗き込んだ。


部屋の中ではジル=グルフーリ様が悋気を振り撒いて、盛大にリーフェをなじっていた。


「リ…リアフェンガー殿下…こちらは大丈夫なので是非、ジル=グルフーリ様(妾妃様)とお戻り下さい」


扉の陰からちょこっとだけ顔を覗かせて修羅場?な二人に声をかけると、リーフェとジル=グルフーリ様がハッとした顔でこちらを見た。


途端にジル=グルフーリ様の顔が赤くなった。


あわっ?!悋気を見せていた所を正妃に見られて恥ずかしかったの?


「はっ…早く準備して下さい!いいですねっ!」


真っ赤になったままジル=グルフーリ様は部屋を飛び出して行った。妾妃様を追い出すつもりは全然なかったのです。寧ろリーフェの方こそ、出て行けよこらっ!…ですよ?


私は、ふてくされているように見えるリーフェを睨みつけた。


「リアフェンガー殿下のせいでジル=グルフーリ様の私への評価が、我儘な妃だと著しく下がってしまったと思いますわ。早く着替えて討伐に行って来て下さいませ…」


低く唸るように呟くと、リーフェは顔色を変えて部屋を飛び出して行った。


こっちが必死に妾妃様に歩み寄ろうとしているのに、間に入っている旦那が邪魔をするって…有り得ないわ!


そうして怒りながら勢いよく歩こうとしたが腰に激痛が走り、その場にへたり込んでしまった。


「ヴァレリア様!」


「今日は大人しくしていて下さいね~」


エルマとフリージアからニヨニヨとした笑顔を向けられた。ふたりに支えてもらいながらベッドに移動すると、ゆっくりと横になった。


ぐぬぬっ…リーフェめっ!妾妃様からの嫌がらせを受けるのならいざ知らず、旦那に肉体的に嫌がらせを受けるなんて…!


その日…私は腰に湿布を貼り付けたまま、ベッドの上の住人となっていた。お昼過ぎには少し楽になってきていたので、カウチソファに移動してトーナメント用の計画書とトーナメントで一位から三位までの順位を予想して賭けるクジ…名前はトミクジを販売しようと思い、それの計画書も作成しているのだ。クジの販売でお金も集まり、当選金を出して娯楽性の面でも皆が楽しめるし…ウフフ。


グフグフ笑いながらペンを動かしていると、段々と乗ってきて筆が進む進む~


「ヴァル…起きているか?」


おおっ…ちょうどいいわね。部屋を覗き込んできたリーフェに、ズズィと計画書(結構厚め)を差し出した。


「今度、開催予定の模擬試合の計画案とそれに付随する『トミクジ』に関する計画案です。是非ご検討下さいませ」


「…ヴァル、休んでないでこんなことしていたの?」


私はとんでも発言を放ってきたリーフェを睨みつけた。


「こんなこと…とはどういう意味ですか?とても重要で且つ、今後の辺境伯軍の娯楽関連行事への布石になりうる案件ですよ?御託は宜しいですから是非ご検討下さいませ」


文句は言わせないわよっ!いずれは辺境伯祭を開催して夜店で屋台を出すつもりなんだから!


更にズイィィ…とリーフェに分厚い計画書の束を押し付けた。リーフェは私の迫力に圧されたのか、その場で計画書を読み始めた。


そして段々と真剣な顔をしてきた。ホレホレどうだい?この案を見ると今後の展望も見えてくるだろう?皆の意識改革を促されるだろう?


「この勝ち上がりの模擬試合だが、対戦相手の組み合わせはどうするんだ?この勝ち抜き方法は兵士達には理解が追い付かないのではないか?」


「それにつきましては説明会を開きたいと思います。勿論、説明用の掲示物などを人目につく所に貼っておきます。対戦相手の組み合わせは、リーフェやジル=グルフーリ様やバファリアット少将にお聞きすれば、今現在の兵士の皆様の強さの順位が分かるかと思いまして…」


強さの順位と聞いてリーフェの眉がクイッと上がった。


「そんなものは決まっている、一番は俺だ」


「そうですかーー」


リーフェの戯言には付き合わないでスルーした。だって四班のおにーさま達がいるじゃない?自己申告なんて当てにならないね。


私は紙に簡単なトーナメント方式を書き出してみた。


「ではまずこれを見て下さい。例えば…強いと思われる方は第一試合で潰し合いが起こらないように、離れた組に置きます。今回は例として、リーフェが右端…左端がバファリアット少将…そこからは…私、エルマとフリージア…シーナ、タウロエ卿とジーレイ卿としますね。こういう風に名前を書き込んで…では第一試合で勝った方が第二試合に進めます。ここで勝敗の違いを分ける為に、敗者の線を消すことにします。それで第二試合は勝ち上がった方同士…そうして最終的に勝ち上がった者の同士で最終試合となります。今度の模擬試合は参加する数が多いと予想されますから、開催日を分けてみるほうがいいですね。そして『トミクジ』の出番です。この模擬試合の一位と二位…六位くらいまでを予想して、クジ券を購入して、順位を予想してもらいます。見事順位予想が的中された方には賞金を差し上げます」


リーフェは、ピラミッド形のトーナメント方式を見ながら、うんうん…と頷いていたがトミクジの説明になると首を捻っている。


「つまり…誰が強いかを予め予想するんだろう?それじゃあ、ある程度誰が優勝するか分かるから、皆が同じ兵士を選んでしまわないか?その一人一人に賞金を払っていたら膨大な額になると思うが…」


私は喜々としてリーフェにトトカルチョ系統の仕組みを説明した。


そして最終的に、トミクジの仕組みとトーナメントの説明を朝の全体鍛錬の際に説明することになった。


これはプレゼン用の資料も作っておかなきゃね!やることいっぱいあるわぁ~


夕方になってなんとか牛歩状態では動けるようになったので、過保護が炸裂しているリーフェに支えられながら執務室にお邪魔した。


すると帰り支度をしていたバファリアット少将が


「妃殿下、シンシアが直ぐにでもお会いしたいと申しておりまして…明日連れて来ても構いませんか?」


と、微笑みながら声をかけてくれた。シンシアちゃんの話題になると、バファリアット少将は目尻が下がってるわね。


「まあっ!勿論よ、楽しみにしてるわ」


バファリアット少将の娘さんだから、チビマッチョなのかしらね…なんてね。


「あっそうだ!今からお菓子の準備しておかなくちゃ…」


私はリーフェに連れられて今度は調理場にお邪魔した。


料理長に相談しながらこの世界で作れるお菓子の材料はあるのかを確認する。プリン系統は存在するし、焼き菓子やマドレーヌ系も存在するのだけど、苺ショートとか、フルーツタルトをお見掛けしたことがないのよね。


お父様にお聞きしたら、果物をケーキに乗せるという概念がないらしい。これは…腕が鳴るわね。生クリームは製造過程が難しいから要研究だけど、フルーツタルトはタルト生地を上手く焼けばぶっちゃけフルーツは何でもいけそうだし…そう言えばゼラチンはあるのかな…ゼリーも見たことないわね、う~ん。


「ヴァル、今から何か作るのか?」


妙にソワソワしたリーフェが私の背後に立っているけど…


「リアフェンガー殿下、ありがとうございます。もう大丈夫ですので戻って下さいね」


リーフェは美形なはずなのに、妙な変顔をしたまま固まっていた。そしてしょんぼりしながら静かに立ち去って行った。


変なの?居たって何の手伝いも出来ないのにね…

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