煽ってみた

私が白目を剥いて倒れたのが功を奏したのか……目覚めると私の周りにはイケオジパラダイスが広がっていた。


「気が付かれたぞ!」


「妃殿下、大丈夫ですか?こらっ…ライビル!お前ちゃんと謝罪しろ!」


ひえええっ!いつの間にかベッドの上に寝てるし?!しかもおじ様に囲まれている?なにごと?


すると、イケオジ達に小突かれながら、先程チクッと嫌味を放ってきた、まだ若い感じの左頬に傷がある、イケオジ軍団のおにーさまが、私が寝ているベッドの端にやって来た。


「先ほどは…すみませんでした…」


お前は小学生か!……というくらいに目を逸らして私を見ずに謝罪するライビルさん(推定アラサー)


思わずおかしくなって笑ってしまうと、ライビルさんは顔を真っ赤にした。


「ヴァル…もう大丈夫か?」


イケオジの向こう側から将来のイケオジ…リアフェンガーが顔を覗かせてきた。私は体を起こそうとしたが、リアフェンガーに手で制された。


「まだ寝ていろ、無理はするな。お前達、むさ苦しいからヴァルに近付くな」


「殿下、ひでぇ?!」


「むさいのは殿下も一緒……あわわっ!すみません」


…どうやら、この第四班の方々だと思われるイケオジ軍団とリアフェンガーとの仲はこの気安い感じから察するに悪くはないと思う…だからこそ、第四班に対する皺寄せをこのイケオジ達はリアフェンガーに伝えずにご自分達だけで処理しているのではないか?


丁度リアフェンガーもいるし…思い切って聞いてみよう。


「殿下、ここに皆様もおられますし…私からお話させて頂いても宜しいですか?」


私が、イケオジ様達に目を向けるとその中のひとり、顎髭の渋いおにーさまが手を挙げた。


「第四班の班長、サリオと申します。先程、妃殿下が仰っておられた班別けに関することの話…でしょうか?」


私はシーナとエルマに腰にクッションを挟んでもらって、座るのに楽な姿勢を作ってもらってから、ベッドの上で第四班の皆様に向き合った。私の横には怖い顔をしたリアフェンガーもいる。


何故そんなに怖い顔しているのかな?隣のリアフェンガーが気になる所だけど…取り敢えず本題に入ろうかしらね…


「ゴホン…え~と、辺境伯軍に所属の軍人の班別けを見直しませんか?そして四班の方々には各班の指導係に入って頂き、皆様の指導で軍全体の戦力を上げて後任の育成をしてみませんか?」


「しかし…我々が指導などと…受け入れ難いという者もいる…はず…」


言い淀む髭オジサマ達のサリオ班長…見ると四班の皆様の表情に翳りが見える。


「受け入れ難いと仰っているのは具体的に誰でしょうか?」


「…それは」


受け入れ難いと他の軍人とギクシャクしているおじ様達の姿が目に浮かんで来るようだ。間違っているかもしれないけれど…


「それは貴族位のご出身の軍人と王都から辺境に派遣されて来ている軍人達ではありませんか?」


「…!」


リアフェンガーの引き攣った顔と、気まずげな第四班のおにーさま達の表情で、答えはほぼ正解だということが分かった。


しかしリアフェンガー…あなたこんな状態でも何も策を講じてなかったの?


…ふ~ん。これも何となく分かったわ。リアフェンガーだって所詮王都から来た王族…簡単に言うと『都会のお坊ちゃん』だ。辺境に昔から住んでいて狩人として生まれた時からそれを生業にして生活の一部としてきた、辺境出身のおにーさま達とは都会人VS田舎者という…地域性の違いで相容れないままにここまで来ているのだろう。


私は異世界の都会と田舎の地域性からの揉め事と照らし合わせて溜め息が漏れた。


「圧倒的に話し合い不足、理解不足からくる歩み寄りのなさが原因ですね…」


「ヴァル…それは…」


オロオロしているリアフェンガーをチラリと見てから、顔色を失くしている第四班の面子を見回した。


「ここ三年間の第四班の皆様の討伐実績が、異常なぐらい高いですね。勿論、皆様の腕が良くて討伐率が上がっているとも言えるでしょう。ですが、それと比べて実働していない班も存在します。四班の皆様は討伐に出ていますか?無理を強要されていませんか?」


ぶっちゃけ実働していない班の構成は見事に貴族位の軍人ばかりだ。今までは実働していなくても穀潰しでも、見逃されていたのかもしれない。


フフフ…私が来たからには役立たずは肩を叩いてあげるわよ?


イケオジ様達は唇を噛み締めていて何も言ってくれない。ヤダよ?もしかして男同士での陰湿なイジメでもされてるんじゃないのかな?


異世界での自分より仕事の出来る後輩を苛めてる、とんでもねー屑社員(しかも総じて不細工面)の面々を思い出して胸糞が悪くなる。


「まあ誰が戦闘能力が無い者かはすぐに判明する方法がございます。『トーナメント戦』を行いましょう」


「とーなめんと?」


リアフェンガーとサリオ班長の声が被った。


私はニンマリと微笑んだ。ええ…ええ…恐らく傍目から見ると私の顔は悪役令嬢が如くの悪い顔であったと思いますよ。


「ええ、勝ち抜き方式の模擬試合とでも言えば宜しいでしょうか?辺境伯軍に所属する事務員以外の全隊員に参加してもらいます。そこで優勝すれば賞品を差し上げます。その模擬戦により、剣技の腕前の程も分かります。その結果を持って班別けを実力差の無いように振り分けさせて頂くというのは如何でしょうか?」


私はそう伝えるとリアフェンガーは顎に手を当てて考え込んでいる。さあ悩め悩め~でも貴族位であることで威張り散らしている軍人に力の差を見せつけて、分からせる為にはこれしかないじゃない?


「しかし勝ち抜き戦をするとしても、皆…魔物の出没による討伐が急に入るかもしれない。全員が模擬試合に参加出来ないかもしれないじゃないか?」


まあリアフェンガーの言う通りね。


「でしたら、トーナメントを棄権して頂いても構いませんわ。その代わり日を改めて棄権された方々だけで模擬試合を行ってもらいます。それでも棄権者が出た場合は棄権は五回までは認めましょう。五回も棄権だということは軍属である見込みがないということで除隊を促すことも可能なはず…これは身分や出身は関係ありませんよ?やる気の無い方は軍に身を置いておかれても、軍全体の士気を下げるだけですし…何より無用な怪我の原因になります。自ら弱いと認めたい方は早々に負けて頂いても構いませんしね…」


私はホホホ…と笑いながら四班のおにーさま達を見た。


「もしかすると新人の若い方が優勝されるかもしれませんし…ご高齢の方々の出番ではないかもですねぇ~」


思いっ切り四班の皆様を煽ってみた。


「…!!」


四班のおにーさま達は案の定、顔色を変えた。誰が格好良く勇退なんてさせてあげますかっての…未だ持って現役バリバリの狩人らしい魔力と闘気を持っている方々だもの…自ら負けを認めてすごすごと引っ込むはずが無い。


私は留めの一撃を打ち込んだ。


「誰が棄権されるのか楽しみですわね!」


「…っ…私は模擬試合に出ますよ!」


おおっ!左頬の傷のあるライビルにーさんが見事に煽られてくれた!


「俺も出ますよ!」


「俺も参加します!」


おおっイケオジ様達がやる気に満ちた魔力を放ってきた。


「俺も出るよ」


「!!」


突然のリアフェンガーの参加表明に皆、驚いてリアフェンガーを見た。リアフェンガーが煽られてどーすんだよぉ?!


「どうしてリアフェンガー殿下が出ますの?」


つい…ね、つい言ってしまったのよ。リアフェンガーってもっと冷静かと思っていたのだけど…私のこの一言で盛大に拗ねてしまったみたい。


四班のイケオジ様達が退室した後に、まだムスッとしているリアフェンガーがちょっと可愛いな…と思ったので声をかけた。


「リアフェンガーが模擬試合に出ましたら勝負にならないでしょう?」


「どうしてだ…」


まだ声がいじけている声音だ。私の寝ているベッドから少し離れたソファに座って顔を背けている。


「だって殿下強いでしょう?リアフェンガーと当たる隊員が試合前から負けちゃうと思ってやる気が削がれちゃうしだろうし…」


私の一言でリアフェンガーの機嫌が直った。


「俺が優勝したら賞品、何がいいかなぁ~」


…リアフェンガーがなんだかこちらを見て笑ってませんかね?なんだか果てしなく嫌な予感がするんだけど…まさか四班の強そうなおにーさま達がいるし、まさかリアフェンガーが優勝するなんて…ないよね?

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