イケメンを刮目せよ
私は辺境伯軍の討伐関連の報告書を見て考え込んでいた。この報告書は先程、執務室に届けられてジル=グルフーリ様が受け取ったものだ。
今、辺境伯軍はどれくらいの人数で構成されているのですか?
とジル=グルフーリ様に私が聞いたのがきっかけだった。そのまま続けて質問を続けていると、私が軍の運営に興味があるのだと気が付いたらしいガイト=バファリアット少将が、軍の内部資料を見せてくれたのだ。
軍の各班のパワーバランスが悪い…いや?そもそも討伐実績だけでは全体の戦力の判断はしにくいものがある。だったら、面接や実技で確認してみるのはどうだろう?私に戦闘技能云々の優劣の判断は出来ないので、そこはお手間をかけるけれど、妾妃様達にご協力を頂くのはどうだろう…そうだ、そうすれば妾妃様達ともう少し歩み寄れるだろうし、私が無害なただの正妃だということも理解してもらえるだろうしね…歩み寄り大事。
「殿下…」
「は…はいっ!」
リアフェンガー殿下が小学生みたいな元気な返事を返してきた。
「……?…え~と辺境伯軍に所属の軍人の班別けを一から見直しませんか?そして四班のご高齢の方々には各班の指導係に入って頂いて、軍全体の戦力を上げるのは如何でしょう?そうすれば後任の育成も出来ますし、一つの班にシワ寄せが行かないですみます」
何故か戸口で、リアフェンガーとリード=ピレビュー少尉が直立不動で立っている。私が説明しながらリアフェンガーを見上げると、リアフェンガーは直ぐに私の傍にやって来た。
「しかし班別けの選別も難しいぞ…今は空きが出来た所に新人を入れるか、各班の班長や部隊長に任せているが…」
「……」
結局、班別け人事にはリアフェンガーはノータッチだったという訳か。これはもしかすると四班のご高齢のおじーちゃまが止めたいと言い出すような、無理矢理なローテーションを組まされていた可能性もあるわね。
私はリアフェンガーに笑顔を見せた。
「では、なるべく早めに四班のおじーちゃま達と面接を行いたいですわね」
その後…私はリアフェンガーに質問を繰り返していた。
「討伐した魔獣の扱いはどうなっていますか?」
「魔石の加工、魔獣の肉、皮、骨…これらの選別はどこかの商社に一括で卸していますか?」
リアフェンガーも最初は言い淀んでいたが、今はすぐに質問に答えてくれる。きっと私という異世界人で婚姻相手だが得体のしれない女を警戒されていたに違いない。
今でも、ジル=グルフーリ様から時々探るような目を向けられる。
私はあなた方の敵ではありませんよ?辺境伯領の領地管理を任された管理官だと思っていただけたら幸いですわ…オホホ。
私が資料とにらめっこをしている間に、随分と時間が経っていたようでリアフェンガーに
「ヴァル…そろそろ夕食を頂こうか?」
と声をかけられて、初めて夜になっていたことに気が付いた。
そしてなんと……リアフェンガーに連れられて向かった先は大きめの広間だった。夕食ってこんな所で食べるの?と思っていたら…
広間に入ると、沢山の軍人さんがいた!しかもこっちに向かって突撃して来た!
「いらっしゃったぞーー!」
「ようこそっヴァレリア妃殿下!」
「ぎゃ!……失礼しました」
急に押し寄せてくる筋肉圧に悲鳴を上げてリアフェンガーに抱き付いてしまった。リアフェンガーは私を支えるように腰に手を置くと叫んだ。
「皆っ…本日より我が辺境伯領に女神が舞い降りた!」
女神?!え?どこどこ?
思わずキョロキョロしてみたが、筋肉達の雄叫びの声と何か分からない興奮した魔力?で体が押されてまた、リアフェンガーの方に倒れ込んでしまった。
「我が女神と共にっホーストの誉れ高き戦士たちよ!今宵は楽しんでくれ!」
女神がどこに降臨されているのか…筋肉達の大騒ぎで結局、分からなかった。何せさっきから筋肉達に周りを取り囲まれて質問攻めにあっているのだ。
数十人に一斉に話しかけられて答えられるっかって!聖徳太子じゃねぇよ!
そんな時、広間の空気が変わった。魔圧の揺らぎ?みたいなのが大きくなり人垣が割れて…推定年齢四十代くらいのイケオジというにはまだ若い…集団が広間に入って来た。
「ヴァル…彼らが第四班の御大達だ」
「えぇ?!おじーちゃんじゃないよ!ご高齢っていうから六十才は越えてると……失礼致しました。ヴァレリアでございます」
ご高齢で年を理由に引退しようとしていた、おじーちゃんとは聞いていたのに…どこがジジイなんだよっ!私の恋愛ターゲットの範疇内の年齢だし、寧ろご馳走様です!
って言いたくなるくらいイケオジ集団じゃないの!
慌ててイケてるオジサマ達にカーテシーをしてご挨拶をした。
すると、イケオジ集団の一番手前にいた軍人が吐き捨てるように呟いた。
「…ふんっ……殿下も大変ですね、シュージアン殿下のお下がりを押し付けられて…」
……おいっ?
「…っ!!」
その発言にムカっと来た私の横で、激しい魔力圧を感じた!これは……?!
「ヴァルを侮辱するのは許さん…ヴァルのことをよく知りもしないで…!」
リアフェンガーだあぁ?!
リアフェンガーの魔圧がドンドン上がっている…ど、どうしよう?!
「リアフェンガー殿下…大丈夫です。あの、静まって?」
必死でリアフェンガーの腕を掴んで押さえようとしたが、リアフェンガーはイケオジに私を抱き寄せたまま詰め寄ったので、体ごと前に引っ張られてしまった。
「殿下っ!」
「…っ!」
リアフェンガーのあまりの魔圧に皆も殺気立ってきた。私も腰を殿下に押えられているので、身動きが取れないまま魔圧に耐えかねて、とうとう足がふらついてしまった。
「殿下!きゃ…!」
ドテッ…という効果音が聞こえそうなくらい足が滑って転んだ……胸を強打した。痛い…かなり痛い。悶絶しているとリアフェンガーが悲鳴を上げた。悲鳴?
「ヴァ…ヴァル?!ヴァル大丈夫か?!」
大丈夫じゃねーよ……痛みを堪える為に体を丸くしていると、その体ごとリアフェンガーが抱き抱えてきた。
「ヴァル…ヴァル…ごめん」
どうやらリアフェンガーの魔圧は治まっているみたいだ。リアフェンガーがこんなに激高するなんて思わなかった…怒鳴られたイケオジは顔色を失くして茫然としている。
私は何とか痛みを堪えながら、イケオジに話しかけた。
「確かに私はシュージアン殿下から婚約破棄を申しつけられました」
「ヴァル?!」
また叫んだリアフェンガーに少し手を挙げて制してから、再びイケオジを見た。
「私はリアフェンガー殿下に助けて頂いたのです。リアフェンガー殿下はこんな私にとても優しく接して下さいました。ですから…ですから私を蔑まれるのは構いません。私個人を嫌って頂いても構いません。ですが、リアフェンガー殿下を貶めるような発言はお止め下さい。それと第四班の皆様にお願いが御座います。班別けに関することでお話をする場を設けて下さいませ」
「……」
イケオジ集団は驚愕の表情で私を見ている。
言い切って力尽きた私は放心状態だった…やり切った感で満足していた。そしてうっかりと忘れていた。
体がフワリ…と持ち上がり、ん?と思っている間に、広間に設置してあったと思われるソファにいつの間にか移動して座っていた。
え~とリアフェンガーに抱っこされたまま…つまり私は抱っこされたままリアフェンガーの膝の上に座らされているのだ。
「…」
「あの…殿下…」
堪りかねてリード=ピレビュー少尉が声を掛けてきた。
「なんだ?酒はあるだろう?好きに飲んでいろ」
リアフェンガーは私を抱っこしままリード=ピレビュー少尉に素っ気無く返しているけど…待て待て待ていぃぃ?!
おかしくないか?私を抱っこしたまま膝の上って何?なんなの?周りの筋肉達もツッコんでいいのか、このまま放置していいのか、皆オロオロしているから!
誰か助けて~~~
と思って周りを恐る恐る見ようとしたら、リアフェンガーの右手にグイィと顔を掴まれて、抱っこの近距離で『この世で一番美しいのはリアフェンガー殿下でぇす!』の顔をドアップで真正面から見えるように顔を向けられてしまった。
あ……見ちゃった。真正面からリアフェンガーの瞳をマトモに覗き込んでしまった。
これヤバイヤツだ……あまりの美麗な顔のドアップに目の焦点がおかしくなる。
耳鳴りがして………頭が真っ白になってきた。
私はイケメン光線を浴びてそこで失神したようだった。
後ほどガイト=バファリアット少将にお聞きした所、この時のリアフェンガーは面白いくらいに、慌てふためいて取り乱していた…とのことだった。
私のイケメン耐性が低くてお騒がせしてすみません……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます