そりゃアンタ…鏡見てみなさいよ

コツ…コツ…コツ…大広間に向かう私とリアフェンガー殿下の靴音だけが響いている。


私は緊張している…それは自分だから分かる。だけど、リアフェンガー殿下の手が震えてるのよ、なんで?あの余裕綽々のお色気殿下のリアフェンガー殿下だよ?


緊張しているの?何に…分からん。


「殿下…」


私が声をかけるとリアフェンガー殿下がビキッと体を強張らせたのが分かった。何かをビビッているのかもしれないが、事前通達大事。


「実はマリエリーナ様が私と同じ色合いのドレスを着用していると…聞いたのです」


「…それは!」


リアフェンガー殿下の手の震えが止まった。私は殿下を見上げた…黒の詰襟が視界に入ったので…慌てて殿下の綺麗な喉仏辺りに目線を持っていった。


「嫌がらせか…」


「はい…」


リアフェンガー殿下は立ち止まると、私に向き合った。殿下の魔力がググッ…と上がったのを肌で感じた。


「ヴァレリア…いや、普段は皆になんと呼ばれている?ヴァレリーか?ヴァルか?」


ここでそんな話題?!近衛とか侍従…メイドのお姉様もいるけど?思わず目を泳がせると…流石は王城勤めの使用人の皆様だ、誰も私と目を合わせてくれない。


誰か…助けてぇぇ


「ヴァル…と呼ばれています」


「じゃあ、今日からヴァルで…私はリアフェンガーかリアで…」


手…手の甲にチュゥ…てキスされた!!


リアフェンガー殿下…リアフェンガーは色っぽく微笑むと私を引き寄せた。


「ヴァル…君は美しい。この城内で…いやこの国一番の美しさだ。お仕着せを着ていようとも、軍服を着ていようとも…その美しさは損なわれない。自信を持て、君は私の妃だ」


背筋が伸びる気がした。そうだ…私は辺境伯…この国の王弟殿下、リアフェンガー殿下に嫁ぐ。私も王族の末席に加わることになる。


リアフェンガーの横に立つ…自信を持て、矜恃を示せ。そう言われた気がした。


私は姿勢を正した。リアフェンガーも背筋を伸ばして、私に腕を差し出した。


そう…私は妃教育を受けてきた。負けたくない…


扉の前に立ち大広間にリアフェンガーと一緒に入った。そして広間の中を見た…マリエリーナを捜してみた。


ああ…あらら?おおぅ…と思ってしまったが、何とか顔に出さないように笑顔を浮かべた。


なんじゃありゃ~~?!


シュージアン殿下は国王陛下の隣に立っているんだよね。うん、それは分かる…で、マリエリーナはまだ正式な婚約者でもないのに、堂々と隣に立ってるんだよね…例の嫌がらせの青色のドレスで……そのドレスどこで買ったんだ?まさか既製品だよね?


学芸会かっ!


チンチクリンのマリエリーナがふわりとした裾の広がったドレスを選んだのはOKだ。ただ…マリエリーナにはその深い青色は似合わない。


あんたはパステル系の色にしておけ!青色のドレスを着たいならせめて、ビリジアンブルーとか薄い水色にしておかなきゃ…私が着ているドレスに何が何でも寄せた色を使いたかったから、無理くりプルシアン系の色を強引に着てみたんだろうけど?


アンタ鏡、見たのか?


いくらなんでもその色は似合わないだろう?ピアノの発表会で頑張ってみたよ!状態じゃないか…取り敢えず、後でマリエリーナの請求書を確認しておこう。あのドレス購入で無駄な出費をしているならドレス代を男爵家に払わせよう。


私とリアフェンガーはゆったりと広間を移動した。私達が動く度に周りから感嘆の声が上がる。


「綺麗……」


「美しいな……」


そりゃそうでしょ~帝国軍の司令官様(妄想)の黒の詰襟だよ?リアフェンガー殿下様のお通りだよ?美しいに決まってるじゃない。今日の私は美しいメインディッシュのリアフェンガーに添えられた茄子の煮物だよ。いいさそれでも…私には派手な色が似合わないからね。シックが一番!地味が一番!


それにしても…あ~あ、マリエリーナさぁ周り見てみなよ?色が私ともろ被りなもんだから、プークスクスで皆から笑われてるよ?まさかまたひん曲がった解釈をして


「プークスクス、私とドレスが同じ色でヴァレリアが笑われてるー」


とか思ってんじゃないの?まあ、発表会頑張ったもんドレスでこの後の夜会で更に笑われるのは目に見えてるけど…


「ヴァル…やはり君が一番美しいな…」


隣から急にリアフェンガーが囁いてきたんだけど……いやぁ~?それはナイナイ!!


私は横を歩くリアフェンガーに少し体を寄せた。


「一番美しいのはだぁれ?」


「それはリアフェンガー殿下でぇす!」


と私が某鏡さんならこう、叫んでいることだろうよ。と思いつつ…


「殿下……この世で一番美しいのは…リアフェンガー殿下でございますよ」


某鏡さんのように、イヒヒ…と思いながら耳元に囁いてあげた。


「…っ!」


うわっとととっ!……リアフェンガーが何かにつまずいたのか、足を引っ掛けそうになっていた。どうしたの?すぐに体勢を立て直したけど…大丈夫?


何だかヨロヨロしているリアフェンガーと私は国王陛下の前に立った。


その後、国王陛下から長ーーい祝辞を頂いてから婚姻誓約書に署名をした。名前を書き入れると魔術印が輝く。


うわっ!これが噂の魔術婚姻誓約書ね…じゃあこの後…ドキドキして婚姻誓約書を見ていると用紙がピカーッと光り、用紙がクルクルと宙に舞うと綺麗な一輪の白薔薇に変化した。


可愛い!綺麗っ!これが婚姻式の『白薔薇の婚姻届』かぁ~映えるな!なにより綺麗だし、演出として最高よね。ん……はわわっ?!リアフェンガーが舞い落ちた白薔薇を手に受け取って微笑んでいる。周りの女性達から悲鳴があがっている。


帝国軍の〇インハルト閣下(旦那)と白薔薇!!!


ああぅああっ…なんて萌える構図!素敵…


「殿下、素敵…」


…心の声が駄々洩れした。だが結構小声だったので、白薔薇と殿下を見て悲鳴と歓声をあげていた人達の声で上手い具合にかき消されたっぽい。


リアフェンガーの顔を見上げると……うっかりと目が合ってしまった。しかも熱っぽい目でこちらを見ていたリアフェンガーから


「ヴァルも素敵だよ」


と返されてしまった。


…………憤死するかと思った。顔が真っ赤になっていたと思う。


その時…私は見ていなかったのだけど、マリエリーナとシュージアン殿下が私達を睨みつけていたそうだ。


さて、式が終わった後はご挨拶を兼ねた夜会があるのだけど…実はここで私はお色直しをするんだよね~


着用するドレスは白!純白の白…そして宝石はリアフェンガーの瞳の色を模した宝石だ。これは偶々、シュージアン殿下の瞳の色が同じ色だった…ってだけなんだけどね。


「本当に白にするのか…」


「はい、これは異世界の婚姻式で好んで選ばれている色なのです。リアフェンガーの好みの色にして下さい…そんな想いも籠められています…あれ?どうされました?」


話している最中にリアフェンガーが廊下の端に移動して壁に向かって手を付いている。どうしたんだろう…


「ヴァレリア様、殿下…そろそろ」


「あ、はい」


ジル=グルフーリ様が呼びに来られたので、控室にしていた客間から、リアフェンガーと一緒に廊下に出た。


あれ?リアフェンガーのエスコートする手が震えている。また緊張しているのかしら?


結局…ずっと手が震えていたリアフェンガーは、大広間の二の間(宴会場みたいな広間ね)に着く頃には、手の震えが治まっていた。


人前では緊張する方なのかな?


私とリアフェンガーが夜会の会場に入ると、また歓声が上がった。そして、戸惑いの声も一緒に聞こえる。お色直しの私の衣装の色が純白だからだろう。


さてさて…発表会がんばったもんドレスを着た、マリエリーナはどこかな~~~


いたいた……ちょっと?!何だその着丈の長いマーメイドドレスは?しかも色が白!!……良く見付けたね~じゃなくてっ!チンチクリンにマーメイドドレスは危険だよ…それにだね、夜会の会場でマーメイドドレスは…


「きゃあ…!」


案の定…私に気が付いてこちらに近付こうとしたマリエリーナは、ドレスの裾を自分で踏んづけて、転んだ。


まさにプークスクス状態だった。


あのマーメイドドレス…私の純白のドレスにまたも被せてやろうとしたんだろうけど、夜会の会場なんて動きにくい所でマーメイドはやめておけ。


私は、あのチンチクリンの二着分のドレスの請求書も手に入れなきゃな…とか癇癪をおこして叫んでいるマリエリーナを見ながら考えていた。


余談ではあるけれどマリエリーナの発表会ドレス2着分の請求書を確認し、伯爵子息の家に送りつけておいた。


マリエリーナはセフレ一号(疑)の伯爵子息とシュージアン殿下と共に、ドレス工房で国のツケ払いにしてドレスを買ったんだってさ!リアフェンガーが調べてくれてそれ聞かされた時に、請求書はすぐに伯爵家に送りつけたよ。


え?なんで伯爵家かって?これ以上税金を一円でも無駄に使わせるかって言うの!息子が拭けないなら愚息のケツは親が拭け!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る