緊張しますけど…

翌日…メイドのシーナとエルマとフリージア…そして護衛のギリディと新たに私の護衛になった元近衛のタウロエ卿とジーレイ卿の総勢七名で城下町の菓子店が多く並ぶ通りに来ていた。


「お嬢様、こちらは?」


「ここの蒸し菓子は有名ですよ~」


「まあ!新作ですって…」


女子三人は一斉に違う店を指差してから…慌てて私の背後に戻って来た。女の子だもんね?甘いもの好きなんでしょ?はしゃぐ気持ちは分かるわ。


「好きなお菓子は人それぞれですものね、沢山の種類を準備しましょうか?それに私達で頂くお菓子も…ね?」


そう言って私が笑うと女子三人が歓喜の声をあげた。


そして一件一件…念入り?に菓子店を吟味して歩いた。男性陣には退屈だっただろうと思うので、何度かお茶休憩を入れて足を休めることもした。


「付き合わせてごめんなさいね」


私が、是非同じテーブルでお茶を!と言ったので渋々だが護衛の男性三人も私の隣の席でお茶を飲んでいた。護衛のギリディは私のこんな行動には慣れているので


「気にすることありませんよ、お嬢様は元異界人ですので…ちょっと普通の令嬢とは感覚が違うのですよ」


とか、結構失礼な事を発言している。まあ、でも当たっているので仕方が無い。


マリエリーナ様に扇子で叩かれちゃってたタウロエ卿…ダークブラウン色の髪の美形様が、キョトンとした顔で私に聞いてきた。


「あのヴァレリア様…異世界人とこちらの世界の人と違いなどはあるのでしょうか?」


卿の言葉に皆が一斉に私を見た。顔には興味津々ですと書いてある…


「ん~そうですね。向こうの人とこちらの人では身体的な構造はほぼ同じ作りですね。決定的な違いと言えば…あちらの世界には魔法が無いの。だからそれを補う為に工業分野が飛躍的に発展している世界なんです。移動は電気…魔力の代わりのような力で動く乗り物を使っているし、空を飛んで数百人規模を同じ乗り物で移動させることが出来るかな。それと空の向こう…かなり上空まで飛べるのですよ?この話は専門的な事だし難しいからまた追々」


私の話を聞きながらポカーンとしている皆…まあ分からないわよね。


「取り敢えず、決定的に違うことは魔力が無いことでしょうか?」


「それは不便ですね…」


ジーレイ卿(実は公爵家の三男)が困ったような顔をしている。魔法が使えないというのを想像しているのだろう。


「最初からありませんからね、その代わり便利な発明が沢山あるのですよ?私はあちらの世界の叡智をこちらで魔術と合わせて使ってもらえるように伝える…くらいしか出来ないけれど…いわゆる、手に職を持っていなかったし…」


「あ、ヴァレリア様は働いておられたのですか?」


タウロエ卿の驚いた顔に、ああ…そうか卿達はまだ二十代前半だものね


「はい、大きな商会で事務の仕事をしていましたの」


そんな世間話をしながら数件の菓子店を周り、ランクを分けると松・竹・梅の三段階くらいの種類の菓子詰め合わせを準備出来た。


大量の箱菓子を城に持ち帰って、ホースト辺境伯領に持って行く荷物に詰めた。これで愛人…妾妃様達へのご挨拶もばっちりだろう。


さて…いよいよ明日は婚姻式本番です。


◇ ◆ ◆ ◇


婚姻式の日の早朝…私は一人で起き出すと、自分で作ったヨガパンツもどきに着替えた。


昨日は興奮して眠れなかった…それはそうだろう、一応自分の結婚式だ。


私、これから辺境伯で上手く立ち回れるだろうか。異世界の知識とこちらの世界の貴族の知識…教養とマナー、両親は私に惜しみなく与えてくれた。それに応えようと自分なりに必死だったし、努力もしてきたつもりだ。それでも一夫多妻状態の人の所へ嫁ぐなんて…個人的には嫌悪感しかない…正直、不安だ。


でも私は大丈夫…リアフェンガー殿下の愛を得る為に妻になる訳じゃない。競うことは絶対にないし、私には別に仕事がある。


全身を解して、軽い筋トレをした。暫く動いていると汗をかいてきた。吹き出した汗をタオルで拭き、再び寝間着を着た。おっ…朝日が昇り始めたね…窓を開けて外の空気を入れた。


日が昇り…使用人達が動き出した気配がする。ベッドの端に腰かけて深く深呼吸をしていると扉が静かにノックされた。


「おはようございます、ヴァレリア様」


「おはよう、シーナ」


静かに入って来たシーナの後ろにエルマとフリージア…そして婚姻式の為に手伝ってくれるメイド達がゾロゾロと入って来た。


「本日は宜しくお願い致します」


私が笑顔でそう声をかけると、メイド達は一瞬ポカンとしたがすぐに笑顔になると


「本日のヴァレリア様のご準備お手伝いさせて頂きます」


と皆さんが一斉にカーテシーされた。さあっ女子の戦場だよねっ頑張るぞーー法螺貝吹くぜ!


まずはお風呂に入れられた。いつもお風呂なんて体全体をササッと洗って、湯舟にサッと浸かって終わりだけど…花嫁さんってそんな指の間まで念入りに洗うの?頭洗うのにそんなに時間かかるの?


恥ずかしいけど全身をピカピカに磨き上げて頂きました。正直…お風呂ですでに疲れている。朝風呂の習慣はないので体が怠い…体をタオルで念入りに拭かれた後は、数人がかりでドレスの着付けをされ…髪も同時にセットしていく荒業で準備をされています。


立っているのに半分寝かかっている私…


「コルセットが無いドレスってこういう質感なんですね~」


「座っている時にお腹の締め付けが無いのが女性には有難いかも…これは流行るのでは?」


「それにしてもヴァレリア様の体…綺麗だわ~羨ましい!」


一口サイズのクッキーを無意識に口に入れ、眠気と戦っている私の着付けをしながらメイドの方々は私のドレスを褒めたり、私の魅惑ボディを褒めたりと忙しい。


「ほら、お嬢様…しっかり立って下さいませっ…出来ましたよ」


「ふわ…え?」


シーナに肩を叩かれて、うたた寝しそうになりそうな体を動かして、全身鏡の前に移動して自分のドレス姿を見た。


眠気が吹っ飛んだ!なにこれ?!妖精さんがいるよ!あっこれ私だ…!ぐへへ一度はやって見たかったベタなボケだけど、前世の私のずんぐりむっくりの体型じゃあ、こうはならないもんね!いやぁ~美ボディって素晴らしい!お父様とお母様の遺伝子よっありがとう!良い働きしてくれてるよぅ~


「きゃあ素敵です!」


「流石ヴァレリア様!」


「ちょっとぉ!大変よぉぉ?!」


褒めちぎっていたメイド達の声に被せるようにして、リアフェンガー殿下の所に行っていたメイドのお姉様が息を切らせて帰って来た。


どうしたんだろう?


「今…来賓の方々が式場に入っているんだけど……あ、あっあのマリエリーナ……様が…」


メイドのお姉様一瞬…マリエリーナの後の『様』付けを忘れそうになってたね。


「あのマリエリーナ様がっヴァレリア様と同じ色のドレスを着ているのよぉ!」


飛び込んで来たメイドのお姉様の叫び声に皆が悲鳴を上げた。


「ええっ!」


「婚姻式のドレスの色は事前にお知らせされているわよね?」


「だから来賓の方々も色が被らないように気を付けるのが…まさか?!」


「なんて方なんでしょう?!わざわざ同じ色を着用されるなんて!」


「嫌がらせよね?!」


メイドの方々の悲鳴と憤怒の声が沸き起こった。


私は自分のターコイズブルーからサファイアブルーのグラデーションのかかっているマーメイドドレスを見下ろした。


私の外見といい、このシックで上品なドレスは魅惑のボディと相まって私に非常に似合っていると思う。


ん?待てよ?私に似合っているということは……?


その時


部屋の扉がノックされて………軍神の化身様がご来訪された。目が…目が…!


「リアフェンガー殿下!」


メイドのお姉様方が歓声をあげて、そして物凄い悲鳴もあげていた。


ええ、ええ…最早恐怖すら覚えるほどの目が潰れるほどのリアフェンガー殿下ですよ。おや…あまりに眩しいのでよく見えないのですが、それは軍の制服でしょうか?ああ、つまり式典などに着用する礼服でしょうか?


帝国軍万歳!


すみません…ヤ〇・〇ェンリーより、〇インハルトが好物です。お召になっている軍服は黒ですよね?黒に金に銀!萌えというより詰襟の黒は世の常識ですよね?


ああ、目が潰れていなければリアフェンガー殿下の勇姿を心のシャッターを押しまくって、フォルダーに永久保存させて頂くのに…


「……」


しかし軍神の化身、リアフェンガー殿下は戸口で固まっていた。どうしたんだろう?まあ眩しいから目が慣れるまで遠距離に離れていてもらっても構わないのだけど…


「リアフェン……」


私が呼びかける前に、フワッと風が起こって何かが顔の前に来た。柑橘系の良い匂い……リアフェンガー殿下が目の前に?!今、近付いて来ているの見えてた?え?え?


「………」


恐々顔を上げるとリアフェンガー殿下の目と目が合った!殿下の瞳孔がクワッと開いていますよっ?!


殿下は至近距離で鼻息荒く、スーハースーハーと謎の深呼吸をした後に、私の前に跪いた。


「………宜しくお願いします」


「……はい、宜しくお願いします?」


殿下が手を差し出されたので、私は殿下の手に自分の手を重ねた。


それ言う為だけにその動き?一体なんだったんだ?

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