エピローグ①




呆気ない最期を迎えたあの大戦は終戦と言っていいほどの落ち着きを見せ、世界は再び平和を取り戻した。

イセンドラスは、新たなる女王の名の元に全面的な戦争停止と降伏を宣言した。講和会議では、ジルトレア軍の駐留とイセンドラス軍の解体をする代わりに食料や物資を援助する事で合意した。賠償金は無しとなった。

また、ネオルカからの要求は、平和のみであった。


この講和条件に地球人の多くは軽過ぎるのではないかと揉めたが、イセンドラス側の恨みや妬みを買わないようにするために、そのような条件となった。

また、黒白を始めとするS級魔法師の多くがその条件で合意したのも、今回の講和が締結された要因の1つだろう。


その後、ジルトレアは解散する事も一次は考えられたが、世界連合の代わりを担う組織という事で、存続される事となった。取り戻した土地の多くは、貢献度に応じて各国に分配された。

ジルトレアは、戦争をもう2度と繰り返さない事と魔法の軍事的な理由を防ぐという目的てこれからも活動するようになった。


また、ホーン岬にはジルトレアとイセンドラスが共同で慰霊碑が建てられ、戦争によって亡くなった人達を弔った。


それぞれの星における不満や憎しみの炎はまだ消えていないものの、これで戦後処理は全て終わった。


そして、結人、咲夜、美月の3人は終戦とともにS級魔法師を引退した。

後に3人はS級の一つ上の級位として『レジェンド』と呼ばれる事になる。



✳︎



「結人、あなたは今、咲夜さんを妻とし、龍の導きによって夫婦になろうとしています。汝、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、敬い、慰め遣え、共に助け合い、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」


「はい、誓います。」


とある小さな教会で、結人は永遠の愛を誓った。

来賓として、それぞれの家族や解体された『夜明けの光』元メンバー、S級魔法師、各国のトップなどが勢ぞろいしていた。なんというか、豪華なメンバーである。


「咲夜さん、あなたは今、結人を夫とし、龍の導きによって夫婦になろうとしています。汝、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し 敬い、慰め遣え、共に助け合い、その命ある限り 真心を尽くすことを誓いますか?」


「はい、誓います。」



ウエディングドレスを身に纏った咲夜も、何故か牧師役に立候補したリエスの言葉にうなづく。


「では、指輪の交換を・・・」


「「はい。」」


2人は、それぞれ亜空間からお揃いの結婚指輪を取り出す。邪魔にならない程度の小さなダイヤモンドの付いた指輪を順番にそれぞれの左手の薬指にはめる。

少し戸惑いながらも、しっかりと行った。


「では、誓いのキスを・・・」


リエスは、そう言って少し後ろに下がる。


「恥ずかしいですね、結人さん。」


「だいぶね、こんなにみんな集まるとは思わなかったし・・・・・・」


「そうですね・・・・・・では結人さん、ビシッと決めて下さい。」


咲夜は、誰にも聞かれないほど小さな声で結人に思いを伝えた後、ゆっくりと目を閉じだ。


「うん、これからもよろしくね。」


2人とも顔を赤らめながら、唇を合わせた。

1度目を開けて微笑みあった後、もう一度深くて甘いキスをした。



✳︎



海辺の小さな公園のベンチに腰を下ろし、元気に走り回る子供達を見ていると、赤いボールが1つコロコロとこちらに転がってきた。


「よいしょっと。どっから転がって来たんだこれ?」


辺りを見回すもボール遊びをしている人は見当たらない。しばし、キョロキョロしているとトタトタと覚束ない足取りでこちらに寄ってくる人影があった。


「あ~、こんなところにあった~!おにーさん、それわたしの~」


少女は、自分のボールを持った新婚の夫婦だと思われる2人の元へと近づいた。

2人の指には、キラリと光る指輪がある。


「君のだったんだね。はい、どうぞ」


「ありがと~!」


ボールを取りに来た幼女が満面の笑みでお礼をした。まだ小学校になっているかどうかといったぐらいの子で、とても可愛らしい子だった。


「おにーさんとおねーさんもいっしょにあそぼう!」


「どうする?咲夜。」


「せっかくなので一緒に遊ばせてもらいましょう。」


「わかった。」


ベンチに手を繋ぎながら座っていた2人は、うなづき合うと、立ち上がった。


「うん、いいよ、何して遊ぶ?」


「やったーー!!」


少女は嬉しそうに叫ぶ、2人は手を引かれて子供達の輪に入った。


「じゃあいくよ。」


「いいよ。」


「それっ!」


どうやらドッジボールをするらしく、可愛らしい速度でボールが飛んできた。もちろん、こんなへなちょこボールに当たるような2人ではない。

落ち着いてキャッチをすると、先ほどボールを投げた少女に向けてゆっくりと返す。


「おにーさん達って魔法使える?」


「うん、使えるよ。見てみる?」


「わーい、見せて見せて〜」


「行くよ〜氷魔法<アイスアート>!」


ほんの数秒で新たにゼロから構築した魔法式に魔力を流す。

公園のほとんどを埋め尽くす程の巨体な魔法陣が構築され、地面が一瞬のうちに氷ついた。

そして、コースアウトしないための壁を付け足す。そして、あっという間に小さなスケートリングが完成した。


一連の動きを見ていた子供達は、すぐにそれぞれ思い思いに滑り始めた。

転んだり、壁に衝突してしまった子もいれば、スイースイーと上手に滑る子もいる。

親御さん達は、魔法を行使した夫婦を見ながらなんてすごい魔法だ!と興奮していた。


「おにーさんすごい!先生の魔法よりすごいよ!」


「当然です!結人さんはすごいんですよ!世界で1番カッコいいんです!」


「え〜〜でも私、黒白様の方がカッコいいと思う〜」


女の子は、無邪気に笑う。

こんな笑顔が見れたなら、あの戦いにも意味があったのかもしれない。人類とイセンドラス、両方の明日を守ったのだから。

きっと、これが両星の未来に繋がるはずだ。


「結人さん。」


ふいに、服の裾を引っ張られ、後ろを振り返る。


「どうした?」


「私、子供が欲しくなっちゃいました。」

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