#28 英雄の目指した世界
やぁ、私だ、イセンドラス宰相のトディア=クレストだ。
何々?そんな事はもう知っているって?
すまないな、一応これは遺書という事になっているのだが、私にも遊び心というものがあるのだ。
この国に使えて数千年、毎日のように堅苦しい文章ばかり書いていたからな、最後ぐらいは大目に見てほしい。
さて、これを読んでいるのはイセンドラスの同胞か?それともジルトレアの人間か?まぁどちらでも良い、これから少し私の計画を、まるで手品のタネを明かすかのように語ろうと思う。
ただしこの文章は、後世に残さないようにすぐに処分してほしい。私は善人として教科書に載るよりも、悪人として載った方が自分に合っていると思うからだ。そうだな、ジルトレアのリーダーであるセラン殿の手に行き渡ったら処分してくれ。その点をくれぐれも注意してくれたまえ。
では語ろうか、私の目指した明日を。
✳︎
「敵影見えず!完全に沈黙しております!」
「南方に複数の戦艦を確認!しかし、動いている様子はありません!」
ここは間違いなくイセンドラス、つまり敵の首都の上空だ。だというのに、戦艦はおろか魔法使いすら迎撃に来ない。
先遣隊として少し早めに降下を開始したツクヨミを、まるで招き入れるかのような様子だ。
市街地は目と鼻の先にあるのにもかかわらず、何も起こらない。
「黒白様!イセンドラス首都ドラスの各地から白旗が上がっています!」
「白旗?降伏って事?でも白旗を揚げたら降伏って文化は地球だけだと思うし・・・・・・とりあえず魔力障壁をガチガチに張ったまま着陸しよう。それ以外の船には上空で待機するように連絡して。」
重要な建物であろうイセンドラスのビル群の全ての屋上にそれぞれ巨大な白旗が立てられていた。
もちろん、イセンドラスの旗ではない。
地球では、白旗を揚げたら降伏という意味になるが、それがここイセンドラスでも通用するとは思えない。
そして、情報にあったイセンドラスの総督府にも同じように白旗が立てられていた。
ツクヨミは、ゆっくりと総督府の前の広場に着陸する。
すると、そこには大勢のイセンドラス人と思われる人々が集結していた。
ツクヨミを降りた結人をイセンドラス人達が出迎えた。
【ようこそいらっしゃいました、イセンドラスへようこそ。】
【は、はぁ・・・・・・】
【黒白様にお伝え申し上げます。もはやイセンドラスに反抗の余地はありません。降伏し、講和条約を受け入れます。】
軽い挨拶を交えた後、イセンドラス人達が一斉に頭を下げた。
【わかりました。調印をするので、代表者を呼んで下さい、案内します。】
【恐れながら申し上げますと、イセンドラスの代表は既にそちらにいらっしゃるシーナ=イセンドラス様でございます。故トディア宰相閣下のご命令により、主権はシーナ様に移行しております。】
【っ!わかりました。】
【では、よろしくお願いします。】
結人がイセンドラスの総督府に入った時には、イセンドラスの軍部と政府は既に解体されていた。重要な文書も一箇所にまとめられており、まるで奪還しに来たはずのジルトレアを歓迎しているかのような雰囲気だった。
そして、それらは丁寧に英文で分類されており、受け入れ体制は万全であった。
もはや、反抗の意志は全く感じられず、イセンドラス帝国は完全に崩壊していた。
✳︎
「ジルトレアとイセンドラスの間で行われた50年に渡る戦争の終結をジルトレア最高指導者セラン=レオルドの名においてここに宣言する!」
地球時間
2050年3月2日12時05分
ついに、全軍における戦闘行為の即時停止と終戦が言い渡された。まだ具体的な条約や今後の対応は決まっていないものの、全ての武力による戦争は終わりを迎えた。
イセンドラス帝国は新たに、シーナ=イセンドラスを女王とする『イセンドラス連邦王国』が誕生した。
地球時間で数百年前の8つに分かれていた当時の分け方で分かれる連邦王国とする事となった。これには、戦力の集中を避ける目的があった。
そして、女王シーナ=イセンドラスはイセンドラスを破滅に導いた極悪人として名前が残る事になったトディア=クレストの書いた遺書の手順にそって復興を進める事となった。
また、ジルトレアの駐留軍基地に地球とイセンドラスを直接繋ぐワープホールが建設され、貿易が始まった事によってかつての食料不足や資源不足はほぼ解消された。
これも、トディアの予言通りであった。
また、各地のインフラ整備や環境保護もトディアの指示で進められ、数年後には地球からの観光客か頻繁に訪れるようになった。
こうして、50年に渡る戦争は幕を下ろした。
✳︎
どうして私がジルトレアの存在や地球の事をそれほど詳しく知っているかって?簡単な話だ、実は私は、私の部下に命じて現地調査に行ってもらったんだ。もちろん、皇帝陛下が地球の存在を知るずっと前から。
そして私は地球で最強と噂されている『黒白の限界突破者』の存在を知った。そして、ある計画を思いついたのだ。
イセンドラスの同胞の諸君、君たちは気づかなかったかい?今回の地球侵略部隊の中に、ネオルカに対して恨みや妬みを持っている人が多い事を。
ダルバーク皇帝陛下を筆頭に、多くの古臭い考えを持つ者たちを排除しようと思ったのだ。
まぁ私にもシーナ皇女殿下の行動は予想外であったが、計画は成功したと言っていい。
それと、イセンドラスのある企業が密かに設計していた最悪の兵器『サイモン』の処分をしたいなと思っていたところ、ちょうどいい人物がいたからな。
まさに一石二鳥というわけだ。どうだ?私もことわざというものを真似してみたが、これで合っているか?
それと、『黒白の限界突破者』と呼ばれる人物には是非とも感謝の言葉を伝えたいと思う。君を利用する形にはなってしまったが、これも祖国を救うためなのだ。許してほしいとは思わないが、怒りを何かにぶつけるような事はしないでほしい。もう戦争も人が死ぬのもはこりごりなのだ。
まぁ私は既に死んでいるがな、はっはっはー!
最後に真面目な話をしよう。
イセンドラスの同胞諸君、ネオルカ人の諸君、そしてこれからイセンドラスを守ってくれるであろうジルトレアの諸君、私の目指した世界を作るために、是非とも協力してほしい。
実現できたとしても、私がその姿を見ることは無いが、君たちの功績はきっと将来に受け継がれていくはずだ。
君たちが協力すれば不可能は無いはずだ。
そして最後にこれだけ伝えさせてくれ、私の目指した明日のために動いてくれて、ありがとう。
追伸
最後にと、先ほど書いたのに追伸を書くことになってしまって申し訳ない、実は1つ書き忘れていたことがあったのだ。
これを読んだ者はシーナ皇女殿下に私の家族の保護を頼んでほしい。それと、私の野望に付き合わせてすまなかったと伝えてくれ。
彼女ならきっと理解してくれるはずだ。
この世界に明るい明日が来る事を切に願う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます