#27 英雄の目指した世界

2050年3月1日



「ではこれより、イセンドラス奪還作戦を開始する。」


『サウスエンド講和会議』と名付けられた今回の講和会議の結果、イセンドラスは軍部を解体する事と、ジルトレアの駐留軍が滞在する代わりに主権を完全に回復される事となった。

ただ、現在イセンドラスはトディアの手に落ちているため、奪還することになった。そして、2度目の最終決戦のために少数先鋭の特別部隊が結成された。

今回の作戦は簡単でまず、ツクヨミがワープを使ってネオルカへ行き、結人(リエス)が完成させたワープゲートを設置して地球にある全ての空中戦闘艦を使ってイセンドラスを強襲するという作戦だ。

空中戦闘艦は、世界全体でたったの14隻しかないので、各国から先鋭が選ばれて今回の作戦に参加する事になった。


ネオルカの女王であるキリアも賛同し、今現在、イセンドラス奪還の出発式が行われていた。

トディアが用意できるであろう最高戦力である『サイモン』も結人の力を使えば秒殺できるので、もはや恐るものはなかった。

ただもちろん、勝てても一般市民を守らなければ話にならないので、ジルトレアは再び大軍を結成したのだ。



「正直私も、まさかもう一度戦争を行わなければならない結果になった事には驚いた。しかし、避けられない戦争である事もまた事実である。この戦争が、人類の平和のためである事を切に願う。」


「「「おぉーーー」」」


「日本防衛軍、特殊部隊『夜明けの光』所属第四新型空中戦闘艦ツクヨミ、発進!」



セランの力強い合図とともに、ツクヨミのエンジンに火がつく。

4つの巨大なメインエンジンが回転を始め、やがて宙に浮いた。紫色の船体にきらりと光るオレンジ色のラインが目立つ。

そして次の瞬間、正面にワープホールを作成すると、その穴に飛び込んだ。ツクヨミの船体が完全にワープホールの中に入り込むと、静かに入り口が閉じた。

その間セランは最後まで、敬礼をしながら見送った。



✳︎



【どう?地球の船は】


【はい、揺れが少なく、乗り心地が良いです。】


【いや、揺れが少ないのはワープホールの中だからでしょ。】


【そ、そうなんですか?】


あの講和会議から数日、新たな女帝となったシーナは、藁科夫婦ととても仲良くなっていた。というのも、地球への滞在を余儀なくされたイセンドラス軍の兵士の多くはジルトレア第15簡易基地で待機する事になったのだが、流石に次期女帝を同じ場所に滞在させるのは危険という事で、彼女の身を心配したチェルシー将軍は、駐留地の移転を申請した。


【もし万が一の事を考えて、姫さまだけ別の場所に移していただきたいのですが・・・・・・】


【ですがそれは・・・・・・】


イセンドラス軍の様子を管理する役人に尋ねた。ただまあ、下っ端の役人にそんな権限があるわけがなく、再びセランと軽い話し合いをする事になった。

そこで・・・・・・


【以上の理由から、姫様を地球上で1番安全な場所に移していただけませんか?】


【地球上で1番安全な場所・・・・・・おそらく、黒白の家だな・・・・・・よし、あいつに預けるか。】


というわけで、数日であるが藁科の本家で預かる事となった。シーナは、もちろん日本語や英語などは話せないので多少の勉強もした。たったの数日間という短い期間ではあったが、藁科夫婦とシーナはとても仲良くなった。


そんなシーナは、この戦艦ツクヨミに乗りたいと言い出して同乗する事になった。

幸い、ネオルカに拠点を構えるという最初の任務は簡単なので同乗が許可された形だ。ちなみに、影で機密がどうとかこうとかほざいている奴らもいたが、結人が賛同すると、ころっと一斉手のひら返しをしたらしい。

そんなわけで、シーナは人類のワープシステムに感動していた。


「ワープシステム正常、脱出まで残り30秒」

「魔力障壁、魔力回路ともに正常」

「軌道、船体 共に安定」


あちこちから状況報告の掛け声が響き渡る。そしていよいよ。出口が見えてきた。


「ワープホールエンドを確認、脱出します!」


輪っかを抜けると重力が戻り、船全体が一度揺れた。

そして目の前にはまるで地球と、錯覚するような木々が生い茂っていた。魔力を使ってここがどこなのかを調べてみると、多少の誤差はあるものの当初予定していた目標地点である事がわかった。

そこからゆっくりと着陸をすると、結人は人類で初めてネオルカの地を踏んだ。



✳︎



「た、大変です!ネオルカ星内に新たな多数の艦隊が出現しました!地球軍艦隊と思われます!」


突然、慌てた様子で執務室へと滑り込んできた男は報告を行った。まさか彼が言っていた事が現実になるとは思ってもおらず、驚きが隠せなかった。


「そうか、思ったよりも早かったな・・・・・・」


対して、報告を聞いた男は、まるでそれを予想していたかのようにうなづいた。


「いかがいたしますか!宰相閣下!」


「まぁ落ち着け、想定範囲内だ。では、次のプランを伝える。これに書かれている通りに動け。ただし、これは明日の朝、君が朝食を食べた後に開けるんだ。」


落ち着いた声でそう言うと、部下の男に封筒を手渡した。部下の男は、それを丁寧に受け取る。


「私はこれからやる事がある、君はこれから自宅に帰り、その封筒を死守しろ。」


「は、はい!」


そう返事をすると、走り去っていった。

ついにこの日が来た。

もはやこれまで、もう後戻りはできない。いや、後戻りをするつもりもない。

遠き豊かな星、地球を見つけた時から計画していた一世一代の大博打。勝算は十分にあるはずだ。


「ふっ、私の名前は、おそらく教科書に載るだろうな。」



✳︎



次の日、家族と共に朝食を食べたトディアは、自分の書斎に戻ると用意していた劇薬を飲み、自分に向けた拳銃の引き金を引いた。


__________________________________


どうでもいい話


次話で何と通算200話です!

ちなみにssは作らない予定です(クライマックスだから)



ついにエピローグを書き終えました。このまま、突っ切ります。

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