#26 終戦への道③
今回の会議のためだけに用意された正三角形の机のそれぞれの辺にそれぞれの国の代表が席についた。
人類側
セラン、朝日奈、ゼラスト、結人
ネオルカ側
キリア、ズク
イセンドラス側
シーナ、チェルシー将軍、レベター大佐
が参加した講和会議は、それぞれが昼食を食べてすぐに始められた。
それぞれ真剣な顔つきで、用意された椅子に座る。ちなみに、今回の結人の主な役割は通訳だ。魔力回路を持たないセランとゼラストは、精神干渉魔法が使えないので結人が魔法で無理やり相手に思いを伝える。
【私は、人類防衛軍ジルトレア最高責任者兼アメリカ合衆国最高司令官、セラン=レオルドだ。今回の講和会議における人類側の代表を務めさせていただく。】
くつろぎながら、セランは戦勝国として少し偉そうに言った。
【私はイセンドラス帝国皇女、シーナ=イセンドラスです。今回、父である皇帝が戦死したため、代表を務めさせていただきます。】
シーナは、落ち着いた様子で自己紹介をした。敗戦国の代表としてこの講和会議に参加しているが、それは立場だけで、細かな設定は将軍であるチェルシーか、その補佐であるレベター大佐が担当している。
そして彼女らは未だに本国と連絡できていなかった。あの謎のUCの暴走の件を考えれば、十中八九反乱が起こったに違いない。
それか、自国が負けた事を悟り、逃げるために消したか・・・・・・どちらにしろ、向こうからの連絡はありえないと判断していい。
【ネオルカ代表、精霊王国女王キリア=メスタニアだ。よろしく頼む。】
と、キリアは短い挨拶をした。
ネオルカの代表を今回の講和会議に呼んだのは理由がある。
人類側からすれば何故攻めて来たのかすらまだ明確になっていない今回の侵略行為、はいそうですか、で終わる話ではもちろんなく議論は激化する事が予想される。そこでセランは、議論を円滑に進めるためにネオルカに調停役をお願いしたのだ。
もちろん、ネオルカが承諾するメリットは大きく、拒否するデメリットも大きいため、快く承諾してくれた。
【ではまず、侵略の理由から聞かせてもらう。】
セランのこの発言から長い講和会議は始まった。
イセンドラスの代表は想定外の発言を連発し、人類側を大いに困らせた。
そもそも、絶対王政かつ魔法が主流のネオルカと人類の文化はあまりにも違いすぎた。
イセンドラスの政治を簡単に言えば、大統領が変わらない大統領制といった感じだ。中佐ヨーロッパのような貴族などは存在せず、投票や試験によって選ばれた議員達による投票によって新たな法律が提案され、大統領(皇帝)が了承するとそれが制定される。
また、軍部の上層部が全議席の30%を固定で抑えており、発言権はかなり強いらしい。
そして、皇帝によって提案された今回の侵略作戦の目的は、新領土の確保であった。
戦争を行う理由などを全てすっ飛ばして侵略を行う事だけが決まり、反対派は全員侵略作戦が終了するまで拘置所送りという人類側からみたら暴挙で、イセンドラス側からみたら普通な事が行われ、今回攻めて来たという。
イセンドラスの目的は豊富な食料と資源。
一時期は人口が激減したとはいえ、最近は回復しつつある地球でも、食料問題や資源不足は解決しておらず、侵略してきた国に自分たちから渡す理由なんて微塵もない。
【ネオルカからの支援はないのか?】
セランからの質問に、ネオルカの外交官であるズクが答える。
【イセンドラスと我々ネオルカは現在ほぼ戦争状態です。2度の裏切りによって、イセンドラスへの憎悪は高まっております。いくら精霊王国とて、支援はできません。それと、領土の一部放棄も求められません。これまでは宇宙空間という緩衝材があったからネオルカへの直接的な被害はあまり出ておりませんでしたが、ネオルカの中に土地を与えるとなると国民を守りきる事が出来なくなります。そのため、我々ネオルカとイセンドラスはにらみ合いを続けるしかないのです。】
第二次世界大戦当時のアメリカのモンロー主義のように、ネオルカは他国に干渉しないべきだ、という不干渉主義者が多くいる。
しかし、再三に渡るイセンドラスからの攻撃を怒り、正義の下にイセンドラスを全滅すべきと考える者が増えていた。
そして極め付けに、今回の地球侵略作戦。
これは、ネオルカの多くの精霊使いたちを失望させた。
【昔から、我々ネオルカが自ら進んで戦闘を行う事は有り得ません。しかし、今では戦争すべしという声の方が大きくなっております。我々としてもそろそろこの戦争に終止符を打ちたいところです。ジルトレアはどのような事を望んでいるのですか?】
【我々としては、終戦、安全保障、貿易の3つを望んでいる。終戦は当然として、相互不可侵はきっちりとお約束していただきたい。貿易もできればよいなと思っていたところだ。イセンドラスよりも技術は劣るが、豊富な資源と領土があるからな。】
【貿易については手段が確立していないでそれを除いて、残りの2つは約束しましょう。相互不可侵の件は有り難いです。我々にはおそらく、そちらの方への対抗手段がありませぬゆえ。】
【感謝する。では次にイセンドラスだが】
そう言って、セランは視線をシーナの方へと向けた。双方に緊張が走る。
そして、セランは予想外の条件を提示した。
【技術提供と軍部の解体をすれば、賠償金無しにしようと思う。】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます