#17 乱舞

「重力魔法<グラビティ・ゾーン>」


「×××(重力魔法<ゼロ・グラビティ>)!」


グレンの周囲を巻き込んだ立体的に干渉する重力魔法に対して、チェルシーは重力魔法の奥義ともいえる重力無効魔法で対応した。

両者ともさらっと魔法陣を構築し無詠唱かつ高速行使を行った。



「氷魔法<氷爆>」


重力魔法を簡単に無効化され、重力魔法による攻撃は不利と判断したグレンは、戦術を切り替える。

もちろん、グレンが使えるのは重力魔法だけではない。時間魔法と精霊魔法以外の全ての魔法を実戦に投入可能なレベルにまで達している。


「×××(<魔力障壁>)!」


グレンの作った氷の弾丸を、チェルシーはオーソドックスな魔力障壁を展開して防いだ。

魔力障壁は理論上魔力の消費が1番少ない魔法で、魔法師同士の戦闘では1番用いられる機会が多い。

また、チェルシーの紫色の魔力障壁の練度はグレンが素直に賞賛するほど高かった。彼が鍛錬を欠かさなかった事がわかる。


「相手にとって不足なしってやつだな。ならこっちもその壁破らせてもらうか。<魔力干渉><加速><魔力撃>」


『魔力干渉』で魔力障壁の魔力に綻びを生み出して防御力を下げ、そこに加速魔法と魔力撃で打ち破るという魔法師同士の戦闘における型のような方法をとった。

しかし・・・・・・


バチィィーン!


「マジかよ、硬っ!」


チェルシーは、魔力障壁に異物が混入した瞬間に完璧な修復を行い、グレンの攻撃を防いだ。

直後、チェルシーは自身の魔力障壁を解き、カウンターを行った。


「×××(雷魔法<紫電>)」


彼の乗る白い虎を媒体として、超高電圧の電気が放たれた。魔力障壁をも貫通する雷魔法に、グレンも同じく雷魔法をぶつけた。

凄まじい音を発すると共に相殺された。

剣を使わないグレンにとって、雷魔法は数少ない弱点でもあった。今回のように同じく雷魔法を使い相殺するか、重力魔法で強引に方向を変えるぐらいしかできないが、現在のような重力を無効化された空間では後者は使えない。

干渉力で敵の将軍を上回ればダメージが通るが、試してみたところ魔力操作技術で負けているのでそれはできない。


ならば、強引に押し切る。


「第四段階<永遠の輪インフィニティ・ループ>」


魔力を吸収する事ができる自信の奥義とも言える魔法を放つ。

魔力を吸収すると同時に発生させた無数の重力波で敵の重力無効の魔法を打ち破る。


単独では無効化されても、先程までとは比べものにならないほどの重力加速度を施したこの魔法を連続して放てば、さすがの敵も打ち破れると判断したのだ。

結果は成功、敵のUCと本人はモロに食らったようで途端に動きが遅くなった。重力魔法は雷魔法同様、敵の魔力障壁を半分無視する事ができる。

ちなみに、空間魔法や一部の振動魔法も可能だ。それが理由で特殊魔法と呼ばれていたりする。


「×××(なんだこれは!こんな強力な重力魔法の作った使い手がいたなんて・・・)×××(これは私も本気を出すべきだな。)」


そう判断したチェルシー将軍は、自信の膨大な体内魔力をかき集める。

そして、自分のみが使える、特別な魔法を放つ。


「真意魔法<神域結界ヘブンズエリア>」


自身を中心とした半径2mほどの小さな光の結界を構築した。一見、ただの小さな防御結界のように見える。魔力量もそれほど多くない。

しかしそれは、生き物としてのレベルが違う神々しさを放っていた。


「なんだよ、あれ・・・・・・」


思わず、敵味方問わず全ての兵士達が戦意を失っていた。ルーシアもいつの間にか歌うのを辞めていた。

重力波は無効化されているようで、敵に苦しさは見えない。

なんというか、ダメージを与えられる気がしない。

そして多くのジルトレア側の兵士にとって、この光景を以前何処かで感じた事があった。そして、頭の中に流れる『黒白』という文字。白い翼を生やした黒白と同じモノを感じたのだ。つまり、それだけ別次元の存在という事だ。

少し呆気を取られたが、すぐさま正気に戻ったグレンは、固有魔法を放つ。


「第一段階<フェイク・マテリアル>」


グレンの第一段階<フェイク・マテリアル>


重力魔法を利用して空間に歪みを発生させ、仮想の質量体をぶつける魔法。現在の自分が出せる最大火力だ。理論上、魔力障壁を無効化して敵にダメージを与えられる。

しかし・・・・・・


「なんだと・・・・・・」


グレンの攻撃は、正面から先ほどの障壁で受け止められていた。

傷ひとつない、完璧な防御。


「あれがだめなら俺にあいつを倒す手段はない、結人案件か・・・・・・ルーシア、結人を呼んでくれ!それまで時間を稼ぐ。」


「わかったわ。」



討伐不可能と瞬時に判断したグレンは、自軍を少し後退させつつ、結人を召集した。



✳︎



『夜明けの光』所属ー第4空中戦闘艦『ツクヨミ』は、イセンドラスの主力艦であるあの白くて大きいやつを含めた14隻の戦艦に対して、たった一隻で圧倒していた。


第四段階を得た結人と身体が最適化された咲夜は、既に合計で10隻戦艦を容赦なく海に叩き落とした。

敵の魔法使いも半数以上を戦闘不能にし、まさに無双していた。


そして、美月のアシストを得たツクヨミも2隻の戦艦を沈めた。

残りは敵主力艦とその後方にいる一隻のみ。


結人は、第二段階を使って貫通させる事も考えたが、ほぼ全神経をつぎ込むので発動中に撃たれたらやばいかもしれないというのと、その攻撃で敵のリーダーを殺してしまったら戦争の終結ができなくなってしまうかもしれないという理由で、魔法を放てずにいた。

正直、早く降伏してほしいと思っていた。



「なかなか白旗を振りませんね、結人さん」


「そうだね。この分だと戦争は勝てそうだけど、さらに戦力が送られてきたら大変だから戦争を早く終わりしてほしいな。」


「そうですね。」


そう言いながら、2人は敵主力艦を見つめる。


その直後、敵主力艦の中心にとてつもない魔力が収縮されるのを感じた。


「「っ!!!」」


「結人さん・・・・・・」


「とんでもない魔力量だね・・・・・・破滅級を超えている。」


「何が起きたのでしょうか。」


運悪く、グレンからの救援を受けるのと同時に不気味な魔力を感じた。

禍々しく、今までに見た中で間違いなく最大の魔力量だ。


戦争は、まだ終わらない。



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読んでいただきありがとうございます!


新作の『落ちこぼれ呼ばれた俺は真の能力を隠すどころか知らない』もよろしくお願いします!

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