#16 戦争⑥

「どう考えてもあいつが親玉だな。」


「そうね、グレン。私たちで止めましょう。」


「あぁ、それじゃあ頼む、ルーシア。」


イセンドラスの若き将軍ーチェルシー将軍の前に、ヨーロッパ連合の切り札『レッドナイツ』のリーダーでS級魔法師のグレン=ロワールとルーシア=ヴァッレが立ちはばかる。

こっそり付き合っている2人は、今回の作戦の鍵でもあった。


第一段階ファーストソング<全能力上昇オールバフ>」


ルーシアの歌と共に、彼女を中心に巨大なサークルが形成される。

効果は魔力の効率化、魔力量の上昇、回復力上昇など、効果の対象はジルトレア側の魔法師全てだ。


これは、ジルトレア側の魔法師の力を底上げした。魔力を乗せた歌による聴覚的な増幅効果を引き起こし、ジルトレア側の動きが良くなった。


ルーシアのバフを1番近い位置で受けたグレンは、敵の親玉に向けて無数の重力波を放つ。


「重力魔法!」


グレンは、前方全てに広がる波のような衝撃波を放つ。

直撃すると、ぐらっとGがかかり、騎乗魔獣部隊の足が止まった。

連続的ではなく、緩急をつける事によって一瞬の衝撃を大きくし、動きを封じた。

そしてこれは、ジルトレア側の砲撃の餌食となった。


「やるな・・・・・・敵も強力だ。」


「気をつけて、グレン。」


「あぁ・・・」


その中でただ1人、戦闘に立つ男だけがグレンの攻撃を防ぎきった。



✳︎



「放てー!!!」

「敵の新略を許すな!魔法銃を握りしめろ!」

「怯むな!」

「敵を殺せー!未来はすぐそこにある!」



戦場はまさに悲しき無慈悲な世界であった。

神の奇跡など起こるはずもなく、飛び交う魔法や砲弾は、それぞれの戦艦、兵士に直撃した。

腕を失う程度で済めばまだいい方、身体が粉々に吹き飛ぶ事なんて当たり前、銃弾は尽きる事を知らずに撃ち続けられた。


結人やゼラスト、美月のように1人で数万人を相手にできる存在がいない戦争は悲惨なものだった。

戦争は、その実力が拮抗するほど被害が大きいのだ。拮抗すればするほど、戦場は泥沼と化す。

例え銃弾が貫通しても、生物系の促進魔法を使えば、痛みが和らいだり傷が塞がったりする。そして、衛生兵に手当てを施された兵士はもう一度戦場へと赴く。



人類側の機銃掃射に対して、騎乗魔獣部隊は空戦魔法部隊の援護射撃とともに突撃を繰り返した。

ジルトレアの全ての艦は、基準をクリアした強力な魔力障壁をそれぞれ張っているが、先ほどからいくつも敵の魔法に魔力障壁を突破されている。

まともに戦えているのは各国の空中戦闘艦だけだった。まさに、海上戦力の衰退を表しているかのようだった。


単純的な技術はイセンドラスの方が上で、正面からのぶつかり合いもイセンドラス側の有利に進んだ。イセンドラス軍の旧大日本帝国軍のような特攻部隊は、多数の被害を出したものの、それ以上にジルトレアの戦艦を海に沈めた。


また、空母や戦闘機といった時代遅れな兵器は、大した効果がなかった。航空機に搭載されているミサイルはある程度の力を見せたが、20mmの航空機関砲は魔力障壁に少ないダメージしか与えられなかった。

また、動きの遅い空母は格好の的となった。

後方で隠れていた空母はチェルシー将軍の指示で動いた別働隊にすぐさま発見され、6隻全てがあっという間に沈められた。

後方に魔法師をあまり割いていなかった事が仇となった。


もちろん、イセンドラス側の被害も多い、既に4分の1以上が重症を負い、1割以上が南極の海に沈んだ。着衣水泳の訓練をほとんどやった事のないイセンドラスの兵士達は、魔力が切れたり魔法が使えなくなった者から無惨に散っていった。


そして極め付けは、ジルトレア第14基地から発射された中距離弾道ミサイル(IRBM)の攻撃を防ぐ手段がなかった。数発程度なら迎撃は可能だが、数百も撃ち込まれれば対応は難しい。地球の海の上なので核は使用していないものの、その熱線と爆風は凄まじい威力を発揮した。


また、S級魔法師達の猛攻もイセンドラス側には悪魔のように思えた。



第2段階セカンド・ダークネス<演算領域拡張>、第3段階サード・ダークネス<闇の羽衣>」


魔法師にとっての奥義、固有魔法。

その第2段階と第3段階を同時に展開すると、イセンドラス側の全ての魔法使いを威圧する。左翼を担当する事になった真人は本気モードであった。


真人から滲み出ていた漆黒のオーラが具現化し、まるで羽衣のように身を包んむ。

その姿はまさに破壊神、あふれんばかりのエネルギーの圧と共に、空間を切り裂いた。


「空閃流剣術・五の刃<解空かいくう>」


黒いオーラを纏いながら、前へと飛び出し敵を切り裂く。

真人は、手に持った黒紫の龍剣で一体ずつ確実に葬り去った。

『紫暗の絶対者』はかつて日本最強だった頃を彷彿とさせる動きを見せた。



✳︎



「あらあら、あの気持ちの悪い虫達の上に乗るなど、狂気の沙汰としか言いようがありませんね。」


空中戦闘艦の甲板の上に立ちながら、ジルトレアとイセンドラスの戦闘を眺めながら、そうつぶやいた。S級魔法師の1人ー クリスティア=ヘリフォード。

イギリスのエースにして、国の魔法界の最高位に座る人物でもある。


実際本国では結人と同じかそれ以上の人気がある。そしてもちろん、実力も、伊達じゃない。


第一段階ファースト・ブラッド<鮮血の雨ブラッドライン>」


周囲の魔力を集めると、その魔力で大量の血液を生み出す。そして、その血液達に魔力を染み込ませて、雨のような弾丸を放った。

核の位置を正確に捉えて貫く。

勝てない相手と判断した敵も、一時的に固めた血液を足場に近づくと、銀の剣で切り裂いた。

『鮮血の女王』の二つ名は伊達じゃない。


両者とも、無慈悲な攻撃で、イセンドラスの兵士達に絶望を与えた。



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間に合えば明日、間に合わなかったら明後日に次話を更新します!

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