#15 戦争⑤
ゼラスト率いる『ゼロ艦隊』がイセンドラスの騎乗魔獣部隊に大打撃を与えた頃、南方の氷の上では、日本軍及びネオルカ義勇軍とイセンドラス軍およそ4万が睨みをきかせていた。
地球陣営側は未知の兵器や兵站を恐れて、遠距離からの日本所属の空中戦闘艦3隻による艦砲射撃が行われた。
対するイセンドラスも、魔力反応から多くのイセンドラス人に悪夢を刻み込んだ張本人であるネオルカの女王ーキリアを見つけてから、消極的になった。
先の戦争で精霊使いの恐ろしさは、みにしみていた。
まさに、 一騎当千の強さを誇っていた。
「あぁ〜私も『夜明け』のみんな一緒に戦いたかったな〜」
「そうですね、自分もいつか黒白様と肩を並べて戦いたいって思っていましたが・・・その願いは叶いそうにないです・・・・・・」
「だよね、戦争は多分もうこれで終わり。これから先は魔法の技術を競う時代になるんだろうな〜」
「そういう時代が来る事を願いましょう。」
日本所属の4人のS級魔法師の内の最後の1人、涼風瑞葉を中心とした南方方面部隊の目的は敵部隊の足止め、こちら側から無理に攻撃する必要がなかったのだ。
当てる気はあるがやる気のない砲撃は、その内の何発かがイセンドラスの騎乗魔獣に直撃し、海に沈んだ。
対するジルトレア側の損害はゼロ、甲板の上に立った涼風の魔力障壁や風魔法によって、攻撃を無効化されていた。
もちろん、イセンドラス側からの攻撃は近距離が得意な騎乗魔獣部隊からの攻撃だけなので、この魔力障壁を突破する事は出来なかった。
故に、膠着状態となっていた。
✳︎
ヨーロッパ連合の『レッドナイツ』は元々ある1人の切り札のための部隊であった。
その切り札の名前はもちろんグレン=ロワール、重力魔法のスペシャリストで、日本の黒紫やアメリカのゼラストをも超える事が期待されていた。
結果として、黒紫ー藁科真人を超え、ゼラストに迫る勢いまで成長した。しかし、新たな英雄ー黒白、紅焔、水の天使の出現によって世界ランキング2位から5位まで後退した。
だが、その実力は衰えるどころか増していた。魔力を吸収しながら放つという前代未聞の魔法を得たグレンの実力はゼラストを超えていた。
そんなグレンは今回、彼の所属部隊のである『レッドナイツ』とともにジルトレア主力部隊のリーダーを務めていた。
空母6隻、ヨーロッパ連合所属の空中戦闘艦2隻、ドイツ所属1隻、イギリス所属1隻、ロシア所属2隻、巡洋艦と駆逐艦合わせて50隻の主力艦隊に、魔法師と非魔法師合わせて20万人超の大艦隊だ。
他にも、同じくヨーロッパ連合所属のルーシア=ヴァッレ、イギリス所属クリスティア=ヘリフォード、そしてドイツ所属で結人の父である藁科真人とその妻ー藁科琴音などのS級魔法師と有名な部隊に所属していないA級魔法師は全員が主力部隊に編成されていた。
対するイセンドラス軍は中型戦闘艦5隻、騎乗魔獣部隊、空戦魔法部隊合わせて15万が立ち並ぶ。
そしてその中にはイセンドラスの若き将軍ーチェルシー将軍の姿もあった。
自慢の虎のような見た目をした魔獣にまたがり、ジルトレア軍を睨みつける。
まだ互いに目視でぎりぎり確認できる距離が離れていたが、それでも十分射程圏内。
両軍とも全力前進しながら砲撃を行った。
イセンドラス軍の緑色の光線と、ジルトレアの実弾の標準主砲が交差する。
魔力障壁を張り巡らせた両軍に、これに貫かれて落ちる戦艦はいないが、イセンドラス側の空戦魔法部隊にはある程度の被害が出た。
飛行と魔力障壁の両方に魔力を割かなければならないからか、防御が脆かったようだ。
距離が近づくと、ジルトレアは実弾から新型ミサイルのTS76へと切り替えた。威力や速度はでないが、魔力障壁をほぼ無効化するシステムが組み込まれた、『銀の船』が製作した優れものだ。
「チェルシー将軍、敵は例のロケット型の爆弾を使うようです!指示を!」
ロケット型の爆弾をまともに喰らえば、周辺の魔獣部隊を巻き込んで爆発する事は誰の目にも明らかだった。
図体が大きく、敵の格好の的になりやすい騎乗魔獣部隊が満足に戦えるのはひとえに魔力障壁があるおかげだ。それが紙屑同然にされては、勝負にならない。
「部隊を3つに分けて一列になって突撃を行う!各隊、突撃の準備を!」
「「「了解!」」」
爆弾は、密集している敵に絶大な被害をもたらす。だがら、分散させて被害を減らす。
それと、武装が1つもついていない船と、敵の船の中にいる濃い魔力を持った5人に集中がいく。
自分よりも魔力量は圧倒的に少ないがこの魔力の乏しい星でこれほどの魔力を誇るというのはどれほどの猛者なのか気になった。
決戦の時は近い。
「全部隊突撃!我に続け!」
自分の身長ほどの長い槍を上に掲げて、突撃を行う。
飛んでくる砲弾も魔法で跳ね返す。
「風魔法<暴風>!」
ロケット型の爆弾や弾丸をかわしながら敵の船めがけて一列に突っ込む。
しかし、後4kmほどまで迫った直後、その突撃を防ぐ者が現れた。
言わずもがな、先ほど懸念していた5人のうちの2人だ。
そして、世界初となる魔法使い同士の戦争が始まった。
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※キリアvsグレンはカウントされていません。
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