#13 戦争③

戦場は、セランの描いた通りとなった。

4方から同時に攻め入り殲滅する作戦、ジルトレアは最初から和解という案を棄てた。

最初は、平和的解決という案も出ていた。しかし・・・・・・


「言葉が通じない、文化が違う、資源も乏しい、ましてや奴隷にするわけにもいかない。敵の目的はこの星だ、当然敵の要求は土地の放棄だろう。だが譲ってしまったら終わりだ、いつ核ミサイルが飛んでくるかわからない。平和の道など選べるはずがないのだ。よって、我々は徹底抗戦に出る。」


というセランの言葉によって今回の作戦は満場一致で賛同された。もちろん、この場に戦争が好きな者など一人もいない。だがしかし、分かり合えないものである。

『イセンドラス』が捨てたゴミによって何十億人もの人々が命を落としたのだ。悪気がなかった、知らなかったで済まされる話ではない。

どうしても、戦うことは避けられなかった。



✳︎



まず最初に動いたのは、人類の旗印ーツクヨミだった。南極半島の尻尾に差し掛かり、艦の先端が海の上に乗った直後に、茜は叫んだ。


「反転するよ〜」


「ツクヨミ、予定通り全力反転の後、包囲殲滅戦に参加します。」

「反転了解、回頭180度」

「進路変更了解、進路南南東」


強引なカーブを描き、『イセンドラス』艦隊と正面から睨み合う。


「減速~最適化~」


「減速了解、出力80%から60%にダウン」

「長時間戦闘モードに変更しました。」

「敵主砲の速度から、回避に必要な最低限の速度を算出、成功しました。最適化を行います。」


「美月ちゃん、高度3000に上げて〜」


「了解、お姉ちゃん。」


そして、魔力の制御席に座る美月が魔力をコントロールして、高度3000までほぼ直角に上昇する。

敵の現在の高度はおよそ1500なので、完全に上をとる形となった。


最新の防衛システムを惜しみなくバンバン使う。この間の制御席には現在美月が座っているのでちょっとぐらいなら無茶も可能ということを頭に入れて、茜は命令を飛ばす。


「主砲自由発射、ミサイル自由発射、対艦戦闘よ~い。攻撃開始~」


これまで逃げ一択であったツクヨミがついに火を吹いた。狙うのは、敵艦隊の少し上あたり、敵が高度を上げ過ぎると味方の砲撃が当たらなくなってしまう可能性があるため、敵艦隊を下へと誘導した。

茜の思惑通り、急激に高度を上げたツクヨミに対して艦体を少し上向きにしながら敵艦隊は高度を500付近まで下げていった。


「火力集中〜小さいやつを落とすよ〜」


「了解、火力集中、敵中型艦をロックします。」


敵主力艦の正面に配置されていた敵の中型艦に集中砲火を喰らわせる、ツクヨミが放った弾丸が強固な魔力障壁に阻まれる様子がモニターに映し出された。


想定通り


痛くも痒くもないと油断した直後、敵艦の真下からいきなり飛んできた新型ミサイルーTS76が直撃した。


「味方のミサイルが敵艦隊に命中!」

「敵戦艦、魔力障壁の消失を確認、畳み掛けます!」


「やっちゃって〜」


茜の声とともに、それまで温存していた圧縮魔力砲が一斉に火を吹いた。

誘導魔法がかかった圧縮魔力砲から逃げられるはずもなく、敵艦隊を貫いた。

直撃した場所は、運良く敵のエンジンだったようで、途端に火がつき大爆発を引き起こした。


「全弾命中!」

「おぉーー誘爆です!」

「敵戦艦一隻撃沈!」


撃沈の報告を聞いて、ホッと1人安堵した茜は、横に立つ彼女の補佐ー山本に小声で伝言を頼む。


「山本、本部にTS76の優先度を上げるように連絡して。」


「了解です、茜様」


敵にミサイルという知識が無くて助かった。魔力障壁の削りあいの勝負では負けてしまうかもしれないが、こちら側から一方的にミサイルを撃ち続ければ勝てる。

報告にあった敵の主力が出てきても弟たちがいる限りこの艦に命中弾が来る事はない。


「よし、どんどん行くよ〜」


「「「了解」」」



✳︎



「味方3番艦撃沈!」

「味方4番艦、被弾!4番艦の魔力障壁、時間の問題とのことです!」

「本艦に対する砲撃が止みました!」


「どうなっている・・・・・・」


敵は、一昔前の武装しか持っていないはずだ。現に、敵の実弾を喰らってもこの艦の魔力障壁に対してダメージはない。

つまり、数時間当て続けない限り艦の魔力障壁を突破される事はない。しかし現に、こうして突破されている。


「・・・・・・そういう事か。敵の実弾による砲撃は全て囮だ!敵の主力艦装備はあのロケット型の兵器だ!あれを集中して狙え!」


「「「了解!!!」」」


皇帝ダルバークの乗るイセンドラス主力艦に搭載された100を超える砲門が一斉にジルトレアのミサイルに向けて放たれた。

しかし、緑の光線は明後日の方向へと跳ね返された。


「魔力障壁だと?!くそっ!そういう事か!魔力障壁に魔力障壁をぶつけて一時的に魔力を乱してその間に敵の実弾で落とす作戦か!」


「だが、やりようはある!全ての艦に通達せよ!魔力障壁を二段構造にして、敵の特殊兵器の破壊を最優先にしろ!」


「「「了解!」」」


新型ミサイルーTS76にはカラクリがあった。魔力障壁に魔力障壁をぶつける事によって魔力の乱れを発生させてその隙にミサイルが爆発するという仕組み。つまり、全身の魔力障壁で囲んでいるので撃ち落とすのは至難の業だ。

初見で防ぐのはほぼ不可能、皇帝ダルバークのとった行動は、現状での最適解に近かった。

しかし、この時『イセンドラス』の偵察兵の1人が悲鳴を上げる。


「ほ、報告します!」


「いきなりなんだ。」


「東、西、南、全ての方位に熱源反応あり、囲まれました!」


「なんだとっ!!!」


怒ったダルバークは、椅子を叩く。

直ちにここで怒っても何にもならないと判断した彼は、ついに主力部隊の展開を宣言する。


「それと、騎乗魔獣部隊と空戦魔法部隊を戦略予備を残して全力投入だ!囲んでいい気になっている間抜け共を叩き潰すぞ!」


「「「了解!!!」」」



初期型のUCから50年進んだ、進化したUCおよそ15万体とその直掩部隊とも言える空戦魔法部隊5万の展開を行った。

大きさ的には3mほどしかない新型のUCの魔力量は超級UCレベルであった、しかもそれが15万体。さらにその上にイセンドラス人が乗る。

そして、イセンドラスの主力部隊と人類の正面衝突が始まった。



____________________________


どうでもいい話


直掩機

目的艦や飛行場の上空を周回し、敵の戦闘機を迎撃して味方艦船や飛行場を守ったり、味方の航空機を掩護する戦闘空中哨戒を行う航空機である。護衛機ともいう。

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