#12 戦争②


まるで、南アメリカ大陸の最南端ーホーン岬に握手を求めるかのように伸びた南極半島。

別にこれと言った特徴はないただの半島である。しかしこの場所こそが人類の強さが1番大きく発揮できると判断された。


左右に広がる海を眺めながら、人類の旗印である紫色の空中戦闘艦ツクヨミは、逃走劇をみせていた。後ろから迫りくる大小21隻の戦艦からの攻撃をかわしながら海を目指す。

世界で唯一の『ワープシステム』や『弾道予測システム』、『核融合システム』といった次世代のシステムを多数搭載したツクヨミは、文字通り人類の旗印となっていた。


もちろん、ただ逃げているわけではない。敵艦隊をここに誘い込むためだ。

セラン以下ジルトレア上層部は、陸での戦闘を不利と判断した。4方を海で囲まれた南極大陸には、大量の人員を送り込む事ができない。その上、極寒の地で戦うという事はさらに苦戦を要するだろうと判断した。


さらに、人類の武器である戦艦が満足に戦えるのは海の上のみだ。それにここならば大量のミサイルが配備されているジルトレア第14基地が近くにあり、航空戦力の援護も容易だ。

全てはこの半島で敵艦隊を一網打尽にするため。セラン自らが考案した、防衛殲滅作戦であった。



✳︎



ドン!


「まだ落とせないのか!この艦の砲手は何をやっている!敵はたった一隻だぞ!」


怒りを露わにしながら、イセンドラス皇帝ーダルバークは怒鳴り声をあげる。

敵はたったの一隻、しかも戦場で目立つ紫色にオレンジのラインが入った派手な艦であった。

しかし、1時間以上経った今でも敵艦は、悠々と空を飛んでいた。

特に速いわけでも、まとっている魔力障壁が硬いわけでもない。問題は、こちらの攻撃がなかなか当たらないのである。まるで弾道を予測されているかの如く、右へ左へと面白いように避ける。


この艦のメインウェポンである圧縮魔力砲があまり速度が出ないのだとしてもこの避け具合は違和感が残る。

対処したいが、主力部隊の展開を1隻の敵に行うのは少しもったいない。かと言って他に有効的な手段が思い付くわけではない。

故に、こうして追撃を続け敵の要塞や都市を確認したら主力部隊を展開するようにと考えていた。


「それにしても、噂に聞く海というものは素晴らしいですね。これが全て水なのでしょうか。」


そんな怒る彼を宥めるためか、皇帝の隣に立つ若い1人の男がそう言った。

彼の名前は、チェルシー将軍。

地球換算で19歳という異例の若さでイセンドラス最強の称号を手にし、将軍にまで成り上がった武における天才。

ダルバーク皇帝の側近で、『知』のトディアと並ぶ双璧である。


「おそらくそうなのであろう。今見えるだけで我が星の水を全て合わせたぐらいの量があるな。」


「ええ、これで民も喜びますな。」


少し嬉しそうな顔をしながら、目の前に広がる海を眺める。

イセンドラスにおける貧乏貴族の出であった彼は、心の優しい人間であった。そのため、上級貴族の反感を買う事が多かった。しかし、そんな彼の才能に目をつけたダルバークが息子のように可愛がったため、彼は成り上がりに成功した。

彼にとってもダルバークは、もう1人の父のような存在であった。


「ふんっ!そういう事はこの戦に勝ってから話すのだな。」


「はっ!失礼しました。」


「とはいえ勝利は約束されているようなものだがな、ハッハッハ!!!」


ダルバークは、右腕であるトディアに提案された時点で勝利を確信していた。

当時失業率40%であったイセンドラス帝国の失業率をほぼ0%まで回復させたり、少子化問題を解決したりと天才的な政治手腕を発揮した彼をダルバーク皇帝は全面的に支持していた。

ちなみに、彼は現在本国で勝利の報告を待っていた。戦争についてはあまり才能がないと自負している彼は、自ら後方を望んだ。



「期待しておるぞ、若き将軍よ。」


「仰せの通りに。」


この時はまだ誰も、危機感を持っていなかった。ただ1人、この若き将軍を除いて。



✳︎



ところ変わってジルトレア側は、第一作戦ー『誘導』の成功を受けて第二作戦ー『包囲』に向けて準備を進めていた。


「『ゼロ艦隊』や『レッドナイツ』の準備はどうなってる。」


アメリカの『ゼロ艦隊』、ヨーロッパ連合の『レッドナイツ』そして日本の『夜明けの光』どれも各国を代表する精鋭部隊である。

最後の大勝負にでたジルトレアは今回、ヨーロッパ連合の切り札も戦力として投入していた。

そして今回は、戦闘系のS級魔法師全員が今回の作戦に参加している。旧アフリカ大陸と南極だけは今でもUCの勢力圏内だが、それ以外のほぼ全ての領土を取り返したのはひとえに戦力の分散を防ぐためである。


「『ゼロ艦隊』のゼラスト様から通達!配備完了、いつでも動けるとのことです!」

「『レッドナイツ』のグレン様から通達!こちらも配備完了とのことです!」


「セラン、日本軍とネオルカ義勇軍も万事抜かりなしだ。」


先に部下2人の報告を聞いた後、朝日奈は隣に座るセランに伝える。

セランは目をゆっくりと閉じ、考えた。このままプラン通り事を進めていいかどうか。そして、ゆっくりと目を開ける。


「時は満ちた・・・・・・」


ここまでやって来たのだ。

今更、引きますなんて言葉は使えない。


「ジルトレアはこれより、第二作戦に移行する。」





西経30度

南極大陸沿岸


「これより、包囲作戦を行う!現在計画は何一つ問題が起きずに滞りなく行われている。我々アメリカンの意地を見せるぞ!」


「「「おう!!!」」」



西経110度

南極大陸沿岸


「これより、予定通り進行し、敵艦隊を叩き潰す。遅れをとるなよ!!!」


「「「おう!!!」」」



西経70度

南緯75度


「第一作戦は成功、次は第二作戦に移行する。世界を守り抜くぞ!」


「「「おう!!!」」」


日本所属のS級魔法師の1人、涼風瑞葉を中心とした『ネオルカ・ジルトレア共同軍』は見事に敵の背後を捉え、退路を断つことに成功した。

敵の索敵能力を考えた上で、ギリギリのところを攻めていた。


東に『ゼロ艦隊』を中心とした総勢100隻以上の戦艦、西に『レッドナイツ』を中心とした80隻ほどの戦艦が立ち並ぶ。

目指すはもちろん、敵艦隊の墓場ー南極半島である。これで包囲網は完成した。

あとは目前まで迫った勝利のみだ。


そして、世界最大級の包囲殲滅戦が始まった。





____________________________



どうでもいい話(尺稼ぎじゃないよ)


ノリで始めた『夕焼けの光』の更新が1ヶ月ほどしていない件についてお詫び申し上げます。

弊社としても、迅速な対応が求められる中、こうして平然としている点に関しましては大変遺憾に思っております。

ですから、ぜひ温かい目でお見守り下さいませ。


(進展0)

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