#11 戦争

~少し前~



「高エネルギー反応を確認、敵の転移魔法だと思われます!」


「何っ!転移魔法だと?そんなはずはない・・・・・・いや、ないこともないのか。おそらく『ネオルカ』の精霊使いどもの入れ知恵だな、敵の数と距離は!」


「方向は正面、距離およそ234イルテ(200km)です。」


「個体数1だと?我々をなめているのか?まぁいい、捻りつぶすぞ!!!」


「「「了解!!!」」」


イセンドラス帝国の皇帝であるダルバーク=イセンドラスはこの巨大な飛行艇『シーナ』の最高指令室に座っていた。

可愛い自慢の愛娘の名前を付けたこの飛行艇は今回の侵略のために作られた新型艇である。

この飛行艇の最大の特徴は、その収容量にある。

イセンドラス軍の主力部隊は無駄に大きいためこれぐらいの大きさが必要なのだ。


そして・・・・・・


「前方に敵艦を視認、高度約1170イルト、射程圏内に入りました。」


「こちらの高度はどれぐらいだ?」


「現在高度ー2340イルト(約2000m)です。」


「そうか・・・・・・よし、あの艦を叩き落せ。攻撃開始!」


ダルバーグの掛け声とともに、一斉に白い戦艦が砲撃を開始した。

今度の砲撃も先程同様、緑色の光線だった。





「来るよ〜」


敵の砲門がこちらに向いた瞬間、茜がそう叫んだ。つい先程の情報にあった、緑色の光線による攻撃を想定したからだ。

すると茜の予想通り、敵の砲門が緑色に光った。地球変換して、秒速およそ10kmという破格の速さを持つ圧縮魔力砲が8発もツクヨミの正面に向けて放たれた。


「敵艦隊、発砲!本艦への直撃コースです!」


「美月ちゃん、上げて〜」


「了解お姉ちゃん」


ツクヨミに搭載された、次世代の防衛システム『弾道予測システム』。

嘉神エリーナの『銀の船』の自信作で、今回の防衛戦から実戦投入された夢の新兵器だ。

その出来は、完璧の一言だった。


直撃までの10数秒の間に予測線のコースから美月は艦体を上昇させて逃れる。余裕を持って、ツクヨミの下を8本の光線が通り過ぎた。幸い後ろには海しかないので、わざわざ当たる必要もない。


そして、この『弾道予測システム』はそれだけではない。


「敵の砲撃は、圧縮した魔力を放っているみたいです。速度は秒速およそ10km、太さは直径0.5m、照射時間はおよそ1.3秒です!」


「貫通力は〜?」


「ジルトレアの艦でも10発程度なら耐えられます!」


「おっけ〜」


そう、このシステムを使えば敵の砲弾や光線の情報を瞬時に測定する事ができる。

要求される強度や使っている魔力量なども丸裸だ。もちろん、残弾数などはわからない。だが、これがどれほど有益な情報かは語るまでもない。

ツクヨミの乗組員は、すぐさま情報を司令本部へ送信した。


「まずは周りの雑魚を叩くよ〜対地対空ミサイル発射よ〜い」


「魔力反応固定、目標ロックオン」


「対地対空ミサイル〜TS76の配置完了、いつでも撃てます!」

 

「発射」


「対地対空ミサイルーTS76、発射!」


ツクヨミの左右に装備されているミサイル発射管から2発の新型ミサイルが発射された。

これも今回の防衛作戦のために急ピッチで開発が進められた新兵器だ。

速度よりも、貫通力を重視したこのミサイルは、敵魔力障壁に直撃する直前に周囲の魔力を吸収し、敵魔力障壁の抗力を弱めるというはたらきをする。


放たれた2つのミサイルは、真っ直ぐ最短距離で敵中型艦へと突っ込んでいく。音速の数倍で飛行し、例え標的が回避行動をとったとしても追尾システムが搭載されている。

しかし、遅いミサイルの前に敵の二射目が来た。


「敵戦艦、第二射来ます!」


「無視して〜そのまま真っ直ぐ~」


「了解、ハンドル固定します!」


茜は少し考えた末、ハンドルの固定を選択。

つまり数秒後、敵の攻撃が直撃するという事だ。

合間に障害物がなければの話だが・・・・・・


【結君、咲夜ちゃんお願〜い】


【わかった。】

【了解です、お姉様】


敵とツクヨミの間には、頼もしい弟夫婦がいる。

結人は、ソードモードとなったリエスで次々と攻撃を切り裂く。そして咲夜は、得意の炎魔法で迎え撃った。

龍の力を手にし、常人とはかけ離れた力を持つ2人は、光線を一つずつ確実に防いで行った。


そして、やっとのことで味方のミサイルが敵戦艦を捕らえた。


「味方のミサイル、着弾までカウント5、4、3・・・・・・迎撃されました!!!」


拡大されたモニターに、爆発の炎が見えた。しかし、その中から緑色の敵戦艦も見えた。


「敵戦艦未だ健在、被害は軽微かと!」


「敵の防空に使われたのは実弾と判明、性能などは未だ不明です!」


「茜様、こちらも第二射を放ちますか?」


茜の隣に立つ山本が尋ねる。

しかし、茜は首を振った。


「ミサイルはもういいや〜40ミリの実弾を浴びせながら旋回するよ〜」


地球の重力によって質量をもつ実弾は、失速と同時に下に沈んでいく。

敵の機銃がまだ地球の重力に慣れていないならば音速で飛来するミサイルを初見で撃ち落とすのは難しいと考えたから先程はミサイルを使用した。しかし、結果は失敗、敵の防空能力は予想以上であった。


「面舵50〜進路変更340〜」


「了解、面舵!」


高速で進行していたツクヨミは急に艦体を右に傾ける。


「射撃開始〜」


「射撃開始了解、発射!」


側面に装備された4つの砲門が火を噴く。有効射程距離150km、秒速2.5kmのおそらく実弾兵器の中で最強のレールガンを放った。

そして、秒間1発で連射を行った。


約1分後、敵の魔力障壁に直撃した。直接的なダメージは与えられていないものの、確実に敵の魔力を削っていった。


背後から撃たれる敵の砲撃をかわしたり結人に防いでもらったりしながらしばらく進むと、やがて大陸の端が見えて来た。

その向こうには大海原が広がっていた。



誘導作戦はほぼ成功した。


_____________________________


どうでもいい話


この話を書くにあたってレールガンについて調べてみたところ、今現在の最長記録は207kmらしいですね。

(情報が、古いかもしれん。)


最終的には5000kmほどを想定しているらしいです。怖すぎ

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