#9 開戦と世界の運命②



「少尉!あれを!」


戦闘配備命令を受けてからおよそ30分後、軌道上の偵察兵の1人が大声を上げた。

30分も経過していたため、偵察任務に少し厭きを感じていた時の事だった。


「ん?どれのこ・・・おい、今すぐ司令本部に通達しろ!予想通り、敵軍が攻めてきたぞ!」


「すっ既にやっております!」


この偵察兵が本部に通達をしている頃には既に何件もの目視報告が届いていた。

数や大きさ、推定される兵器などの報告が集まり、それがレーザー通信によって各ジルトレア艦隊や魔法師に伝えられる。


司令本部オールコントロールから軌道上の全ての艦隊へ、現在解析班が敵の武装について研究中だ。諸君らには作戦を継続し更なる成果を求む。】


「了解。」


【それと、こちらから先端を開くなかれ。くれぐれも慎重にとのことだ。】


「そっちも了解した。」


【幸運を祈る・・・・・・】


そこでプツンと回線が途切れる。おそらく別の部隊に今の状況を報告しに行ったのだろう。続々と湧いて出てくる敵戦艦を眺めながら


「おそらく敵戦艦だ。1、2、3・・・21隻はいるな、それに真ん中の大きいやつおそらく敵の主力艦だ。でげぇ・・・2000はあるぞ。」


「でかいですね。少なく見積もっても人類の船よりも大きいと思います。見た感じ全ての艦が空中に浮いていますね。動力は魔力でしょうか・・・・・・」



正確な数にして、濃い緑色でコーティングされた大きさ200mほど中型艦20隻、2500m程で白色の超巨大な艦が一隻。

どの艦にも魔力障壁と思われるバリアが施されており、元々そこにいたUCたちを圧力で物理的にひねりつぶした。

もちろん、ただでかいというわけではない。


「か、艦長・・・・・・」


「おうどうした!」


「敵超大型戦艦の砲台が動いております・・・・・・」


「奴ら、撃って来る気か?だがどこを狙う。ジルトレア軍は南緯60度のラインよりも南にはいないはずだ。よって光学兵器でも実弾兵器でも狙えないはず、なら狙いは陸地にいるUCどもか?だが奴らにはUCを操る術があるんだろ?それじゃあ意味が・・・・・・」


「敵砲台、段々と上向きになってきております!」


「だとしたら敵の狙いは・・・・・・はっ!!!そうか、そういう事か!!!今すぐ軌道上の全部隊に通達しろ、即全速反転の後、敵の射程圏内から逃れろ!例の巨大戦艦の目的は我々だ!」


艦長がそう叫んだ直後、敵戦艦の砲門がキラリと光った。射撃音や爆発はなかったが、何が起こったか想像はできる。


「は、発砲しました!!!」


「退避ーー!!!射線上からすぐに退避しろ、ここは高度300kmだ、超音速で飛行するミサイルでも直撃に100秒かかる、落ち着いて対処しろ!」


そんな艦長の予想は外れた。着弾するとしても100秒かかるというのは実弾における想像。そして、敵の主砲は実弾ではなく光学兵器であった。


次の瞬間、隊列を組んでいた端の二隻をレーザー光線が貫いた。魔力障壁などを一切展開していなかったため、まるで紙くず同然であった。

腹部に空いた直径50cmほどの穴が空いた直後、爆発を伴って破壊された。コンマ数秒程度の爆発なので、爆風などは無かったが、一瞬の内に2隻の有人偵察機を失った。


「な・・・・・・司令本部に通達しろ、敵戦艦に狙われている、即時離脱の許可をとれ!」


「りょ、了解!!!」


二発目も飛んできたが、流石に今度は回避に成功した。だが、この緑色の光線の恐ろしさはいやというほどわかった。先の奪還作戦で使用した宇宙戦闘用対UC砲ー『SPM1』も使ってみたが、敵魔力障壁に阻まれてまるで効果がない。

回避を行いつつ、時間を稼ぐ。


「北に友軍艦隊を確認!艦隊の中央にはツクヨミも見えます!!!」


「「「おおぉ!!!」」」


「よし、あいつらなら・・・・・・頼むぞ、黒白様」


10秒後、戦線離脱許可がとれたため、小さくてすばしっこい無人偵察機を残して、戦線を離脱した。


あれほど巨大な戦艦を浮かす技術力、艦を守る分厚い魔力障壁、どちらも人類の技術力を上回っていた。


この日が『イセンドラス史』における開戦の日とされている。そしてこの日は後のイセンドラスで『悪夢の始まり』と呼ばれるようになる。





ジルトレア第14基地ー司令本部


「最新の映像、出ます!」


「メインモニターに出せ!」


「了解!」


セランの命令に答え、画面が切り替わる。映るのは軌道上の無人偵察機からの映像だった、複雑な形をした合計21隻敵戦艦が映る。

想像していたよりもずっと数が少なく、大きい。


「報告します!敵超大型艦からの砲撃でわが軍の軌道上の偵察機に被害が出ています!」


「敵武装は!回避は可能か!」


立ち上がったセランは、大声で怒鳴る。


「光学系の砲撃のようです!射撃から直撃までの時間から逆算すると秒速10000mの超音速兵器で、回避するには魔力障壁を厚くするしかないと思います!」


「わかった、無人偵察機を残して即時離脱せよ。無人偵察機に関しては不規則変動にして敵の砲撃をできる限り回避せよ!」


「了解!」


命令を受け、すぐさまキーボードをカタカタと打ち始める。

ここジルトレア第14基地を中心とした正距方位図法の地図を眺めながら次なる指示を飛ばした。


「それで、わが軍はどうなっている!」


「はっ、現在南緯60度付近で待機していた全ての部隊が出撃を開始しました。作戦通り敵を海に引きずり出した後、反転して全力追撃を行います!」


事前の情報で、『イセンドラス』には海が少なく、75%程が陸地らしい。しかも、海のある北極と南極はとても寒く、海の上での戦闘はおそらく未経験の者が多いとい情報があったため、このような作戦が立案された。

そのため、ジルトレア本隊は人類の旗印でもあるツクヨミを中心に南緯60度付近に待機していた。あくまで慌てて駆け付けた感をだして油断させるという意味もある。



「勝算は十分か・・・・・・よし、『ゼロ艦隊』とネオルカの部隊にも指示を出せ!プランAを予定通り実行する、行動開始!!!」


「「「了解!!!」」」


敵を釣るため、『ネオルカ』人を混ぜた別動隊を用意したのだ。


そして、ジルトレア本隊とイセンドラス本隊が正面からぶつかる。

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