#6 一時の休息と確かな約束
『イセンドラス』
イセンドラス帝国ー最高執務室
「お父様、やはり戦争は止められないのでしょうか・・・・・・」
「シーナ、何度言ったらわかるんだ!もう決められた事なのだ。」
シーナと呼ばれた少女の訴えを、"お父様"と呼ばれた男が却下した。
男の名前は、ダルバーク=イセンドラス。この星の星王であった。
ダルバークが眺める窓の先には巨大な都市が広がっていた。黒塗りの荒々しいビル群を見ればここが地球ではない事がわかる。
2人がいるこの『イセンドラス』の中心とも言える建物の内部では、慌ただしく人々が動いていた。あと2年に迫った侵略作戦の準備でとても忙しそうだ。
「これまでの戦争で何を学んだんですか、これではまた争いの繰り返しです。それにかの星に元々住んでいた方達はどうするんですか!」
少女は説いた、争いからは何も生まれないと、確かにその通りだ。
その通りではあるが、それを承知で何かを為さなければならない時もある。
「心配はいらん、住んでいない所をもらうだけだ。それにかの星の者たちも進んだ技術を手に入れる事ができるなら喜ぶはずだ。」
「そうですか・・・・・・」
シーナとて、自分の意見がイセンドラスの皇帝である自分の父親に伝わるとは思っていなかった。しかし、叫ばずにはいられなかった。
故郷から逃げてきた存在である私たち『イセンドラス人』が他の星に侵略を行おうとしているのだ。愚かとしか言いようがなかった。
「失礼します、陛下」
「入れ!」
コンコンコンと3度叩かれたのに対して、ダルバークの太い声が返される。
「これはこれは皇女様、いかがいたしましたか?」
開かれた扉の向こうにいたのは、上等な服を着た1人の男だった。
この男は、帝国軍の副司令官でもある優秀な人間だ。皇帝の右腕とも言える人物で、帝国軍の指揮をしている。
「い、いえ・・・・・・」
「そうですか、特に用がないのであれば、すぐさまこの部屋から退散していただけませんか?陛下とお話ししなければならない事がありますので・・・・・・」
「わかりました・・・・・・失礼しました、お父様、トディア様。」
少女はその場で一礼すると、美しい所作でゆっくりと部屋を出ていった。
扉が閉まり、魔力反応から遠くへ行った事を確認すると2人は向かい合ってソファーに座った。
背後に控えていた執事が差し出したお茶を一飲みすると、今後の事を話し始めた。
「それで、軍の様子はどうだ。」
「先日の会議通りに進んでおります。魔法のレベルが数段劣る相手です、負ける事はまずないでしょう。」
この話の根拠は、かの星の魔力が薄いという点から来ている。魔力が薄いと、強力な魔法を使う事が出来ないというのが『イセンドラス』における魔法の絶対的な理論となっていた。
高密度の魔力を集めるには高度な技術が必要であり、高度な技術を得るためには高密度な魔力が必要であるといった具合だ。
逆に言えば、何の対策もとれていなかった。ゴタゴタに紛れて何人かの間者(スパイみたいなやつ)も送ったが、何しろ文字や言語が違うので目立った成果は一つぐらいしか得ていない。
「だが、間者からの報告ではあのキリア=メスタニアがかの星にいるという情報を掴んでいるぞ?」
「彼女1人で何ができましょうか。それにうまくいけば我らが夢、『ネオルカ』も手中に収められるやもしれません。」
「そうか、期待しておこう。」
ダルバークにとって、トディアは相棒のような存在だった。政治において天才的な手腕を発揮し、混乱していた帝国を一つにまとめ上げた人物だ。
そんな重要人物からの提案で決まった今度の作戦をダルバークが賛同しないはずがなかった。
「御意。ところで陛下、皇女殿下はまた停戦を勧めに参ったのですか?」
「あぁ、あいつには情勢というものがわからんらしい。今こそ、かの星に攻め込む時なのだ。」
「そうですぞ、陛下。かの星には広大な水と空気があるそうなのです。是非とも手に入れたいですね。」
「ああ、私は既に帝国の勝利を確信している。」
「ええ、私もそう確信しております。では陛下、私は最終チェックに行かなければならないので失礼します。」
「あぁ、頼む。」
今考えても後の祭りであるが、彼らのデータに、『黒白』という文字は無かった。もし存在していたなら争いよりも融和な道を選んでいたかもしれない。
✳︎
ホーン岬ージルトレア第14基地
「南極は、見えないんだな。」
「そうだな、あたり一面海しか見えん。それに静かだ、これなら海水浴が楽しめるんじゃ無いのか?」
「いやいや、老いぼれの海水浴にどんな需要があるんだよ、サラン。やるなら結人君や咲夜君にやってもらうべきだろ。それとここは寒すぎる。」
「ははは、それもそうだな。」
2人は、あと1週間に迫った侵攻に対する最重要拠点であるここ、ホーン岬へと視察に来ていた。
先日の第三次奪還作戦で、思ったよりも被害が少なかったジルトレアは今回、120万人という大軍を、付近に配備した。
先の作戦でその有用性が証明された衛星軌道からの狙撃作戦はもちろんの事、他にも色々な作戦が展開されている。
「それにしても豪華だな。かつてこれほど強力な要塞があっただろうか、とても1ヶ月で造られたとは思えない。」
「そうだな。」
2人が振り返った先には、今回の防衛作戦のために人類が技術という技術を結集させて作った優れもの。
人類史上最高という名前は伊達じゃない。
360度24時間365日監視できる2つのレーダー、4つの航空機発着場、3つの修理用ドック、100を超える対地対空ミサイル発射門が完備されている。
そして最大の特徴は、なんといっても中心に聳え立つ人類の切り札『魔力測定システム』先の奪還作戦で手に入れた2つの破滅級UCの核が使われている特注品で、これ一つで地球のおよそ20%をカバーできるという優れもの。
「これで、足りると良いが・・・・・・」
「これで足りなかったらどう頑張っても無理という事だ。そうだろ?朝日奈」
「そうだな。」
『イセンドラス』とは対照的に、不安で一杯な『ジルトレア』陣営であった。
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ウィキペディアかなんかで調べてもらえれば分かると思いますが、TRAPPIST-1dの公転周期は地球時間でおよそ4日しかありません。だから攻撃までの時間にずれがあるのです。
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