#5 結果と歩み⑤
「久しぶりだな、諸君。私も諸君らの顔を久しぶりに見れて快く思う。」
1月6日、2か月ぶりに教卓に立った『国立魔法師育成学校東京校1年Aクラス担任ーー立川千春』はクラスを見回した後、朝の挨拶をした。
10月までは25人いたこのクラスの人数は20人に減っていた。
藁科兄妹と嘉神咲夜、和良楢桃、仙洞田樹の5人から、先日休学届を提出された。当然、全て受理され、無期限の休学となった。
「まぁ多少休学の者もいるがそこは察してくれ、かく言う私も13日には招集がかかる。今年の生徒たちには満足に教えてやることも出来ずにいたことを申し訳なく思う。」
立川千春は、先生であると同時に魔法師でもある。招集がかかれば赴いて、命令のままに動く兵士でもある。
「そして、既に知っていると思うが、君たち学生諸君にも招集がかかっている。現地に赴いて戦闘をするような事にはならないと思うが、自分のできる最大限の事をやってほしい。」
「「「はい!」」」
ふざけている者は1人もいない。超エリートコースである魔法師育成学校のAクラスに選ばれたという誇りを誰もが持っていた。
「では、今日は初日という事で始業式、清掃をした後解散だ。全員、行動開始!」
「「「了解」」」
大きな声で返事をすると、生徒達はそれぞれの仕事を始めた。
✳︎
長ったらしい始業式がついに終わりを迎え、解放された生徒達は事前に割り振られた掃除分担場所へ移動して清掃活動を始めた。
生徒の手による清掃は、2050年となった今でも当然のように行われていた。
清掃員ぐらい雇うべきだといつも思うが、過密事項が色々と多いここー東京校には確かにセキュリティー上、不可能なのかもしれない。
「ねぇ、結局4人とも来なかったな。」
「そうだな。ただ者じゃないとはわかっていたが、実戦に参加するほどだとは・・・・・・」
置いてかれた組である雷華と大和は、掃き掃除をしながら笑い合う。
4人との別れは突然だった。実施が予定されていた人類史上最大の奪還作戦。もしかしたら自分も選ばれるかもと、期待をしていたのは事実だ。
しかし、父さんは首を縦に振らなかった。考えてみれば当然のことだ。自分程度が戦場にノコノコ出て行っても邪魔になって終わるだけだ。
だから、みんなも行かないものだと思っていた。しかし、彼らは今ここにいない。
元気にやっているのだろうか、黒白様だったり紅焔様の活躍はたくさんニュースに流れている。しかし、彼らの活躍は聴こえてこなかった。
いや、もしくは既に聞いているのかもしれない。死者数という名の数字で。
「結人と咲夜が私より強い事は悔しいが認めざるを得ない。あいつらはもしかしたらA級に届いているかもしれないほどだ。だが、私には桃まで選ばれた理由が分からん。」
「それはあれじゃないの?MTFの時の固有魔法・・・・・・」
「あぁ、アレか。確かに凄まじかった。あの魔法・・・・・・当然初めて見たものだったが常識をこえていた。」
「やはりそなたも同じように思うか。私もそこが一番すごいと思った。おそらくあの固有魔法が彼女が軍に認められた理由なんだろうな。」
「自分達も負けていられませんね、さぁさっさと清掃活動を終わらせて魔法の練習へと行きますか。」
「そうしよう。」
2人は、
✳︎
この訓練場は、以前まではあの2年生最強とも噂される黒崎空専用の練習場だった。
多くの生徒が聞けばずるいと騒ぐかもしれない話だが彼だけは特別だ。普通の魔法師と同列に置いて良い存在ではない。
そんな空は現在、遠征中なのでこの学校にはいない。
そこで、空は学校を休学となる数日前、大和にこの練習場の使用権を貸し与えた。
そしてその日から毎日、大和は雷華とともに魔法の練習に励んでいた。
3時間ほどでトレーニングを終えて、帰路につこうとした時、客席に顔をよく知った5人の生徒がいた事に気づいた。集中していて気づかなかったが、いつの間にか彼らがそこにいた。
「お疲れ様、そして久しぶりだね、大和。」
「結人・・・・・・それにみんなも・・・」
「結人君・・・・・・」
皆さまお久しぶりです、と丁寧に挨拶する咲夜
よっ!おひさー、と軽い感じで挨拶をする樹
こんばんは〜、と一歩引いた態度をとる美月
元気にしてた?、と雷華の手をがっちりと握りながら微笑む桃。
5人とも5体満足で笑顔を見せた。対する2人は、少し驚いた顔をしながら5人をまじまじと見つめた。
「み、みんな・・・」
「お、お前ら忙しいんじゃなかったのかよ。」
「いやー忙しいには忙しいんだけどね?一日だけ休みをもらったからさーどうせなら会っておこうかなーって・・・・・・」
この話、嘘である。
人類の最高戦力たる結人に休みなど存在するわけがない。今日はたまたま、東京校の学生達の実力調査という名目で来ている。
これは、朝比奈さんと茜からの謝罪であり、妥協らしい。
「聞いたよ、大和も戦場に出るんだってね。」
「出ると言っても多分後方だよ、自分が出ても邪魔になるだけさ。」
「そっか・・・・・・」
「昔だったら振り切って前線に走って行ったかもな。たが最近はこうも思うんだ、何も戦うだけが魔法師じゃない。諦めたわけじゃないが昔より熱意を失っているのは確かだな・・・・・・」
大和は、以前と比べてだいぶ丸くなっていた。もちろん、性格としてだ。
「でもな、無駄な熱意が抜けたおかげか以前より強くなっている気がする・・・・・・」
「そうなんだ。」
久しぶりに会えた友人と話ながら、結人は何故かこれが最後の会話のような気がした。
この妙な感覚に困惑する。
「終わりそうか?戦争は・・・・・・」
「わからない。でも、終わるように努力はする。」
「頼んだぞ・・・・・・」
その、力の抜けた大和の声が、何故か結人の心に深く刺さった。
まるで、何かを見透かされているよな。
決戦の時はすぐそこまで来ていた。
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戦争は、人を変える。
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