#2 結果と歩み②



円形のテーブルに不自然に空いていた2つの席、そこに僕の祖母キリア=メスタニアと、『ネオルカ』人と思われる男が座った。

もう1人の『ズク』という名の男も資料で何度か見た事はあるが、こうして相対するのは初めての事だ。

魔力量は、咲夜より少し多いぐらいで、実力は地球基準でA級の上位といったところか。

小柄な体格に中世的な顔つきで、町を歩いていても違和感はないだろう。

そしてその後ろには以前闘った額からツノの生えた女性が立っていた。名前はメルリア、キリアの親衛隊をしているらしい。護衛の仕事だからかめっちゃ睨んできている。その隣の大柄な大男もなぜか僕を睨んでいた。怖いからやめて欲しい。


彼らが地球にやって来たのは結人の覚醒が始まった直後の事だ。

メルリアの固有魔法である、光速移動とワープを使って2週間かけて『ネオルカ』からこの地球へとやって来た。

逆に言えば、『ネオルカ』人はメルリアを失えば帰星する方法を失うと言う事になる。キリアだけは自力で戻れるらしいが、一緒にやってきた他の8人は厳しくなるらしい。

結人は、ボイコットされたらどうするんだろうと、呑気な事を考えながら耳を傾けた。


「私は、精霊王国女王 キリア=メスタニアだ。諸君らも存じている通り、私は地球時間で20年ほど前この地球で偽りの戸籍とともに奮起していた。では、何が起きたのか私の知る限りの事を話そう。」


全員の緊張がいっせいに高まる。

世界中の研究員にとって『UCとは何者なのか』という議題は永遠の謎に思われていた。

何度解剖してみても大して成果が得られず、挫折する人は絶えなかった。


魔法だから、そう言葉にするのは簡単である。

ただそれは、自分の失敗を、相手のせいにしたり、道具のせいにするのと何も変わらない。


そんな、人類最大の謎が今明かされようとしていた。

キリアは、落ち着いてゆったりとした口調で話し始めた。ちなみに言語は日本語だ。


「私たちの故郷、『ネオルカ』はここから40光年先の星だ。7つの惑星の内の中央から5つ目の星だ。私たちの祖先は、緑豊かなこの星で精霊達と共におよそ1万年前から暮らしてる。私たちの星に国は1つだけ、つまり私は国王であるとともに星王でもあるわけだ。」


人類史にも、世界統一を図った偉人はたくさんいる。王たちが、より大きな国になろうと戦争を起こす時代もあった。

だが、現実的にみてそれを実行するのはほぼ不可能と言わざるを得ない。

人間は、民族や宗教といった概念に囚われる事を望む。同民族や同宗教の人間に対しては何故か甘い目で見る者が多く、異教徒や違う民族の人間とは争いが絶えない。

そしてお互いがお互いを尊重しないため、一つにまとまらない。



「我が国の国民は全員が全員、精霊を信仰している。稀に、精霊と契約してない者もいるが9割以上は相棒となる精霊と共に暮らしているのだ。」


その点、『ネオルカ』には精霊を信仰していないネオルカ人はいない。いや、正確にはいなくなったが正しいだろう。

では、どこに消えたのか、その答えには『イセンドラス』というもう一つ星が関わってくる。


「だが地球時間でおよそ2000年前までは精霊を信仰しなかった者達もいた。元々は精霊と契約していないという理由で受ける迫害から身を守るために集まった一団であったが、精霊に頼らなくても魔法が使える事を知ると、その勢力をどんどんと拡大していった。」


懐かしむような顔をしながら、キリアは続ける。


「当時の王家は、8000年の歴史があるネオルカが割れるのを恐れた。そして、3度に渡る交渉は全て破談、内乱が勃発した。反乱軍のリーダーであった男は、非精霊術師の中で最強と言われていた若い男を仲間に引き入れ善戦をした。しかし・・・・・・」


そこから、キリアは事の展開を述べた。

最初の戦争で勝利をした反乱軍だったが、当時のネオルカ王国の王家はそれを微塵も許すつもりはなかったらしい。

すぐさま、投入可能な全部隊を投入し鎮圧を図った。女子供合わせても3万ほどしか居なかった反乱軍はどんどんと前線を後退していった。

だが、リーダーとなった男は頭が良かった。始めから負けるとわかっている無謀な争いはしなかったのだ。反乱軍の前線部隊に出した命令は時間稼ぎであった。

彼らは最初から『ネオルカ』を見捨てて別の星へ移住する計画であった。当時の技術力を駆使して唯一移住可能であった内側から4つ目の星への移住だ。

彼らは『ネオルカ』から1つ内側の星を目指した。移動前、反乱軍最強の男が現地調査に行って移住可能な事は確かめてくれていた。

その星は、『ネオルカ』に比べて重力が小さく暑かったが、水や緑があり空気もあった。

地球時間でおよそ半年に及ぶ攻防の末、反乱軍の移住計画は成功した。

移住に成功した反乱軍メンバーはおよそ2万人程度、これは当時の『ネオルカ』のおよそ0.5%程度であった。


「移住計画は、『ネオルカ』上層部が思いもよらないものだった。そのため、追撃案などは軒並み却下されて、国民に不安を与えない事が第一とされ、そして戦争は終わったかのように思われた。」


反乱軍のリーダーであった男の名前をとって『イセンドラス』と名付けられたこの星は次々と発展していった。

2万人しかいなかった人口は毎年、10%ほどの割合で急増していった。

現地にいた動物や植物の栽培や畜産で食糧供給は安定し、様々な発明で『ネオルカ』の文明力をわずか20年足らずで抜いた。

努力家であった『イセンドラス』人は、充実していた。しかし、彼らは愚かにも復讐を望んでしまった。


移住から50年後、共和国であった『イセンドラス』の評議会で、議長として『イセンドラス』をまとめていた元反乱軍リーダーだった男はあくまで共存の道を進もうと考えたが、『ネオルカ』に不満を持つ議員達に暗殺され、評議会を乗っ取られた。


その年、非精霊術師の中で最強であった男『ワリーシナ』は当時の評議会に不満を持ち家族と共に姿を消した。一説には、『ネオルカ』に戻り、隠居生活をしていると考えられていた。


最高戦力の離脱により、戦力を大幅に落とした『イセンドラス』は復讐を断念、再び睨み合いの時代が続いた。



____________________________



もう一話だけ説明回が続くと思います。

ですが、話の辻褄を合わせるために必要なので是非読んでください。

よろしくお願いします。

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