最終章 最強の夫婦とフィナーレ

プロローグ

結人が藁科家の中で最も好きだったのは、まず間違いなく祖父ー藁科隆元だ。

結人は俗に言うところのおじいちゃん子ってやつだ。魔法師としての仕事で忙しい真人と琴音の代わりに結人と茜の魔法の先生をしていた。


藁科隆元は名も無き英雄である。

彼が18歳の時、世界は大きな転換期を迎えた。言わずと知れた『悪魔の日』である。あれだけ自信満々であった各国の軍部は自慢の航空機や空母が次々と沈められ、もはや海上での戦闘に勝機はないと誰もが悟った。

何しろ敵は、高速で水中を移動できるのだ。魚雷が当たるはずもなく、銃弾は水の抵抗に負けて失速してしまう。まさに八方ふさがりであった。


彼が全盛期の時代、人々はまだ魔法という存在を知らなかった。そのため、例え味方であっても魔法の存在は秘密にしなければならなかった。

海に古参家のメンバーを連れて潜り、味方のレーダーに引っかからないように敵UCを討伐して回る。そしてもちろん魔法の痕跡も残すことはできない。

討伐したUCは全て原因不明か、共食いだと思わせた。


「父上、今こそ魔法の存在を全世界に知らしめるべきです!このままでは世界に大きな被害が出てしまう恐れがあります!今一度ご再考を!」


隆元は、自分の父であり当時の当主に何度も懇願した。しかし、当時の当主はそれを聞き入れなかった。『藁科の掟』の一つである、魔法の存在を公にするべからずという掟に従ったのだ。

隆元は、真面目で馬鹿正直な男だった、そのため世界に先陣を切って魔法を広めるような事はしなかった。


その判断が正しかったかそうでないかは正直なところよくわからない。はっきりといえる事はただ一つ、人類は緩やかに後退していった。


隆元も最初は順調だった、いずれ妻となる自称アメリカ出身の女性キリア=メスタニアと出会ったことによって活力が生まれ、キリアを陰からサポートした。

キリア=メスタニアの名が世界的に認められるようになると、隆元はキリアとともに前線に立ち、最終防衛ラインを守り切り、日本本土へのUC侵攻という最悪のシナリオは防ぐことができた。そして、キリアと結婚し、1人子供も生まれた。

しかし、38歳を迎えた頃、悲劇がおこる。

隆元は災害級との戦闘の末、大怪我を負ったのだった。

隆元は、当時の中では日本最強を名乗れたかもしれないが、現代で言えばA級魔法師の下位の方程度の実力しかなかった。

隆元の相棒である水海龍が守ったため何とか一命はとりとめたものの、前線への復帰はほぼ不可能となった。


前線を離れた隆元は自身の子である真人に魔法を教えることにした。家中を探し回り、古い文献を見つけては真人に読んで伝えた。

真人は隆元の期待に応え、歴代最高傑作と呼ばれるまでに育て上げた。日本が生み出した奇跡と、国内外で高く評価され真人はぐんぐんと成長していった。

息子の成長を楽しみながら、自分にはもう教えることは無いなと悟り完全に一戦を引いた隆元にさらなる悲劇が訪れた。


最愛の妻、キリア=メスタニアの行方がわからなくなったのだ。

第2次奪還作戦のおり、突然姿を消したのだ。

後に登場した魔力測定システムでも、その姿は確認できなかった。

完全に心を折られた隆元は、その後藁科家の本家でひっそりとした生活を送った。



しかし、そんな隆元にも楽しみができた。

新たにできた孫、結人である。

茜の方も可愛いかったが、茜は隆元にはあまりなつかず、母方の実家ばかりに通っていた。その点、結人の方は、隆元の元へよく遊びに来た。


「お爺さま、次の魔法をお願いします!」


「お〜お〜、もうできたのか。結人はすごいな〜」


「うん!咲夜にもすごいって言われたよ!」


「そうかそうか、それはよかったな。」


「うん!」


結人が藁科家にやってきて1年半が経過していた。どんどん藁科の魔法を吸収していった。

幼い頃から藁科の魔法に触れていたわけではないのにも関わらず、その成長速度は異常であった。


「魔法操作技術、身体能力、魔法式構築速度どれを取っても一級品だな。これは・・・・・・既に真人を超えているな。」


隆元が眺める先には自身の純白の龍剣を振るう結人の姿があった。そして、その周りには4色4本の龍剣。

何度調べても、何度見直しても龍剣であった。

もちろん、1人の人間に龍剣が5本も宿った例はこの2000年の歴史に一度として出ていない。そしてもう一つ、龍の世界において白というのはこの上なく高貴な龍しか使ってはいけないらしい。


息子である真人の龍が龍の中でも5本の指に入る強さを持つと聞いて、大いに喜んだ。

だと言うのにそんな彼女でも色は黒紫。ちなみに黒は白の次に高貴な色らしい。



そして、結人の龍剣の色は白、それも純白。

一体どれほど強いのか想像がつかない。そのため隆元は結人の将来が楽しみで仕方がなかった。


結人を強くする、という目標を得た隆元は、途端に元気になり結人に藁科の魔法を徹底的に教え込んだ。


だが、そんな幸せな時間も長くは続かなかった。

結人の軍への入隊

わずか1年足らずでのS級への昇給

咲夜との婚約

などが影響して隆元と結人が会う機会は半減した。それと同時に、結人の扱う魔法は本人しか理解できないほど高レベルな魔法になっていった。


そして悲しい事に、結人は隆元に魔法を教わる事を望んだ。しかし、このままでは自分が結人の成長の足枷となってしまうと考えた隆元は自ら身をひいた。



✳︎



時は流れ、2044年の冬。ついに隆元は倒れた。医療が発達していたとはいえ、もう治せないレベルまで傷ついていた。


「お爺様!お爺様!!!」

「親父・・・・・・」


「曾孫の顔が見られなかった事だけが唯一の心残りだが、私は生涯幸せだった。これほど可愛い息子や孫たちに囲まれて幸せだ。みんなありがとう・・・・・・」



最後、家族に見守られながら、静かにこの世を去った。

真人や琴音、そして茜と結人は泣き、その死を悲しんだ。

結人の隣で結人の手を一生懸命に握っていた咲夜は、自分が泣いたらだめだと考え、ずっと結人を支えいた。



数日後、悲しみで自暴自棄になりかけていた結人はその怒りを敵UCに向けて放ち、人類で初めて破滅級UCの討伐に成功した。



✳︎



「ん・・・・・・」


「あら?結人さん、おはようございます。今日の結人さんはなんだか嬉しそうなご様子ですね。何かいい事がありました?」


「お爺様との思い出が夢の中で出てきてたんだ。」


「隆元お爺様のですか・・・・・・それは何と言っていいのやら・・・・・・」


「お爺様はさ、キリア=メスタニアが僕の叔母だった事すら秘密にしていたじゃん?でもさ、今夢に出て来たって事は・・・」


「キリアさんを大事にしてあげてって意味かもしれませんね。」


「僕もそう思ったよ。多分お爺様は本当に愛していたんだと思う。だからさ、お爺様にお礼をしようと思う、今度は僕が助ける番だ。」


「応援します、結人さん。」


「うん、頼むよ、咲夜」


「はい!結人さん」

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