#24 分かり始める世界の真実③

「お兄ちゃん・・・・・・そんな・・・・・・やだよ・・・。私を置いていかないで・・・・・・」


美月も膝から崩れ落ち、結人の手を握る。咲夜は、結人の狐の面を取ると彼の顔を抱きしめた。まるでまだ生きているかのように気持ちよさそうに寝ている。


本当に寝ているだけであればどんなによかった事か。今はまだ何故か心臓が動いているが、いずれ止まってしまう事は目に見えていた。

時間魔法が通じない以上、咲夜にはもう救う手立てを持ち合わせていなかった。

諦めない心を持ちながらも、どうしようもない現実に半端諦めかけていた。



✳︎



気を失い、地面に寝ているキリアには目もくれず、2人は一生懸命に結人を抱きしめていた。どうすることもできず、ただ神に祈るばかり。


そんな、パニック状態に陥っている2人の様子を、もちろん大精霊たち4人も一方的に眺めていた。。

大精霊たちとて心はある、出来る事なら今すぐ彼女達に彼は無事だと伝えたかった。しかし、エネルギーのほとんどを結人の進化へと注いでいたため、伝える事ができなかった。

大精霊たちは自分の姿を現実世界に顕現させる余裕すらないほど、解析を行っていた。

一方の咲夜と美月も、今現在の2人では大精霊の気配すら感じとる事ができなかった。


そしてもう一人・・・・・・もちろん彼女もその様子をみていた。

プライドの高い彼女は自分のせいで迷惑がかかる事が許さなかった。



✳︎



結人が倒れてから5分が経過しようとしていた。

先程と全く同じ様子で2人は結人を抱きしめながら泣いていた。もうどこにも希望は残っていない様子であった。


そんな中、動けないはずの少年は徐々に魔力を集めうっすらとだが光を放ち始めた。

少しずつ、少しずつ。

最初は微々たるものだったが、ちりも積もれば山となる。


「お兄ちゃん?」

「結人さん?」


結人の髪がうっすらと白く輝いているのを感じた2人は、声を揃える。止まりかけていた心の歯車がゆっくりと回り始める。

そしてそこから指数関数的に輝きを増した。

最初は、原因不明の呪いのようなものに犯されてしまったのだと絶望していた2人だったが、ここまでくれば2人にもこの現象の正体に気づいた。

棄てていた、小さな小さな可能性が再び火を吹いた。


「「もしかして・・・・・・第四段階?!!」」


自然と声が揃う。驚きと喜びで頭の中がいっぱいになる。

いい意味で涙があふれてきた。


第一から第三段階と第四段階の間にある差は山よりも高く、海よりも深い。

そもそも、第四段階に到達している人間が片手で数えられる程度しかいないので一概には言えないが、第四段階への覚醒には昏睡を伴う場合がある。

グレンだけは昏睡状態にならなかったが、他の4人は昏睡状態に陥っている。

もちろん、咲夜もその昔、急に倒れた経験があった。


だが、自分の時とは明らかに様子が違う。

両親から聞いた話では、咲夜は昏睡状態中ずっと周囲に膨大な魔力を撒き散らし続けていたらしい。

炎の大精霊が召喚されるような事は無かったが、凄まじい存在感を発揮していたらしい。

ちなみに結人は仕事が忙しく立ち会っていない。


「結人さん・・・・・・ついに第四段階に・・・・・・」

「よかったね、お兄ちゃん・・・」


2人はもう一度両サイドから抱き締めると頬に軽くキスをした。

された側である結人に変化はないが、した側である2人は急に恥ずかしくなる。


「結人さんが不快にならないようにひとまずサンティアゴへと移動しましょう。私が結人さんを運ぶので美月さんはあちらの女性を運んでください。」


「え~~私がお兄ちゃんを運びたいな~~」


「いいえ、結人さんを運ぶのは妻である私の役目です。」


「は~い、わかったよ。」


美月は少し残念そうな顔をしながら、下で気絶している女性を担ぎ上げる。

キリア=メスタニア、いやというほど聞いてきた人類の古き英雄。


「くれぐれも丁寧にお願いします。おそらくその人は・・・・・・キリア=メスタニアですから・・・・・・」





結人は、自分と咲夜の部屋に寝かされ、キリアは、意識を失ったまま高速輸送機へと乗せられた。

美月が同乗したので例え彼女が起き上がっても対処はできると司令部が判断したからだ。

そして、その日のうちに現在司令本部が置かれている旧エクアドル首都キトへと運ばれた。

結人ー黒白が『第四段階』への覚醒のために昏睡状態になってしまったという情報は混乱を避けるため上層部の一部にのみ伝えられた。

表向きには遊撃隊として世界各地を飛び回っていると説明された。


それからおよそ2時間後キリア=メスタニアの身柄は本部へと到着した。

上空でジェットエンジンによる飛行から美月の魔法による飛行へと切り替えられ、滑走路を使わずにドックに入る。


美月がスロープを使って降りるとセラン自らが出迎えた。その隣には護衛のためか、グレンも並ぶ。



「やぁ『白銀』君、彼女はどこだい?」


人前なので、美月を『白銀』と呼び、出迎えた。だが、セランの意識は全てキリアへと向けられていた。


「荷台に積んであります。」


指を挿しながら答える。もうすぐ運ばれてくるだろう。

美月はとりあえず、現状を伝える。


「キリア=メスタニアと思われる女性に今のところ目立った外傷はありません。原因はわかりませんが、気を失っているようです。一応念のため拘束具の類を付けてあります。」


「了解した。ゼラストがもう少ししたら帰って来るから、帰ってきたら君はお兄さんの元へと向かいたまえ。」


「了解!」


普段なら絶対にしない敬礼をすると、セランも敬礼を返した。

 

「おいお前たち、先程説明した部屋にキリアを運んでくれ」


「「「はっ!」」」


セランの指示に、後ろに控えていた4人が答える。


「さぁ蛇がでるか邪が出るか、嫌な予感が当たらないでくれよ。」


運ばれていくキリアを見ながら、セランはそう呟いた。

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