#23 分かり始める世界の真実②
「500年か・・・・・・」
「500年間、結人さんとずっと一緒・・・・・・最高です。」
想像を超えたリエスの力。
それは、人間のレベルを遥かに超えていた。
流石は超生物、『暗黒龍ーヨルフィア』を見ていてもわかるが、龍というのは不思議な生き物だ。魔法を使う魔法師がいうのもなんだが、物理学における絶対的な定理『質量保存の法則』はどこに消えたのだろうか。
息をするかのように、とても真似できない芸当をいくつも披露する。姿形も自由自在に変形することができ、人間離れした魔法操作技術を持っていた。
見れば見るほど龍という超生物の謎が深まるばかり。
とにかく存在しているだけで世界の根底を揺るがしかねない存在であることは確かだ。
人間、ひいては全ての生命体にとって『生命』というものは何よりも大切なもので、『生死』というものは何よりも重くとらえられるものだ。
これは世界に多大な影響を与えている宗教にも言える。信仰している国や地域、対象が違ったとしてもキリスト教なら天国、仏教なら極楽浄土といった風に、宗教には死という恐怖を和らげるという考え方があるから成り立っている部分がある。
いつの時代も、死への恐怖からの脱却はできないからだ。
リエスの話では、500年とまではいかないものの、普通の人間でも200年ぐらいは生きれるようにできるそうだ。
また、結人が魔法を使える事からわかるように、魔力回路を作り付与する事もできるそうだ。
これがどういうことなのかはもう、話すまでもないだろう。
お金を払えばもう100年健康に生きれると話があれば、誰もが喜んでお金を払うだろう。中には全財産を差し出してくる者もいるかもしれない。
リエスという存在は金のなる木であると同時に争いの火種にもなりかねない。
最悪第三次世界大戦が勃発してしまうかもしれない。
もしそんな情報が出回ったらと考えると恐ろしい。収集のつけようがないからだ。
「リエス、お願いなんだけどさ。魔法を使えば寿命を延ばすことができることは秘密にしておいてほしい。別に、この力を独占したいわけじゃない。でもこの力はあまりに危険すぎる。」
「私からもお願いします。あなたのことを認めますので・・・・・・」
「認める?やっと伴侶として認めてくれってことかしら。」
咲夜からの予想外の返答に、リエスが聞き返す。だが、咲夜の回答は斜め上を行っていた。
「はい、このような未来が来ることは薄々予想していました。まぁ一匹ぐらいならいいですよ、ペットを飼っても。」
「ちょっと?もしかしてこの私をあのような下等生物と一緒にするつもりかしら。」
とびっきりの笑顔で、咲夜とにらみ合う。リエスが龍だとしたら咲夜は虎といったところか、またもや一瞬即発ムードに逆戻りだ。
「トカゲって餌は何を与えたら良いのでしょうか。」
「わかんない、きゅうりとか食べるんじゃない?」
「結人ものるな!」
おっと危ない危ない、雰囲気に流されるところだった・・・・・・
ストッパーの僕まで流されたら本当にカオスになる。
「まぁそんな冗談は置いといて、いいわよ、さっきの話。」
「ありがとう、リエス。」
「精霊の子たちには私から伝えておくわ、それと~ヘレナについても私からうまく伝えておく。でも人間が偶然発見した場合の責任はとれないわよ。」
「それで十分だよ、ありがと、リエス。」
「どういたしまして。あ、それよりあのことは伝えなくていいの?咲夜。」
「そうですね、まずはそこから話しますか、結人さんがいなくなったこの三日間の出来事を・・・・・・」
*
結人の覚醒が始まった直後
咲夜はこれ以上ないほどの焦りを感じていた。
急に、自身の契約している炎の大精霊であるフィルから「ちょっと言ってくる」と言われ、気になって行方を追ったみたら、<ゼロ・ノート>も四重の次元バリアも解除された状態の愛する人を見つけた。
意識が途切れたのか、空中でグラッと体勢が悪くなると頭の方から崩れ落ちた。
加速魔法を用いて近づき、全身で結人を受け止めた。抱きしめると、すぐさま顔を結人の胸へと当てた。心臓は動いているが、息をしていない。
「そんな・・・・・・」
慌てながら、魔力障壁を展開する。作りはとても粗いものであったが、今は想い人を助ける事が先決だ。
結人を、魔力障壁の上に寝かせる。顎を少し上げ気道を確保すると人工呼吸器を行った。
いつものような邪な気持ちは一切ない。
ただ純粋に救いたいという気持ちが強かった。
1分、2分と続けるが、結人が戻ってくる様子は一切ない。咲夜の頭に不安が募る。
このまま続けても効果は表れないだろうと判断した咲夜は作戦を変えた。
通信機を取り出して、美月を呼び出す。もちろん、緊急連絡用のA1回線でだ。
彼女の力を使えば、この世に治せないものはないと考えたからだ。
美月が来るまでの間、咲夜は荒技を試みた。
魔法を使って生み出した酸素を、直接肺に届けようとしたのだ。心臓が動いているという事は血液が循環しているという事、ならば赤血球や肺胞も仕事をしてくれるはずだ。
成立しているかどうかはわからないが、何もしないよりはましだ。
「お願い、戻って来て・・・結人・・・・・・」
神に縋るかのように白い髪を生やした結人を抱きしめる。
まだしっかりと体温も魔力も感じる事ができた。
ここで、咲夜が冷静でいたとしたら間違いなく気づけた事に咲夜は全く気づかなかった。
60秒ほど経過して、飛び込んできた美月は何も言わずに第二段階の固有魔法を放った。
死者すらも蘇らせる時間魔法。
当然、<ゼロ・ノート>どころか、魔力障壁すら展開していない結人に直撃した。
しかし、いくら待っても呼吸は戻らない。
「ひっく・・・ひっく・・・私が弱かったから・・・・・・支えてあげられなかったから・・・・・・」
心の中の弱い部分が露出し、弱音を吐いた。
咲夜の心はとてつもなく硬い。
まだ15歳の少女が親元を離れ、化け物と戦っている事を考えれば心が硬い事に納得がいくだろう。
だか、それと同時にどうしようもなく脆い。
結人という支えを、失った咲夜の心が壊れるのは当然の事だった。
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