#19 古き英雄②

キリアとグレンがどんぱちやり合っていた頃、結人と咲夜はそんな事には全く気づかず掃討戦を行っていた。

旧ブラジル首都のブラジリアの占拠が完了したという報告が入ったため、第二目標であるブエノス・アイレスに向けて飛んでいた。

昨日のうちに垂直発着が可能な戦闘機数百機とともに大量の物資が運び込まれたので、安全だと判断したのだ。


後方には、数百機の爆撃機、戦闘機、輸送機が付いてきている。そしてその中には、樹、桃、空の3人も混ざっていた。

また、美月はサンティアゴにてお留守番である。

空の旅は思ったよりもUCの姿が見えず、楽な飛行であった。


「あれだけ警戒していたのに拍子抜けだかな、樹」


「ははは、何言ってんだよ。結人がいるんだから危機に瀕する事なんてあるわけないだろ?」


「言えてる。」


樹と空は、軍から支給された黒いコートを羽織りながら高度7000を飛行する。ちなみに、桃は寒いと言って輸送機の中に閉じこもっている。


実際、結人の視界に入った敵UCは補足され次第に愛刀である『絶夜』に串刺しにされていた。

そのため、補助として付いている航空部隊はいないようなものだった。


そんな平和な空の旅はある時突然終わる。


「報告します!ジルトレア本部より通信が入っております!チャンネルは「アルファー2」です!」


「了解です。」


結人の耳についた無線通信機から連絡が入る。結人は、魔法でチャンネルを合わせる。

アルファー1は緊急、アルファー2はセラン本人、アルファー3は司令本部との通信となっている。

それ以外のチャンネルはそれぞれの部隊が連携をとるために使われていた。


「こちら『夜明けの光』所属、黒白です。要件をお願いします。」


「すまない結人君、緊急事態発生だ。結人君一人で今送信した地点ポイントへ向かってくれ。結人君以外の夜明けメンバーはそのまま第二目標地点の制圧へ向かってくれ。」


「了解です。」


結人は、その場で敬礼しながら通信を切断した。


【今伝えたとおりだよ、咲夜。緊急事態みたいだから行ってくるよ。】


【また私はお留守番ですか?】


【ごめんって咲夜。緊急事態みたいだし・・・・・・・・今度埋め合わせはするよ。】


【絶対ですよ、結人さん。】


【それじゃ、あとよろしく。】


結人は、咲夜の頬にキスをすると西に向かって進行方向を変えた。

加速魔法を駆使してすごい速さで飛んでいく。そして、あっという間に見えなくなってしまった。


【全隊員に通達します。、黒白は本部からのお呼び出しによって部隊を離れました。私や魔法師がたくさんいますが、万が一のことがあるかもしれないので警戒を怠らないで下さい。】


「「「了解!」」」


少し上機嫌な咲夜の声が部隊全体に伝えられる。だがこの時、咲夜は一ミスを犯してしまった。


(なぁ、今夫って・・・)

(あぁバッチリ言ってたな。)

(きゃーきゃー)

(ついに!)

(この作戦が終わったら結婚しよう的な?)

(死亡フラグじゃん)


本人達は聞かれないように小声で話しているつもりなのだろうが、咲夜ならば魔法で聞くことができる。

少し顔を赤くしながら、結婚というパワーワードについて考えるのであった。



✳︎



「落ち着いて聞いてくれ。10分ぐらい前に、超高密度の魔力の集まりを軌道上の観測衛星が感知した。君に向かってもらってもよかったが、せっかくだから夫婦の時間をとってあげようと考えたのだが・・・・・・」


結人は通信端末に送られてきた座標に向けて高速飛行をしていた。その合間、伝えておきたい事があると言われてセランと通話していた。

レーザー通信システムを採用した通信のおかげで超音速飛行をしても声は聞こえる。


「キリア=メスタニアが現れた。本物かどうかまだ確信はないけど多分本物だ。容姿は完全に一致していて、流暢な日本語を話しているそうだ。表向きには君の任務は敵人型UCの排除だができれば無傷で助けてやってほしい。いろいろと、伝えたい事があってな。頼めるか?」


「わかりました。第二段階は使わないようにします。最悪、美月に任せれば再生ぐらいできるので何ともないと思いますが・・・」


「あぁ、それで頼む。すまんな・・・・・・私にとって彼女は大切な人なのだ。」


「はい・・・・・・それでは。」



キリア=メスタニア

結人も直接会った事はないが、映像であれば何度も見た。何度も話を聞いた。

『古き英雄』

何故彼女が再び現れたのか、考えられる可能性は2つしかない。


敵か味方か、共に明日を目指せる人物かどうか、判断が必要だ。



✳︎




「はぁ、はぁ、はぁっ・・・・・・」


「おや?さっきまでの威勢はどこに消えたのですか?」


グレンは、キリアに対する攻撃手段が尽きようとしていた。いかに魔力が無限にあっても精神にはダメージが蓄積されていく。疲れは溜まっていくし、集中力もすり減っていく。


控えめにいってボロボロだった。

こんなに差があるとは正直思っていなかった。


古い記録にあるとおり、風の精霊使いであるキリア。

どんな魔法を使うかはある程度は知っていたが、全く対応できない。

そろそろ限界も近いと思っていた時、アルファー2回線で通信が入る。


「どうしました?怖気付いりました?」


「大丈夫だ、計画通りだ。もうお前の負けだ。」


「え?」


「俺は最初からお前を倒そうだなんて思っていない。」


「負け惜しみかしら。」


「正確には、お前を倒すのは俺じゃないと言う事だ。あとは頼んだぞ、結人。」


グレンがそう呟いた直後、凄まじい爆音とともに、キリアが吹き飛ばされた。

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