#18 古き英雄

申し訳ございません。

ボタンを押し忘れました。


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「重力魔法<グラビティ・ノヴァ>!!!」


重力魔法は特殊魔法の一つで、使い手が多いことで有名だ。あくまで、他の特殊魔法に比べたらの話だが。

そもそも、『特殊魔法』をまともに使える人が少ない上、特殊魔法が使えるとわかると軍に強制的に入隊させられる決まりになっているので隠している人なんかもいる。


それはともかく、重力魔法が強力な魔法である事には代わりない。


「楽しくなってきましたね、<加速>・・・」


無数の魔法が飛び出し、これでもかと言うほど攻撃に攻撃を重ねた。

弾幕を段々と厚くし、加速魔法一つで宙を舞い、攻撃を次々とかわすキリアの足を止める。

何故ここにいたのか、どうして姿を現したのかはまるでわからない。だが、今現時点において敵である事にはかわりない。


「第一段階<フェイク・マテリアル>」


グレンの第一段階<フェイク・マテリアル>


重力魔法を利用して空間に歪みを発生させ、仮想の質量体をぶつける魔法。

この魔法をグレンが覚えた時、彼はその凶悪さに戦慄した。

当時10歳だったグレンは、頭に浮かんだ魔法の起動式を見ただけで嬉しさよりも先に恐怖心が芽生えた。


数日の後、両親に連れてこられた実験場でその恐ろしさを実感した。

防御障壁をまるで紙コップを潰すかのようにペシャンコにした。

山に穴を開け、海を引き裂いた。

開いた口が塞がらなかった、近くで見ていた両親や軍関係者もおんなじような顔をしていた。

その日からグレンの日常は変わった。学校を軍の学校へと変更し、魔法の事を第一考えるようになった。

日々魔法の研究に勤しみ、メキメキと上達していき、S級魔法師となるのだった。



前に突き出した右手に凄まじい量の魔力が集まるのを感じる。

やがて、黄色い閃光とともに小さな球体状になると、彼女に向けて放った。


攻撃の速度が遅いという重力魔法最大の弱点を克服した攻撃を放つ。

光のレーザービームのような攻撃がキリアへと向かう。

だが、彼女もやはり『異常』だった。


「すごいわね。でも・・・・・・」


どこからか取り出した40cmほどのステッキを振った。


「足りないわ。」


キリアの正面に一瞬のうちに形成された、直径3mはあるであろう魔法陣は黄色い光線を受け止める。

6重に形成された魔法障壁からさすまじい熱線と衝撃波が広がる。


だが、魔法障壁の向こう側は、まるで何事もなかったかのように安全であった。

ダメージは皆無。

続いて彼女はもう一度ステッキを振る。


第一段階ファースト・リリース契約精霊召喚<風の上位精霊ーシルフィード>」


魔力障壁を展開し、防御しながら反対側から自信の相棒を召喚する。

精霊は、その存在が高位であればあるほど見えやすい。

位の低い精霊の姿は、契約者本人しか見えないが上位精霊は誰の目にも映る。


全身に風を纏い、優雅にお辞儀をする。

そして、精霊魔法の奥義を早速使用する。


「第二段階<魂の結合>」


風の上位精霊ーシルフィードは、キリアの中に溶け込んだ。

途端に、キリアの魔力量が格段に上がった。


過去の英雄は強くなっていた。それも、以前とは比べ物にならないほど。

英雄は健全だった。


「次はこっちの番ね!喰らいなさい。」


圧縮した空気の塊をグレンへと投げつける。

小さな球でしかなかった空気の塊は、グレンの目の前で爆ぜた。

凄まじい暴風が、グレンを襲う。もしこの戦闘が地面で行われていたとしたら、小さな湖ができていただろう。


光のレーザーを一旦止め、防御へと回る。


「<魔力障壁>!!!!」


全力で魔力障壁を展開するが、風圧だけで耐性を崩された。

息を吸う暇もなく、次の攻撃がくりだされる。

使える手を全て使って回避を優先した。


この時点で、勝つ事は諦めた。だが、別に自分が勝つ必要性はない。

ここからは時間稼ぎの事だけを考える。

彼さえ呼べばそれでゲームセットだ。


「ほらほら、それじゃあ勝てないわよ。」


「余裕を持っていられるのも今のうちだ、絶対ぶっ潰す。」


結人がな。



✳︎



司令本部、そして全世界は、混乱に陥っていた。

もちろん話題は、死んだはずの英雄ーキリア=メスタニアである。


「どういう事だ!!!」


「わかりません!何しろデータが少ないもので・・・・・・」


「死んだ人間が生き返るはずがないだろ!彼女も時間魔法に目覚めたというのか!だとしてもこの20年間、姿を現さなかったというんだ!!!」


「も、申し訳ございません。何しろ彼女のデータが少ない上に、今回南アメリカ大陸に現れたキリア=メスタニア様と思われる人物の魔力量は当時の数十倍、いや数百倍以上で・・・・・・」


「そんな事は知っている!それよりも他に、もっと重要な情報はないのか!」


「も、もう一度情報班の元へ行ってきます!」



男は、再び敬礼すると、失礼します、と言って去っていった。


「そんなはずはない、彼女は確かに・・・・・・」


自問自答を繰り返す。

だが、答えは一向に出てこなかった。

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