#16 見落としていた可能性②

「・・・・・・ファイア」


口元に付いた無線機がギリギリ音を拾えるかどうかなほど小さな声で呟く。その声と同時に手元の赤いボタンを押した。

カチンと、何かが外れる音がした。いや、何かというのはわかっている。

新型対UCクラスター爆弾『反撃の槍ーカウンター・スピア』


対UC用に開発された兵器だが、わりと出番が少なかったりする。そもそもクラスター爆弾は上空から地面にいる敵を無差別に爆撃する爆弾だ。

種類は多くすべてではないが、海上では効果を発揮しにくいという弱点を持つ。そのため、海上に防衛ラインを敷き、防戦一方である人類にそれらを使う機会は少なかった。


だが、今回は違う。れっきとした奪還作戦である。

人工衛星、偵察機、偵察魔法兵によって編み出されたUCの生活範囲や個体数が多いところを集中して叩く。

長い間ほこりをかぶっていた旧式の兵器が火を吹いた。


ドドドドドドドドドォーン!!!


あちこちで爆発が連続して起こる。第一波だけで凄まじいダメージを与えた事を確信した。


「凄まじいですね、隊長。旧式の武器だと思ってバカにしていました。想像以上です。」


「あぁ、正直俺もこの威力には驚いている。だが、もう一つ注目しなきゃいけない所がある。気づいたか?」


「い、いえ・・・・・・自分には何だかさっぱり・・・」


「もっと標的をよく見ろ。妙に集まっている気がしないか?」


言われて、男は地面を眺める

すると、あまり多くはないが、UCたちが一か所に固まっているのが見えた。何かを中心に多種多様なUCたちが群がっている。

そこで気づいた。みれば、集まっているのはどれも下級や中級といった比較的に弱いUC達。何かの集会でもやっているのだろうか、答えはNO、それでは上級UCたちが参加しない理由がない。

客観的にみて、最も可能性がありそうなものは・・・・・・


「共食い、だろうな・・・」


「共食いですか?」


「あぁUCたちは基本的に共食いを行わない、だが死体となったUCならば他のUCがUCを食べる事が報告されている。つまりこういうことだ、宇宙部隊の真の目的はこうしてUCたちを一か所に集めて俺たちの攻撃が通りやすくしているってわけだ。」


「すごいっすね、セラン様は。こんな作戦絶対に思いつかないだろ。」


「あぁ全くだ。」


「そんな事より隊長、そろそろ第二派行きましょう。」


「あぁ、そうだな。全機、爆撃準備!よーーい・・・・・・・・・放て!!!」





「<重力牢獄グラビティプリズン>」


自分のおよそ10%の魔力を込めて、しょぼいはずの魔法を放つ。だが、予想とは裏腹に強力な一撃を放った。

なぜこんなことになったのか、理由は単純で明快だった。

魔力切れの心配をしなくて良い、それが魔法師にとってはどれほどありがたいものなのか。

魔法師は、その腕が上がれば上がるほど、魔法を発動するために使う魔力量が少ない。

と、いうもの、上位の魔法師は魔力の効率の良い使い方や魔力を必要としない攻撃方法を学ぶ。

大火力の輝く一撃も必要だが、それ以上に長く戦う事も大切なのだ。魔法師の平均戦闘時間は60分、それを超えると魔力の消費を考えなきゃいけなくなるので戦闘に支障が出る。

また、これが固有魔法至上主義に繋がっている。


「俺、自分で言うのもなんだが相当強くなってるな。魔力実質無限とかチートだろ。」


 グレンは、上空から敵UCが討伐されていくのをながめながらそう呟いた。その言葉は本当である、おそらく現時点で規格外の2人に次ぐ3位の実力をもっているだろう。

それほど、強くなっていた。

上位の個体は、既に宇宙部隊が潰しているのでなおさら脅威となる敵UCがいなかった。

まさに、無双。


「なんか結人に、なった気分だな。弱すぎる。」


第四段階を解放した事によってグレンの体内魔力量は格段に上昇していた。少なくとも2倍、もしかしたら3倍に達するかもしれない。

向かうところ敵なしで南アメリカの空を飛び回る。味方の援護をしながら、ベストムーブをしていた。


だが、それと同時にわずかな可能性をグレンは捨てていた。



✳︎



転機が訪れたのは掃討戦開始から2時間ほど経過した時の事だった。

ある時突然、空気が張り詰めるように、魔力が震えた。

強力な魔法を行使する予兆である。


「なんだ、この魔力・・・尋常じゃない・・・」


少なく見積もって100億という膨大な魔力が集まっていくのを感じる。

どこに?

南南東の方角およそ20kmのところだ。

見ると、真紅に染まった赤い魔法陣が空に追加されていた。


「やばい・・・あれはとんでもなくやばい・・・」


その魔法陣は見覚えがあった。以前、東京を襲ったあの魔法陣にそっくりだ。何も関係がないというのはあり得ない。


「行ってみるか・・・・・・俺の嫌な予感よ、当たってくれるなよ。」


だが、そんな願いが届くわけがない。

魔力の流れが嘘のように止まると、魔法陣が光り始めた。

そして、収束すると、1人のよく知る人物が顔を出した。



人型のUCの情報はグレンも持っている。最大限に警戒して、そしてその警戒を解いた。

彼女は、グレンがよく知る人物だった。憧れた人物でもあった。

現実かどうかの区別もつかないまま、グレンは彼女の名前を呼んだ。







「キリア=メスタニア」





_________________



いかがだったでしょうか、無事伏線を回収できました。

これからどう広がっていくのか、お楽しみに!

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