#15 見落としていた可能性
AM09:00
「これより、ジルトレア人類軍は、掃討戦に移行する。各員、掃討戦に向けて、準備されたし。」
「「「おぉぉーーー!!!」」」
サラン本人の声が通信機器を通じてジルトレア全体に伝えられた。
陸軍というものは、掃討戦という単語が大抵好きである。掃討戦とは文字通り、残った雑魚を片付けるだけのお仕事、つまり戦争なら勝ったということだ。
ここまでは全て想定通りであった。拠点の確保成功や被害ゼロの破滅級UC討伐を考えればむしろ、想像以上であった。
セランの指示は、的確であった。作戦の立案も現場での指揮も完璧であった。そして、誰もが彼に従った。
セランの考えや行動にまともに反対を述べる事ができるのは、朝日奈のみになっていた。
故に、見落としていた。
と、ういうより考えもしなかった。
本当の敵がUCでは無かったなんて・・・・・・
*
掃討戦開始の宣言が出されている頃、結人と咲夜は朝ごはんを食べていた。
場所は、隣の美月の部屋だ。
昨日は色々あって疲れていたため、流石に今日のご飯は、作ったのは咲夜ではない。
代わりに、早く起きた美月が3人分の朝食を作ってくれた。
「いただきます。」
「いただきます、美月さん。」
並んで食卓に座りながら、手を合わせる。向かいあわせで、美月が座っている。
ちなみに寝坊したからこんなに遅くご飯を食べ見ているわけではない。
朝から咲夜とイチャイチャしていたら気づいたら8時半だった。なんでだろ。
おそらく疲れが溜まっていたのだろう。
「うん、いただきます。」
今日美月が作ったのはきな粉餅である。
あまり料理が得意ではない美月も、頑張ったらしい。(美月基準)
「おいしい・・・」
「お餅を食べていると昔を思い出しますね、結人さん」
「そうだね、あの時はよく食べたなー。」
昔、咲夜の実家でお餅を焼いて食べたのを思い出す。あの時はたしか、両親が仕事でおらず、咲夜、茜、レネの3人とこたつを囲んで食べたのだ。
結人はその時からずっときな粉餅派である。
「ふふふ、結人さんは昔からきな粉餅が好きですよね。」
「え?!お兄ちゃんもきな粉餅が好きなの?!やっぱり双子って好きな食べ物も似るのかなぁ。」
「お餅食べるならやっぱりきな粉餅一択でしょ。この食感がたまらないんだよねー。」
「今日もいっぱい頑張らなきゃいけないから。お餅を食べて力をつけなきゃだね。」
そう、可愛くニコッと微笑むと、箸を使ってお餅を頬張る。
「ねぇお兄ちゃん、お姉ちゃんとナニかした?昨日はあんなに疲れていたのに今日はなんか元気いっぱいなんだけど。」
「ま、まぁ少しね・・・・・・」
決して、やましい事はしていないが、心当たりはある。
「はい、結人さんに疲れを癒やしてもらいました。」
「へ、へぇ〜」
変な事を想像したのか、美月の顔が少し赤くなった。
「おや?美月さん、いったい何を想像したのですか?」
「え?!それは・・・・・・その・・・・・・お、大人の、関係?」
「ふふふ、私も流石に『朝』はしてませんよ。」
「そ、そっか・・・」
「はい、あ・さ・は・ですがね。」
「あーやっぱりしたちゃったんじゃん。」
少し顔を赤くしながら、朝からなんて会話しているんだと思うと同時に、戦場で何やってんだよと自分で自分に突っ込む結人がいた。
✳︎
昨夜
「調子はどう?」
別働隊の隊長である、樹の部屋に凛とした声が響く。
どこかご機嫌斜めな彼女は、頬を膨らませて文句を言っていた。
「ま、まぁ元気だよ。少し暑いなって思ったぐらいだな。」
現在サンティアゴにいる樹は12月なので夏であった。たさかここまで暑いとは思わず、長袖を多めに用意していた樹は、現在大きく後悔していた。
「体調管理は大丈夫そうね。それとテレビ見てたわ、すごいねあの3人は・・・・・・」
「あぁ、あいつらは別格だ。魔法の次元が違う。俺たちが苦労することをまるで呼吸をするかのように連発できる。まぁその分頼もしくもあるけどな。」
「私もテレビを観て同じように感じたわ。どこをとっても規格外だね。まぁそれはそうと・・・・・・どうしてアンタが出ないのよ!」
「しっ仕方ないだろ?俺は結人たちと違って人気がとんでもなく低いんだ。ジルトレアもわざわざ嫌われている奴の映像は流さないだろ。」
「私はあなたが観たいのに・・・・・・まぁいいわ、ジルトレアに直談判しに行くことにする。それと私のアイドル用のSNSであなたとの交際の事を呟いてやる。」
「おい!やめろ、聖奈!」
樹は慌てて立ち上がる。
すると、その表情を待ってましたと言わんばかりに、聖奈はニコッと笑った。
「ふふふ、冗談よ。」
「はぁ〜お前の冗談はタチが悪いんだよな。」
「それじゃあ私はそろそろ寝るわ、また明日、同じ時間にね。」
「あぁ、おやすみ、聖奈」
「えぇ、おやすみ、あ・な・た」
プツンと、通信がら途絶える。彼女がいた時はあんなに騒がしかったのにも関わらず、今はすっかり静かになっていた。
少し大きめに用意された隊長室が、妙に広く、寂しく感じた。
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