#11 二つの死闘③

「第二段階<時空反転>」


現代魔法学において回復魔法は存在しない。

細胞の成長を早めたり、病原菌を殺す事はできるが、再生不可能な怪我などはどうする事も出来ずお手上げ状態である。


だが、美月が現れた事によってその歴史が変わった。全魔力を注ぎ込めば、最大で3年ほど前まで戻ることが出来る美月は、対象を認識出来れば基本的に何でも戻す事ができる。


本当に『何でも』だ。


例え失った腕だとしてもまるで何事も無かったかのように戻す事ができる。

もはや、時間魔法が最強の魔法である事は疑いようがないだろう。


そんな時間魔法を連発する美月は、敵UCの動きをコンマ1秒ごとに遅らせる。そうする事によって敵UCの感覚をどんどん鈍らせていく。


いつの間にか、攻撃の大半を美月が繰り出すようになっていた。

活動限界である90分が近づき、自然と足も止まる。長時間休憩を挟まずに死闘をするのはいくら超人だらけのS級魔法師でも厳しいものがある、そして目の前で自分の数倍の速さで動く味方を見ると、サボってしまうのが人間である。


咲夜とレネも疲れが溜まって動きが鈍くなってきた。地面に立つ時間が増え、止まる事も多い。

そんな中、ただ1人格の違いを見せつけるものがいた。


「はぁぁぁぁぁ!神楽流<ほむらの舞>」


刀身から滲み出る炎が輪のように広がる。今日何度目か、焔を纏いし龍剣を自由自在に振り回す。

結人とは違い、加速だけで敵UCを圧倒出来ない美月は、義姉咲夜に頼んで嘉神家に伝わる神楽流の剣技を学んだ。

簡単になんでもこなす美月は、覚えが早くこの3ヶ月で藁科の空間魔法と並列で全ての技を覚えた。


炎を纏い、火を吹くこのUCではあるが、自分が受ける炎は苦手なようで、それなりに効いている。だがやはり、火力不足は否めない。


最初のうちは上へ下へと飛び回り、撹乱しながら戦っていたが、正面から打ち合っても分がある事がわかると、正面からの殴り合いに移行した。

速度で勝る美月は、一撃も食らわずにただ一方的にダメージを与えた。


そしてもう1人、グランも自分の限界を越えようとしていた。

重力魔法の第一人者、『破壊の王者』の二つ名を轟かせる男が、次のステージに進んだ。

すなわち第四段階である。


第四段階フォース・グラビティ<永遠の輪インフィニティ・ループ>」



グランは、限界を超えた。

結人のようにとてつもない量の魔力を得たわけでも、新たな武器を得たわけでもない。

ただ一点、人類の常識を超えた。


それは、魔力の回復である。


自分にかかる斥力を魔力へと変換する魔法、どんな魔法を使っても実現する事ができなかった、魔力の回復を成し遂げた。


ここからは、魔力の残量を気にせずに好き勝手に動く方ができるようになった。

もっと早く発現して欲しかった、と文句を言いながらグランは空を飛ぶ。

重力魔法は、空間魔法同様、使える魔法師の数が少なすぎてあまり注目されていなかった。結人、そしてグランがS級魔法師となった事によってそれが一転、トップレベルの威力と破壊力をもつ強い魔法へと変わった。


重力の中心を敵UCの中に設定し、敵UCの左腕を捻り潰す。みしみしと音を立てて、筋肉を破壊する。

想像するだけで痛い、受けた方はたまったものではないだろう。

グランが左腕を落とすのとほぼ同時に美月は右腕を落とす。流石に一撃で切り裂く事はできないが、八連撃をくらわせ見事無力化に成功する。

数分も経てば再生を始まる、だが、数分も有れば十分だ。


再び自身の全魔力を魔法陣に込めると、右脚を折る。二足歩行をするこのUCにとって脚は最も重要な器官のひとつだ。巨大な身体に比べて小さいが、重要な器官なだけあって硬い。


「いっけー!!!」


外側はとてつもなく硬いが、内側は案外柔らかい。

右脚の筋力を奪われた敵UCは、よろけてその場に倒れた。敵UCを見下ろす形になった。


「よし、あとは・・・」


そう呟きながら南側の空に顔を向ける。当然、見えるのは森と空だけである。だがもう少しで、彼が来る。

まだ見えないが、こちらにとてつもない魔力が向かって来ているのを感じる。


核本体は流石に硬く、重量魔法での破壊はまず無理だ。それどころか、この場にいる誰もこのとんでもなく硬い核を破壊できるものはいない。



だが1人、この場に向かって来ているものだけは簡単に破壊出来てしまう。どんなに硬くても、その硬さを無視した一撃を入れる事ができる存在。


「遅いぞ、結人」


「ごめんね、ちょっと手間取っちゃって・・・・・・あれ?もしかしてグレン、超えた?」


「あぁ、ついさっきな。ってか無駄口叩いていないでさっさとやってくれ。それと核は恐らくあれひとつだ。疑うならご自慢の目で見てくれ。」


「わかった、信じるよ。」


結人は、己の龍剣を構える。

狙うはただ1つ、あの忌々しい青い球体である。

対する結人も白い球体を作り出す。


「第2段階<次元崩壊>」


あの中に捉えられてしまったら、時間魔法を使うか、空間魔法で逃げない限り死は避けられない。どんなに魔力を使って硬くしても、意味が無い。

中にあるありとあらゆるものを無に返す。

ただ一瞬。

その一瞬で、先程まであれほど暴れていた敵UCは崩れ落ちた。



____________________


補足


第1章で結人が<熱吸収>を用いて魔力を回復している描写がありますが、あれは、結人の周りに魔力を集めているだけで、本人の体内の魔力が増えている訳ではありません。


今回の<永遠の輪>は、魔力を消費する代わりに吸収して、その吸収の力で魔法を放つイメージです。

吸熱反応的な感じです。

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