#10 ニつの死闘③
「万歳〜〜!!!」
「黒白様〜〜〜」
「うぉぉぉおおぉぉ」
拍手万雷、朝の9時半とは思えない程の人が東京の街に集まり、今回の作戦のために特別に作られた特別スクリーンを見ていた。
多くの人がビールを片手に大盛り上がりだ。
ドローンによって届けられた映像が画面に映る。最初に聞いた時は結人もびっくりしたが、今回の作戦は全世界に放映される事になっていた。
この計画を主導したのは、セランさんである。もちろん、人気取りのために放映する訳ではない。UCの恐ろしさというものを改めて実感して欲しいと思ったからだ。
ちなみに、当然のように大量の反対意見が出たが、押し切ったらしい。
いつの間にか、解説も言葉が出なくなっていた。会場には泣いている人も数多くいた。
UCによって家族や恋人を失った人は多い。国によって被害の度合いは変わるが、なんせ人口の4割を失ったのだ。
3人に1人以上は家族を失っている計算となる。
そんな彼ら彼女らが、この映像を見て、結人の戦闘を見て、少しでも明るい気持ちになってくれたら・・・・・・という本音もあった。
*
「はぁはぁはぁ・・・・・・」
結人が破滅級UCにトドメを刺した頃、こちら側は大苦戦していた。
油断などいっさいなかった。
準備満タン、楽に勝てるとは思ってはいなかったが、ここまで苦戦するとも思っていなかった。
二足歩行の恐竜のような見た目の敵UCは、見た目に反して動きが素早く、攻撃は強力であった。
「咲夜お姉ちゃん!」
「うん!」
藁科姉妹による連続攻撃が繰り出される。凄まじい量の魔力を纏った美月の漆黒龍剣と焔を纏った鮮やかな紅い日本刀。
敵UCの攻撃を上下左右にかわしながら、間合いに入る。素の威力では圧倒的に美月の方が上だが、魔法の組み合わせと持ち前の圧倒的なセンスで少しずつだが確実にダメージを蓄積させた。
だが、敵UCには未だに弱った様子が無かった。むしろ、最初よりも元気な気がする。
1人だけ魔力量が圧倒的に多い美月とこの中で1番硬いゼラストが壁役を担い、他の4人がアタッカーを務めた。
始めのうちは順調だった。被弾を避け、空を飛びながら撹乱し、隙が出来ればアタッカーが攻撃する。それで、着々とダメージを蓄積するつもりであった。
綻びが生まれたのは戦闘開始から1時間が経過した頃だった。
魔法師の基本的な戦闘時間はおよそ90分と言われている。理由は単純、それ以上の戦闘では魔力が持たないのだ。
それは、S級魔法師にも同じ事が言えた、確かにS級になれば普通の人の数百倍から数千倍の魔力量を持っている。だが、使用する魔力も数百倍から数千倍なのだ。
アメリカ所属の『神の雷』と呼ばれた天才ースカイラ=ディルロードが魔力切れで倒れた。彼とて、油断していたわけでも驕っていたわけでもない。
ただ、圧倒的な強者の前に、気が張っていたのか、いつもよりも多く身体強化に魔力を注いでしまい、魔力の配分を間違えたのだ。
美月を中核として構築した通信魔法でそろそろヤバいかもしれないとは聞いていたため、覚悟はしていたが、S級魔法師が抜けた穴は大きい。
被ダメージは明らかに減っており、攻撃のチャンスも大幅に減った。腕を1本か2本失った程度であれば、美月の時間魔法で再生する事は可能だ。しかし、流石に魔力を回復する事は出来ない。
雷魔法特化のスカイラには、何もできることが無く、邪魔にならないように前線から退いた。
そして、次に力尽きたのはゼラストだった。壁役という事で魔力の消費が早いこともさることながら、破滅級UCの攻撃が重すぎた。
いつもなら1枚で十分足りる魔力障壁を3枚も重ねがけしてやっと止められる。
そして、更に厄介なのは敵UCのブレス攻撃、予備動作が少なく、避けにくい。その上、ブレス攻撃においては、正面からぶつかれるのが美月のみであった。
「はっ!」
ヒットアンドアウェイをしながら、レネも剣を振るう。水の上位精霊に愛された彼女は、咲夜と同等かそれ以上の動きを見せる。
無数の斬撃が目で見える大きさの傷を付ける。しかしそれも、わずか数秒で再生されてしまう。
いずれも決定打に欠けていた。
*
今回の作戦に飛び入り参加をしたグレンは、ある1つの目標を掲げていた。
それはもちろん破滅級UCを討伐する事、この日の為に世界魔法祭でこの作戦が可決されてからずっとハードな特訓を行っていた。
想像はしていた。
恐らく今までの人生で最大の敵。
生半可な魔法が通じるわけがなく、ありとあらゆる事が規格外。
それでも勝機が十分にあるのではと考えていた自分を殴りたい。
仮想の質量体を創り出し、押し潰す第1段階、自分と周囲の物体にかかる重力を操作する第2段階、好きな地点から重力波を放つ第3段階、その全てを軽くあしらわれた。
これほどの巨体だ、当然質量も多く、得意の重力魔法が効果バツグンなのではないかと考えていたが、予想が外れた。
「第2段階<
S級魔法師の中で唯一獲物を持たない彼は、防御と回避に徹するしかなかった。
既に3回腕を失い、3回直してもらっている。完全なお荷物状態だ。
何よりもそれが、1番不快だった。
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