#5 出撃⑤

最新の戦艦の速度はおよそ時速60kmほどである。そのため、ニューオリンズから南アメリカ大陸まではどんなに急いでも丸2日ほどかかる。

その間、約90分に数十発のペースで上空から400kmからの狙撃が行なわれていた。


最初のうちは楽しかった。

一発一発気合を入れて照準し、号令とともに発射する。しかし、8週目ぐらいから飽き始めた。


「紅様、そろそろ例の時間です。」


「え~?もう~結君お願~い。」


「はぁ~。分かったよ、姉さん。」


気持ちはわからなくはないが、もう少し気合を入れてほしいものだ。思わず、ため息をついてしまう。

現在の時刻はニューオリンズ時間で、12月2日午前11時過ぎぐらい。つまり丸一日このペースを繰り返していた。


交代で仮眠、食事をとりながら弾丸を放つ。ミスをしても南アメリカ大陸に住民や重要な建造物は無いので、後で倒さなければならないUCの数が一体増えるだけなので、あまり変わらないような気もするが、その一体で人が死んでしまうかもしれないと考えると外すわけにはいかない。


これは、一緒に宇宙へと登った他の5隻も同様である。むしろ他の5隻は結人がいない分、慎重に発射させなければならないので大変である。


「命中を確認!」

「続いて次弾装填完了!」

「クールダウン終了!」


「発射!」


超電磁砲によって加速した弾丸がまた、敵UCを貫いた。





「暇だ・・・・・・」


ハートの3を桃に取られ、手元に残ったジョーカーを捨てながら呟く樹、18回目のババ抜きの敗者のセリフはそれだった。

空や桃、樹のような出番がない組はそれぞれ自分の部屋やロビーでゴロゴロしていた。

そんな樹の発言に空と桃も同意する。


「そうだな。宇宙に行けるって聞いて盛り上がっていた自分がバカみたいだ。外は宇宙空間だから出るわけにはいかないし、電波もあまりよくないし・・・ゲームでも持ってくればよかったわ。」


「確かにそうだね、魔力が薄いから船の中じゃ魔法の練習もそんなにできないし・・・」


船の中に、娯楽施設などあるわけがなくやる事のない3人は、一番きれいな空の部屋に集まって暇つぶしをしていた。

明日の降下作戦が始まるやることが全く無く、暇な時間が続いていた。桃の提案で始めたババ抜きもそろそろ限界である。


「だいたい、宇宙空間からの強襲作戦ってのが無理な話なんだよ。全員が結人みたいにとんでもない魔法をばんばん使えるわけないのにさ。下手したら気圧や断熱圧縮に耐えれなくてぽっくり行っちゃうかもしれないのに・・・・・・」


樹は、今回の作戦をそう分析した。実際、世界魔法祭のS級魔法師会議でも同じような話題が出た。

確かに、上空からの攻撃のメリットは計り知れない。上空なので遮蔽物がないというデメリットはあるものの、敵UCの全体像を見る事ができたり逃げるスペースが多かったりする。

S級やA級魔法師であれば空中戦も対応できると思われるが、B級とC級ではまず無理だ。

魔法の行使に失敗した瞬間に地面に激突するかUCに殺されるかで、死亡が確定してしまう。


「それに耐えるための練習はしたでしょ?それに結人君ならきっと全員を守ってくれると思うよ。」


「まぁそうなんだけどな、若干の怖さが残るというかなんというか・・・」


この1ヶ月ひたすら空中を飛び回る練習をしたが、やはり緊張が拭えない。自分の魔法に自信がないわけではないが、どうしても不安が残る。


「俺も不安だ。この部隊に入ってから初めての任務がこの作戦って・・・・・・もっとこう、別の簡単なやつがあっただろ。」


空の呟きに桃も頷く。2人は一応同期という事になっている。


「茜さんってわりとテキトーだよね、結人君のお姉さんなはずなのに。」


「あぁ、あの人は昔からあんな感じだ、諦めろ。」


そして話は、何故か茜の悪口へと発展する。


「このツクヨミの改造費の話は知っているか?」


「改造費?」

「どういうこと?」


「このツクヨミに取りつけられた新装備の話だ。この装備、実は8月の上旬に作られたものなんだ。茜さんの突然の思いつきで、ワープシステムがあるなら宇宙でも戦えるようにしたいって思ったらしく、急遽宇宙戦闘用の装備が取りつけられる事になったんだが、費用がとんでもなく高くて、部隊の活動費だけでは賄えなくなって結人のお金に手を付けたらしい。」


「うわ〜〜」

「あの無駄に多い『夜明けの光』の活動費で賄えないレベルの買い物ってどんだけだよ、というかやってる事完全に犯罪じゃん。」


想像の数倍ぶっ飛んだ話だったので思わず引いてしまう。


「費用は1兆円だったらしい。しかも材料費だけで、だ。制作費については結人が対価として研究結果を提供したらしい、それと1兆円ってのも軍からの補助金を引いた値段だ。実際には10兆円以上したらしい。」


「しっかり者のイメージが完全に崩れたわ、研究まで提供するとかどんだけだよ。」

「結人君かわいそー」


「まぁ茜さんが宇宙開発を進めたから今回の作戦で強襲作戦が成立した面もあるんだけどな。」


「なるほどな。」

「ふ〜ん」


「まぁ今となっては関係ない話か。よし、そんじゃもう1戦するか、負けたやつは罰ゲームで面白い話を何かする、な。」



「おっけー」

「いいぞ。」


この、何とも言い難い緊張した雰囲気を少しでも楽にするため、樹はトランプを配るのだった。



____________________


ssにしようか迷ったのですが、1話として投稿しました。

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