#29 限界突破④

結人のーー黒白の魔力を感じた時、空はとても焦った。

あの人が敵キャラクターとして参加するという事は何かしらの意図があるという事だ。そして、その理由として最も疑わしいのは自分との戦闘。

はっきり言って勝ち目は万に1つ無い。とはいえ、残り1時間を逃げ切れる可能性も0に近い。というかゼロだ。


しかし、空の予感は的中せず誰か別の人との戦闘を行っている。


「え?俺じゃない?」


一気に緊張がとける。戦いたくないリストでぶっちぎりの1位に輝くあの男と一戦交えるなど自殺行為だ。


「じゃあ俺は誰と戦うんだ?」


イベント前日、結人からA級を1人退けるというお題を貰っている。という事は誰かが俺を狙いに来るに違いない。

だが、周りに魔力反応はない。


「誰だ!」


と思った直後、とてつもない魔力が篭った一撃が空をかすめる。

常時展開している魔力障壁があったから助かったものの、何も無い状態でまともに食らっていたらどうなっていただろうか。


「あなたは・・・」


背後に立つ女に気づく。手に得物を持っていないことからメインは暗器か拳、蹴りなどだ。堂々としている事から後者の2つの可能性が高いと判断する。拳や蹴り、がメインで隠密性が高いA級以上の魔法師。

浮かび上がるのら1人しかいない、東京校1年Aクラス担任 立川千春ーー日本防衛軍所属のA級魔法師の1人で関東の防衛を任されている。

また、学校が休みの日は前線で活躍している。二つ名は『瞬撃の女王様』。

その名の通り凄まじい速さで拳を繰り出す。


「立川先生・・・」


「今は『玄武』だ。間違えないでくれ、黒崎」


「この速さ・・・どこら辺に亀の要素があるんですか?」


「さぁ、知らんな!」


続いて2撃目、腰を落としてから目にも止まらぬ速さで繰り出される。

咄嗟に愛剣である黒い魔法剣を横に構えて正面から受け止める。

だが、勢いを殺しきれず、後ろに吹き飛んだ。


「バケモノかよ・・・」


「私の拳を生半可な力で受け止めきれると思ったら大間違いだ。UCの核すら砕くからな。」


最小限とは言えないが、ダメージは思ったより大きくない。成長したからか、まだ全然動ける。

絶対に勝てない、から、勝てるかもしれないに変わる。


「やってやるぜ。第1段階<黒き翼>」


魔力の流れを自分の中で最高レベルに良くし、目の前の相手に備える。

背中からは黒い羽が生え、身体の周りからは黒いオーラが湧き出る。


攻撃魔法である第2段階はまだ見せる訳にはいかない。

そしてお得意の鎖を展開する。


「<連鎖の陣><壁鎖の陣>」


1週間前に結人との訓練で思いついた新しい魔法をぶっつけ本番で行使する。連鎖の陣が攻撃的な魔法だとしたらこちらは防御及び拘束。

無数の魔法陣から伸びた鎖が『玄武』を襲う。

右へ左へと鎖が走る。速さで負けているので相手の動くコースを絞る。

鎖の1本1本に電気が通っており触ったら感電する。


「舐めるな!」


こちらの意図を掴んだのか、急に大声を上げた「玄武」は手に魔力を込めると純粋な魔力だけで鎖を粉砕した。

魔法ではなく、ただただ魔力のかたまり。ゆえに強い。


そして、遅れて空気の波がやってくる。

空は鎖を使って強引に上空へ駆け上がる。

だが、ここまで計算通り。

速度で劣る空は、スピード勝負を何としても避けなければならない。

上空に陣をとり、かつ魔法と魔法の勝負であれば固有魔法を使える空にアドバンテージがある。


「<雷撃>」


全ての鎖が光り輝くと、いっせいに電流が流れた。

大規模な範囲攻撃、避ける手段を無くした一撃を放つ。

電気と光だけは魔力障壁で防げない。それはA級魔法師とて例外では無い。


「くそっ!」


『玄武』は再び構えると空に向けて拳を繰り出した。振動魔法を上乗せし、電気の攻撃を弱める。

だが、その時には上空にはもう誰もいない。

拳で防がれることを予測していた空は射線上からすぐに退避すると隙をつく。


「<雷電>」


四方から伸ばした鎖で『玄武』をぐるぐる巻きにくると、先程よりも強い電流を一気に流す。


「<身体強化>!!!」


今から鎖を振りほどいても間に合わないと判断した『玄武』は電流に耐えられるように身体そのものを強化する。

拳をメインに戦う魔法師にとって身体の強化は十八番だ。

できるだけ被害を最小限に抑えるため空気と魔力の層を急いで作る。


「グッ・・・・・・!!!効いたよ。」


「耐えるのかよ・・・これで終わりだと思っていたぜ、流石A級だな・・・」


「いいやそんな事はない、お前も学生にしては凄まじい魔法センスだ。もうA級になれるんじゃないのか?」


「まだ早いらしいです・・・俺なんてまだまだですよ。」


「ふっ!言葉に余裕が見られるな、まだいくつか隠し球があるな?」


「!!!」


「ビンゴか、さぁ見せて見ろ、黒崎」



空は、覚悟を決めると鎖を足場に再び空へと登る。


「<雷柱>」


雷の矢をたくさんの作り出すと、いっせいに放つ。

雷と鎖は非常に相性が良い。2段構成による連続攻撃を繰り出す。

だがこれはただの目くらまし。本当の目的はもう1つ別にある。


「見せてあげますよ。俺のとっておきを!」


右手に全身の魔力を込める。成功したのは1度だけ、でも感覚は掴んだ。

今度は成功できるはずだ。


固有魔法はまだほとんどが謎に包まれている。そもそも魔法の解明すら出来ていない。魔力が魔法式を通して物質に干渉して魔法が現象される、という曖昧な認識だ。

だが、経験則によって間接的であれば色々な事が判明している。

固有魔法は発現するのにものすごい努力が必要だが、1度成功するればあとは身体が教えてくれる。





第3段階サードハザード<黒き暴風ブラック・リベイロン>」




魔力を収縮させると自身の全力を放つ。

だがそれは、まだ不完全な物だった。

少しだが、歪みを感じる。

そのため先生の腕ならば、おそらく避けられた。


しかし、彼女は正面から受けた。

黒い塊に飲み込まれた。敵キャラクターの目的は生徒の魔法力の測定、身体で覚える派である『玄武』は自分で攻撃を受け、有効性を測る。


不完全とはいえ、固有魔法の第3段階である。即死は避けれてもダメージは大きい。

どのようなものかを判断する前に、力尽きる。


「凄いよ、まったく・・・」


意識を刈り取られた彼女は、その場に倒れた。

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