#28 限界突破③

いっそ清々しかった。新たに発現した固有魔法の第2段階。

桃や神に応援された、最高の一撃だった。

文句1つない出来だった。

これはもう防いだ神をたたえるしかない。


「いい魔法でした、大和君、雷華さん。これからも頑張ってください。」


「あ、ありがとうございます!おかげ様で殻を破れました!」

「ありがとうございます。」


「私は少しだけ手助けをしただけです。あれは紛れもなくあなたの実力ですよ。それではイベント終了までの残り40分ほども頑張ってください。それでは・・・」


神はそれだけ言い残すと、空へ飛んでいった。

おそらく、別の人を教えに行くのだろう。

あれだけ感じ取る事ができた魔力はもう一切感じ取る事ができない。まるで人が消えたかのような・・・





「こんばんは、水篠さん。」


「今は『青龍』ですよ、『朱雀』様。」


水篠大和の父、水篠正樹も当然ながら先程の戦闘は見ていた。水篠さんは、今回『青龍』として参加している。

建物の影から一生懸命魔力を消そうとしていた姿は少し滑稽だったが・・・・・・


「そうですか・・・どうでした?彼の固有魔法は・・・」


「親として、とても誇らしく思いました・・・・・・ですが同時に、辛くもありました。」


その顔は嬉しそうで、そして辛そうだった。


「辛く・・・ですか?」


「はい、少し怖いんです。少し私の話をさせて下さい。」


「はい。」


「私が生まれたのは2006年ですからまだ魔法の存在を世間が認めていない頃です。ちょうど、キリア=メスタニア様のおかげで世界が魔法というものがどのようなものかわかり始めた頃でもあります。」


あの当時は激動の時代でもあった。

人類最強の兵器と思われていた核ミサイルが敵UCに破られ、人々は大混乱に陥った。

また、人類が団結し、UCに対抗するための組織、ジルトレアが発足した。

他にも世界初の魔法学校が出来たりと色々な事が変わった。


「16歳で入隊してから色々な事がありました。数え切れないほどのUCを討伐を成功させると同時に、たくさんの仲間を失いました。中には目の前で散っていった命も多数あります。だから、大和がこうして強くなるのを見ていると時々思うんです。もし大和が私のようになってしまったらと・・・・・・次の作戦、どうぞよろしくお願いします、結人様」


そう言うと結人の手をしっかりと握った。

その手は、暖かい父親の手だった。

結人はそれを握り返す。


「はい、全力を尽くします・・・」


「頼みます。」


実際、このように息子や娘のために軍に志願した人は少なくない。中には魔力がほとんど無いにも関わらず、雑用でいいから手伝わせてくれといった人も現れた。

先日、大量の食料物資や医療道具が世界各地からジルトレアに送られた。

次の『第3次奪還作戦』に向けて色々な企業も自分たちの利益をかえりみず軍に寄付してくれている。

その期待は山のように高く、海のように深い。

『世界最強』といい重みを改めて感じる出来事だった。


「では私はもう1人のお客さんの所へ行きますね。」


「分かりました。」


結人は、逃げるようにその場を離れた。


残された正樹は遠くでぼーっとしている自分の息子を眺める。


「それにしても大和があれほどの魔法を放つなんて・・・」


「いつか第2段階に到達するとは思っていたがこれほど早いとは・・・

子供の成長には驚かせるな・・・」





「お疲れ、3人とも。やっぱり黒白様は凄いねー」



「やぁ2人ともやはり神は神だった・・・」

「自分も、生きた心地がしません。」


戦闘を終えた3人が休んでいると、2人の少年少女がやって来た。

見知った2人に緊張が溶ける。


「お疲れ様です、大和さん、雷華さん、桃さん。」


「とてもいい経験をさせていただきました・・・帰ったら父さんに自慢しようと思います。」

「全く攻撃が効かなかったよ。『神の盾』を直接この目で見れて感激だよ。それと大和の固有魔法を跳ね返したあの魔法、多分だが新しい魔法なんじゃないのか?」


「い〜や違うよ、あれは<絶空>だよ。」


「<絶空>・・・?」


「うん、黒白様の空間魔法の1つだよ。あんまり知られていないけどね。」


「さ、流石結人君だな、私もその魔法は知らなかったよ。」

「自分もです・・・」

「・・・」


結人の突然のハイテンションな回答に驚く。

そして、先程から黙っている桃を不思議に感じた雷華は彼女に尋ねる。


「ところでどうしたんだ?桃。さっきから黙ってて・・・」


「ちょっと聞きたいことがあってさ。今日の結人君ちょっと変だと思わない?」


「特に変わらないけど・・・」

「自分も普通だと思いますが・・・」

「そんな事ないですよ、妻である私が言うのだから間違いありません。」


「ふ〜ん、そう。じゃあ私の気のせいかも」


桃は、1度結人の顔を覗きこんだ後、元の位置へと戻った。魔力も容姿も声質も同じにしてある。体重を測れば分かるかもしれないが、今の桃に結人を否定する材料はない。


「そんな事より先程の黒白様の話だ。いや〜凄かったよほんと、まぁ大和の固有魔法も凄かったがな、なんというか次元が違ったな。だいたい私たちのような人間が神と並ぶってのが間違っている気がして、そもそも神を神と呼んでいいものかという点も・・・・・・」


【よく見ていますね、桃さん。】


【そーだね、私のこの完璧な変装に気づくとは、恐るべし。】


【容姿や声質、魔力は同じでも雰囲気と性格はちがいますからね。さて、私たちは適当に時間を潰すとしましょう。】


【そ〜だね〜私も初めての学生生活を楽しむかな〜】

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