#27 限界突破②
人類最強は誰かと聞かれて真っ先に出てくる男ーー黒白の限界突破者
その中身であり、正体である少年ー藁科結人は今、全力で後悔していた。
ーーあ〜!僕はなんて発言してしまっているんだ〜!!!
傍から見たら完全にいたい人じゃん!
桃はいずれ正体を告げるから問題ないとしても他の2人には知られたくない!
勢いに任せて選択をしてしまった自分を恥じる。そもそも、ただ他の人よりも魔法が上手に使えるってだけで神格化しているのがおかしいのだ。完全にやってるな・・・
思えば最初から姉さんはこれを狙っていたのかもしれない。1万4000点ぐらいで止めておいて他の生徒達が焦って戦闘をする事を誘うのも実は姉さんの案だったりする。
そういえば最近、姉さんが何かコソコソと・・・
うわっ!びっくりした〜
そんな事を考えていると、おそらく全力を出しているつもりの大和の一撃が放たれる。
桃のアシストが加わって普段とは桁違いの速さで飛んでくる水のランス。だが、結人にとってはお遊び程度にしか感じない。
結人の、白い魔力障壁の前に力尽きる。
世間ではこれを『神の盾』とか呼んでいるらしい。神なら盾とか必要ないだろと思うが・・・
こっちは神でも何でもないただの魔法使いだから、攻撃まともに受ければ一瞬で命が飛ぶのだ。当然、盾は必要だ。
ってそんな話はどうでもいい。今追うべきなのは後ろに回り込んだ雷華だ。
彼女の攻撃はただの魔力障壁では破られる。対処法は難しい。
絶縁体である空気すらも通すほどの電流だ。龍剣などを除いて、ただ単純に何かを挟むだけでは攻撃が通ってしまう。
だから・・・
「うそっ!」
こちら側からも同じように電流を流せばいい。魔力障壁と魔力障壁の間に電気の層を作って防ぐ。
普通の魔法師はUCの攻撃に対して避雷針を立てるなどをして避けてるが、結人はこうする。
「想像以上だよ。まさか私の魔力障壁を破るのでは無く貫通させるとは・・・でも、まだ足りない。君たちの実力ならもっと上を目指せるはずだ。」
ついでに、そんなアドバイスをする。友人をあの過酷な場所に送りたいとは思わないが、同じ魔法師としてクラスメイトとして良い魔法師になってほしいと思うからだ。
*
この<電気拡散>が唯一の黒白への対抗手段だと思っていた雷華は、つかさず2撃目を放つ。だが、2回試せば成功するというわけではもちろんない。
3、4、5回と連撃を放つ。しかし、そのどれも黒白に効いている様子はない。
自然と雷華の足が止まる。
だが、これはまだマシな方だ。
大和は既に止まっていた。神は、自分と雷華の一撃をまるで何事も無かったかのようにふるまう。
大和はたった2撃で絶望していた。
勝つどころか攻撃を与えられるビジョンが見えないのだ。
結人に模擬戦を依頼した人間はたいていこうなる。そもそも結人の魔力障壁を貫ける人物などこの世界で十数人しかいないのだ。それも、全力の一撃を与えてだ。
ただの学生に、この『神の盾』を破る事など出来るわけがない。
「足を止めるのは1番悪い選択です。UCは待ってくれませんよ。常に考え、感じ、行動して下さい。」
「「は、はい!」」
先程と変わらず、声だけは良い。だが、身が入っていないのも事実。
「火魔法<
結人は、直径10cmほどの小さなボールを無数に作り出す。その数1000個ほど。次は、防御の面でのテストである。
結人が指を鳴らすと2人目掛けていっせいに放たれる。
1つ1つの威力はそれほど高くはない。だが、魔法の質が桁違いに高く、それぞれ不規則に飛んでくる。そして、小さいだけに防ぎづらい。
「なっ!」
動きを先読みして放った大和の攻撃を、火の球がまるで魚の群れのように避ける。
「まさかっ!このたくさんの火の玉を全部操っているのか!」
何かしらの物を通して魔力を操るのに比べて、空中に存在する魔力は干渉するのが難しい。
例えばボールを投げる時、指から離れるまでの間に何かしらの力を加える事は容易だが、飛んでいるボールに力を加えるのが難しいように放った後の『魔法』、それも固形物でないものに誘導をかける事がどれほど難しいか・・・
それもこんなにもたくさん・・・
改めて認識する、相手はあの『魔法の神』なのだと。
常識なんてものは通用しないわかりきっていた事だ。相手は魔法の神、こっちはただの学生。差は火を見るより明らかだ。
ならば・・・
常識を壊す、戦術で!
「行きます!」
そう宣言した大和は何かが変わった。ほんの少し、歯車が回った。
少しとはいえ回った歯車は止まらない。
歯車は次の歯車を回し、連鎖するように次の、また次の歯車を回す。
神は、いつの間にか誘導魔法を止めていた。そして、何やら別の魔法をかける。それは、<魔力循環>魔力の流れを良くしてより高度な魔法を放てるようにする魔法だ。ただし、対象は自分ではなく大和だった。
異変を感じとった桃も自分の支援魔法の対象を全て大和に切り替える。
自分の魂が、その名を告げた。
「
自分の思いが魔法になって顕現する。
魔力の集まりを感じ取ると大和を中心に、地面に巨大な魔法陣が広がる。
「<
魔法陣の端に巨大な水の壁を作ると一気に中心へと迫った。天井を塞ぎ全方面からのいっせい攻撃を放つ。さらに・・・
「第1段階<水破>」
2つの固有魔法の同時発動。自分の力を最大限に引き出す。自分でも驚くほど魔力が自分に答えてくれていた。大和は殻を破ったのだ。
大和は楽しくなっていた。もちろん自分の攻撃が通用するかもしれないと期待していた。それと同時に通用するはずがないと考えてもいた。では後者だとして、神は自分の魔法をどのように対処するのか楽しみでならなかった。
神は期待に答える。
「<
大量の水が神に近づいた瞬間、水の勢いが消えた。
いや、消えたんじゃない押し返されている。
これは、頭に『絶』が付くが藁科の魔法ではない。結人が自分で開発した魔法だ。
指定した空間内にある自分を除くあらゆる物質を外へと吹き飛ばす魔法。もともとは海の中に潜ったりするために開発した魔法だが、戦闘でも使える。応用すれば弾き飛ばす物質を選択出来たりする便利な魔法だ。
そしてこの魔法の恐ろしい所は、魔力操作を極めればその存在に気づかれない点と魔法発動中にエネルギーを吸収、蓄積、放出する点だ。
絶空の範囲の外側で水と空気の押し合いが行われていた。最初はほぼ互角のようにも思えたが数秒後、指数関数的に押し返す側の力が強くなり大量の水を吹き飛ばした。
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