#21 MTF③

「逃げろー!!!」

「さっさと走れ!ヤツが来るぞ!」

「きゃ〜〜!!!」


生徒達は散り散りになって逃げ惑う。

魔法師の世界は完全な実力至上主義である。魔法の頂点に立つ人間は神のように扱われる程だ。



「風魔法<ストーム・バースト>。」


美月は、特大の風魔法を放つ。固有魔法と空間魔法は結人に止められているので、昔から得意だった風魔法を放ちまくる。

風魔法は、攻撃、防御に加えて移動にも使える。空中での戦闘にはもってこいだ。


風魔法で身体ごと吹き飛ばし、1人ずつ確実に葬る。


「これで15人か・・・優勝は難しいかな〜」


もし自分が優勝したら、お兄ちゃんはどんなご褒美をくれるだろうか。


もしかしたら、一緒寝てくれるかもしれない!一緒に寝れたら・・・えへへ〜〜


そんな妄想が加速する。そんな妄想と呼応するかのように美月の魔法は最適化されていく。逃げ惑う生徒達を片っ端から容赦なく脱落させていく。

美月はこの日から東京校の生徒にこう呼ばれるようになる『絶風の女帝』と・・・



しばらくして、足を止めた美月は端末を覗く。すると、早速順位が変動していた。



1位 藁科結人14633(1年Aクラス)

1位 嘉神咲夜14633(1年Aクラス)

3位 黒崎空 5217(2年Aクラス)

4位 藁科美月5004(1年Aクラス)

5位 朝日奈雫3126(3年Aクラス)

6位 丹羽啓一2950(3年Aクラス)

7位 仙洞田樹2817(1年Aクラス)



残り参加者

243/501



まだ、開始から30分ぐらいしか経っていないのにも関わらず、既に半数以上が脱落している。

学校全体の総合ポイントは約16万ポイント。つまり結人と咲夜は、全体の10%ほどのポイントを持っていた。


「さすが、お兄ちゃん。いったいどうやってこんなに早くポイントを集めているんだろう・・・」


魔力感知で敵の位置を捕捉しながら縦横無尽に駆け回った。しかし、兄との差は1万ポイントほどだ。どんな方法を使ったんだろう、と興味がわく。


そして、もう1つ重要な事に気づく。

それにしても・・・凄すぎでしょ・・・

美月はハッと息を吐いた。今まで実力を隠して来ていたとはいえ、今の自分は出来すぎだった。魔力がほぼ無限にあるので魔法が使いたい放題。

魔力技術も驚くほど上昇していた。


「やっぱり私・・・」


美月は、育ての親である葉子に全てを聞いた。あの日の後の事、あの研究所の事、そして自分が『神の子』計画の成功体であることを・・・

だが、自分が強い理由がほんとうにそれだとは思わない。


きっと、お兄ちゃんのおかげなんだろう。お兄ちゃんと再会する事によって新たな固有魔法を得た、空間魔法を得た、まだ話した事は無いけど『時空龍ーヘレナ』さんと仲良くなった、新しい友達もたくさんできた・・・

そう思うと、気が紛れる・・・

自分が、ただの人間なんだと思える・・・


「<風塵乱舞>!」


魔法で空気の塊を作ると、一気に弾ける。近くにあった木が内側から弾け飛んだ。立ち込める暴風は近くにあったベンチや電灯を吹き飛ばした。

試合開始前に、先生からあまり建造物を壊さないでと言われた気がするが、お構い無し。


この魔法はついこの間作った魔法だ。結人がテストをしている間に開発したものだ。

開発にかかった時間はわずか1時間。さらにこの魔法は色々な魔法を組み合わせる事ができる汎用性の高いものだ。

もちろん、わずか1時間で魔法を開発する事などできるはずがない。


「やっぱり私、お兄ちゃんの双子の妹なんだな〜〜ふふふ、まぁ私は嬉しいからいいんだけど♪♪♪」


そうニコッと笑うと次の獲物を探すために走り始めた。魔力感知の技術もあがり、この学校全体を見渡せる程になった。


「この魔法も便利だな〜これは強いわけだ〜お兄ちゃんの魔法は根本から違うんだな〜」


結人、というより藁科の魔法は他の魔法とは根本が違う。そもそも、普通の人間の魔力回路と藁科の人間の持つ魔力回路が違うのだ。魔法の組み立て方が全然違う、美月が今まで魔法をあまり上手に使えないのもこれが理由だ。

だから、結人が使う魔法の99%は自作である。


「じゃあ私も会いに行こ〜」





「<閉鎖封印>!」


16本の鎖が宙を舞う。

操れる鎖の数が4本から4倍の16本に増えた事によって、攻撃の汎用性がとんでもなく上昇した。

他にも『夜明けの光』に所属している人に色々なアドバイスを貰った結果、空の魔法の腕は格段に上昇した。

他にも自衛手段を増やしたり、魔法の織り交ぜ方を学んだりした。


「やばいな、俺こんなに強くなっていたとは・・・あの訳の分からない練習法がな〜やっぱりあいつ神だ。魔法の神だ。」


結人の編み出した魔法の腕を上げる練習はとても簡単なものだった。

なんでも、魔力操作技術を上げるために魔法陣の構築と破棄を繰り返すというものだった。

最初のうちは意味があるのか?と思っていたが、効果は絶大。自分の魔法が日を増すに連れて鋭くなっていくのを肌で感じる。

遥香とは一旦別れ、本気で1位を狙う。もともと空の得意な鎖を使った魔法は空中戦が得意だ。


急にとてつもない魔力を感じた。それまで余裕でいた空の足が止まる。


「ここまで楽勝〜って思っていたが・・・」


「あ、空さんじゃないですか、初めまして?それとも久しぶりですかね。」


「初めましてだろ。俺は『白銀』の正体が誰かなんて知らないからな。」


「あ、確かにそうですね。」


高速で動き回る2人が向かい合う。共に結人に魔法を教えて貰っていた存在だ。

空間魔法と時間魔法と固有魔法を封印されている美月と夜明けの光で鍛えられた空が睨み合う。


「じゃあ始めます?」


「あぁやってやるよ・・・・・・第1段階ブラック・ハザード<黒き翼ブラックウィッグ>」



空は、自信の固有魔法を放つ。真っ黒のオーラを放ち、翼を生やす。

それはまるで、獲物を狙う鷲のようだった。

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