#20 MTF②

才能のある人間と才能の無い人間がいる。

同じ事を同じだけやったとしても差は生まれる。

では、遺伝子すらも同じ人間が同じ分だけ同じ事をした場合どうなるだろうか。


自分は、才能のある人間だと思う。

幼い頃から研究所で魔法師の事だけを考えて育てられてきた。

約9年のブランクがあるとはいえ、 同年代の人間相手では比べ物にならない。単純な魔力量だけでも数桁以上の明確な差がある。

しかも、私には人類最強と謳われたお兄ちゃんがいる。才能とは、生まれた時に持っていた能力に加え、その場の環境によっても変わると思う。

幼い頃から魔法に触れていた人間が魔法が上手なのは当たり前だ。

お兄ちゃんの魔法に触れ、肌で感じる事によってさらに強くなる事を実感した。


今は、お姉ちゃんに負けているけど、いつか隣に立てるようになりたい。





咲夜に貰った水筒からお茶を汲み、ゴクリと飲み込む。

自分が入れるものとは比べ物にならないぐらい美味しくてひんやり冷たかった。

だが、冷たい原因はもうひとつあるだろう。


「美味しい・・・」


「ふふふ、ありがとうございます。」


イベント開始からわずか1分、結人と咲夜の周りを囲んでいた生徒ーー46名が全員失格となった。

イベント開始から30秒、誰も攻撃せずに様子を見ていたがそのまま睨み合いが続くはずが無かった。

その内の1人が加速魔法を使ってかけ出すとその直後、屋上は氷の世界に閉ざされた。生徒たちの多くが普段昼食を食べる為に使う屋上は一瞬にして凍りついた。ところどころに氷柱が形成され、その様子はまるで氷の世界のようだった。

だが、全員が脱落したというのに生徒たちには一切ダメージを与えていない。


狙ったのは、イベント前に配られた《端末》だった。

本人から端末が5m以上離れた場合、ルール5によって即失格となる。

つまり、端末が破壊された場合即失格となるのだ。


「それにしても結人さん、上手く行きましたね。」


「そうだね、全員の端末の座標を特定してそれだけが壊れるように魔法を放つのはちょっと大変だったけどね・・・」


「ふふふ、ですが見てください。これで2人とも13000ポイントを超えました。圧倒的ですね!これなら優勝できるんじゃないでしょうか?!」


咲夜は張り切って、を結人に見せる。2人で魔法を行使したという判定になり、自分の持つ端末と同じ得点が表示されていた。

もちろん、順位は同率1位。


「まぁ優勝を狙うなら行動しなきゃ行けないんだけどね、今回の目標はあの4人の強化、僕達はそれなりの順位で終わろう。」


「分かってますよ、結人さん。やはりまだ心配ですもんね。私も新しい妹が出来て、何だか新鮮な気持ちになります。」



咲夜は、結人と出会うまでずっとひとりぼっちだった。両親はいるものの兄弟はおらず、あの箱庭でずっと魔法の練習ばかりしてきた。

まだ数日だが、新しい妹との生活はとても楽しいものだった。

歳は変わらないが、美月といる生活がたまらなく楽しかった。

だからこそ、妹を大切にするという結人の気持ちに納得できた。


「結人さんの思い通りになったら嬉しいですよね。私も楽しみです。」


「うん。さて、僕達も移動するか。」


「はい、結人さん。」


2人は手を繋いで立ち上がると、移動を始めた。





イベント開始から30秒、不意に校舎の屋上に膨大な魔力が集まるのを感じた。

誰なのかは考えなくてもわかる。

こんなに芸術的で無駄が無く、美しい魔法を放つのは はあのお方たちしかいない。


「これ、もしかして結人君の魔力?相変わらずとんでもないわね。」


「あはは、相変わらずとんでもないやつだろ?あいつは昔からそうなんだよ。出会った時から俺よりもぜんぜん強くてだな。」


「世界中から恐怖の対象とされている『青の悪魔』ですら勝てないなんて・・・ほんと何もんなの?あの2人・・・」



そう言いながらも聖奈にはある予想があった。絶対に口には出来ないが、この間のライブ、樹との付き合いの多さ、圧倒的な魔法の精度からある程度の予測はできた。

そして何よりの証拠は、2人の休みの多さだ。


現在の日本の医学は、魔法の普及によりとんでもなく進んでいた。もちろん、原因不明の病気はまだ少なくない。

だが、風邪や骨折などは魔法を使えば一瞬で治るので、休みをもらう事などほとんど無かった。

そんな中、Aクラスで唯一、結人と咲夜の2人はここ半年で10日間以上休んでいる。

こんなに休むのは明らかに異常だ。

考えられる理由はただ1つ・・・・・・戦場に出ているのだ。

そうすれば、色々な事に説明がつく。


それにしても、相変わらずとんでもない学校だな・・・4人中3人がここにそろっているなんて・・・

ま、私は私の道を進むだけだけどね。


「さて、俺たちも狩りを始めるか、あいつとの約束を果たさなきゃいけないしな。」


「約束?何かゲームでもやってるの?」


「あぁ、昨日急にあいつに言われたんだ。今回のイベントで優勝したら旅行券をくれるそうだ。」


「旅行券?」


「行き先は聞いていないけどな。ベアで楽しんで来な、だってさ。まぁ3ヶ月後にはアレが控えているから今のうちに遊んでおけってことだと思うけど・・・」


「それじゃあ頑張らなきゃだね。打倒『漆黒の鷹』よ!」


「あぁ、そんじゃ行きますか!」


樹は、聖奈の手を握ると攻撃魔法を多数出現させる。

樹は、他の魔法師と比べて魔力操作技術がとても低い、細かいコントロールは出来ないし、魔力の流れから行動を予測することも出来ない。

だが、火力という点においては群を抜いている。




「水魔法<デス・ハザード>」


空中に巨大な水の塊を創り出すと、水による無差別に爆撃を行った。

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