#12 これからの事

「本日もお疲れ様でした、結人さん。」


「ありがと、咲夜。やっと心の重しがとれたよ。」


美月と分かれた結人は、約束通り自分の部屋へと向かった。

待っていたのはもちろんこの人ー嘉神咲夜だ。咲夜はまるで夫の帰りを待つ妻のような格好をしていた。


既に晩ごはんの用意はできており、いつもより少し早めの夕食をとることにした。


「結人さん、乾杯しませんか?中身はジュースですけど・・・」


「うん、いいよ。乾杯、咲夜。」


「はい、結人さん。」


乾杯をすると、料理を口にする。まるで旅館に出て来るような日本料理だった。

とても美味しい色とりどりの料理が並んだ。


夕食を食べ終わると、二人はベランダにある椅子に向かい合いながら腰をおろした。

向こうには、今にも沈みそうな夕日が見える。

結人はそれを見ながら色々な事を考えた。


あの日から9年、色々な出来事が起きた。多くの戦友が太平洋の海に沈んだ。中には結人の目の前戦艦ごと散っていった仲間もいた。


そしてどうしても考えてしまうのは3ヶ月後に行われる『第3次奪還作戦』だ。

2体とはいえ世界を滅ぼすとされている破滅級だ。当然多くの軍人が命を落とすだろう。S級魔法師の中からも犠牲者が出てしまうかもしれない。自分は油断しない限り大丈夫だと思うが、もう片方の方がとても心配だ。


咲夜に美月、他にも多くの仲間が参加する。 もしその場に自分がいるならば助ける事もできるが、今回はそれができない。


「咲夜、僕は今日から美月の育成に全力を注ごうと思う。時間魔法は、極めれば大きな武器になる。10月までは、学校に通いつつ教える感じで、11月に入ったら休学しようと思う。」


「はい。」



ゼラストと美月が盾役をすれば上手く立ち回れるだろう。

アタッカーも咲夜やグランが担えば大ダメージを与えられるだろう。だが、それでも不安は残る。


「僕には精霊魔法適正がないから精霊魔法は教えられないけれど、咲夜も参加してほしい。その・・・心配なんだ・・・」


「わかりました、結人さん。私も結人さんの隣に立てるように強くなります!」


咲夜は優しく微笑んだ。その目は覚悟の決まった目だった。現状、咲夜は固有魔法の最終段階である第4段階を突破している。

また、魔力操作技術も凄まじいものだ。


つまり、咲夜にはもう成長の余地がないのた。

精霊魔法はたしかに強力だが、限界はある。また、精霊をいちいち経由しなければならないので発動までに時間がかかる。


そんな事は本人である咲夜が一番理解していた。最近は、保有魔力量の伸びも止まり始めた。

魔法の限界の限界を超える事を目標に咲夜も進む必要があるのだ。


結人は咲夜が入れてくれた緑茶を手に取った。


「それじゃあ重い話はこのへんにして中に入るか、そろそろ冷えてくるだろうし・・・」


「はい、そうしましょう結人さん。」


中に入ると二人は、それぞれへのプレゼントを交換することにした。

毎年、相手に渡したいものを渡すのだ。結人は去年、おそろいのコーヒーカップを買った。今でも使っているが、二人ともコーヒーはあまり飲まないのでお茶を入れたりしていた。

結人は、今年のプレゼントを亜空間から取り出すと、咲夜に手渡した。


「これは・・・チョーカーですか?」


「うん・・・」


それは、結人の自作で二人の剣がそれぞれ描かれているものだった。工作なんてものはあまりしたことがない結人だが、魔法具作りなら何度もやった事がある。結人ー黒白様が作ったというだけで数千万円という価値がつく。別にお金目的というわけではないが、自分の命を預ける大事な商売道具の製作を結人に依頼する人は多かった。

無償とまではいかのないが、結人はそれを格安でやっていた。


今回作ったこのチョーカーは千切れると周囲に強力な魔力障壁を展開するというもので、12月に行われる第三次奪還作戦のために作ったものだ。


「ありがとうございます、結人さん。大切にします。できれば、結人さんにつけてもらいたいです・・・」


「うん、いいよ。」


結人は咲夜の後ろに回ると腕を回し、彼女の首にチョーカーをつける。白と赤に輝く二本の剣がいい色をだしていた。

咲夜は、首に手をかざすとチョーカーを撫でながらにっこりと笑った。


これはいいものをもらいました・・・これをつけていると何だか結人さんのものって感じがして最高です!!!


「私からはこれです、結人さん。」


咲夜もあわせて亜空間から結人へのプレゼントを取り出した。


「これは・・・マフラー?」


「はい、次回の奪還作戦に合わせて作りました。少しべたすぎるかもしれませんが、結人さんのように上空で戦う人は寒いだろうなと思ったので・・・」


「ありがとう、すごくうれしいよ。」


咲夜が作ったのは結人のトレンドカラーである白と黒のマフラーで、とても丈夫な仕上がりだった。戦闘中は動きまわるので熱いが、上空を飛んで飛んでいる時はとても寒い。普通は魔法であったかくしたり魔力障壁で自分自身をおおったりするが、決戦の前は少しでも魔力の消費を抑えたいものだ。

咲夜はそれを考えた上で結人にマフラーをプレゼントした。


「ふふふ、どういたしまして。」





後日、マフラーとチョーカーの事が世間に話題になり、黒白様と紅焔様のフィギュアにマフラーとチョーカーが加わったのは当然の話だ。



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お知らせです。ついにというか何というか、この話のストックが切れました。


夏ということで執筆活動を休む日(サボり)が増えついに底をつきました。


そのため、明後日の更新を約束できないかもしれません。ご了承ください。

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