#11 希望の覚醒④
結人は、自分の身に何が起こったのかまったく理解できなかった。
ただ分かったのは以前とは比べ物にならないほど体内の魔力量が増加していることとそれを軽く上回るほどの魔力を放つ剣が自分の周りを円を描くように回っている事のみだ。
中でも自分の前で停止した純白の剣は桁違いの存在感を放っていた。
「忘れていたぜ。そういえばお前も藁科の人間だったな・・・それにしてもこの魔力量はなんだよ・・・ざっと俺の100倍はあるぞ・・・それに一人の人間が一度に5体の龍と契約するなんて・・・」
その真人の考えはある意味で正しく、ある意味で間違っていた。
真人のこの時の魔力量はおよそ100万。また、この時点での結人自身の体内魔力はおよそ500万ほどだろう。
だが、周りを回る龍剣の魔力量はその一本一本が2億を軽く超えていた。
真人はすぐに結人という存在を隠すため、周囲に認識疎外魔法を展開した。
「藁科の人間?どういう意味ですか?」
「話は後だ、さっさとその物騒なものをしまえ。ってしまい方を知らないのか・・・まずその剣に触れろ、そんでそいつと契約を結ぶんだ。」
「は、はい・・・」
結人はおそるおそる目の前にある白銀の剣に触れた。それは、純粋な力の塊だった。
結人に触れられるとその龍剣は白く光りだした。そして、彼女は結人に語りかけた。
【思ったより早かったわね、結人】
頭の中に声が聞こえる。これは次元の狭間で聞いたものと同じものだった。
相変わらず姿形は見えない。いや、違うこの剣が語り掛けているのだ。
【貴方はさっきの・・・ってあれ?僕口に出していないのに・・・】
【これは私がちょっと強引に回線を繋げているのよだから考えるだけであなたの伝えたいと思う願いが伝わるわ。】
【そうなんですか・・・】
【そういえばまだ名前を名乗っていなかったわね、私の名前は
【龍・・・だったんですか?でも龍って空想上の生き物じゃないんですか?】
【現実の存在よ。そもそもどうして龍という存在が人類に広まったと思っているのよ・・・ってその話は今はいいわ、それよりさっさと契約を済ませちゃいましょ。】
【うん、わかりました。】
【・・・】
【・・・】
2人の間に静寂が訪れる。
両方とも契約の結び方を知らないのだ。お互いがお互いに契約の仕方を知っていると思いこみ黙る。
【えっと~どうやってやるんですか?】
【知らないわ。だって私、契約なんて一生できないと思っていたもの。】
【は、はぁ・・・】
【そっちの男に聞いてくれない?そいつなら暗黒龍と契約しているみたいだし。】
【わかりました。】
結人は隣で何か考え事をしていた男に話しかける。
「あの、契約ってどうやるんですか?僕のパートナーは知らないみたいで・・・」
「契約の仕方を知らない龍だと?そんなやつがいるわけ・・・って今目の前にいるのか・・・簡単な話だ、自分のパートナーとなる龍に名前を与えるのだ。簡単だろ?」
「でも・・・僕の龍には既に名前があるみたいだけど・・・」
「まじかよ。じゃあ上書きしてやれ。」
「わ、わかりました。」
【えっと~リエスさん。】
【大丈夫よ、聞こえていたわ。それじゃあ上書きして頂戴。】
【わかりました。】
覚悟を決めると自然と言うべき言葉が出てきた。
「
そう告げると純白の龍剣が再び輝きだした。そしてそれに呼応して結人の周りを回る4本の龍剣も光りだした。
なんとなくがだそれらが自分の近くにきた感覚があった。
【私はあなたの中で待ってるわ。早く突破しなさいよ。】
リエスは最後そんな事を言っていた。
それが済むと5本の龍剣は静かに魔法陣の中に消えた。そしてそれ以降、リエスとの直接の交信は一度たりとも行っていない。
緊張感が解けると、結人の髪の毛の色は白から真人と同じ色に戻っていた。それを見届けると真人は結人を抱きしめた。
「すまなかった・・・俺の不注意でお前が不幸な目にあってしまったようだ。」
「えっと・・・」
急な出来事だったため、結人はひどく混乱した。
「俺の名前は藁科真人、お前の父親だ。」
「お父さん?」
「あぁ父親だ。そしてお前の名前は藁科結人だ。」
「藁科・・・結人・・・」
「安心しろ、もう大丈夫だ。俺がこの命をかけてお前を守る。」
*
その後、葉子が待つ日本防衛軍本部へ連行された。日本防衛軍大将ー朝日奈によって研究所は何者かによって跡形もなく消し飛んだ事として処理された。
また、本条葉子は今回の事件についての重要参考人として取り調べが行われた。葉子は知っている事をすべて話した。だが、資料もデータベースも被験者も文字通りすべてが何者かによって消滅したため日本防衛軍も頭を悩ませた。
唯一証拠として残っていた被験者の血液や研究資料も何故か突然消えた。
結果として本条葉子は無期懲役となった。裁判はもちろん行われなかった。
本人もそれを了承し、事件は静かに幕を閉じた。
そして、結人はというと・・・
「結人、ここが今日からお前の住む家だ。欲しいものがあった何でも買ってやるぞ。」
「わかりました・・・」
人里離れた山奥にある藁科家の本家に住むことになった。また、結人の存在を知っている人物は朝日奈と藁科家のみとなった。
取り調べで忙しい葉子に会わせてあげる事はできず、美月とも再会できていなかった。
心にぽっかり空いた穴を埋めるために真人は自分の家族を紹介することにした。
「おかえり~お父さん!あれ?その子は?」
「この子は藁科結人、お前の弟だ。」
「え?弟?わーい、私欲しかったんだ~」
「そうか、仲良くしてやってくれよ。」
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