#9 希望の覚醒②

2人が訓練場の中に入り中央に立つ後ろの扉が静かに閉まった。扉の前にはここまで2人を連れてきた見張りが3人いた。そして鈍い音とともに正面のガラスが開かれた。

姿を表したのは3人の男と1人の椅子に座っている女性、その女性は二人のよく知る人物だった。


「「ママ!」」


二人は声を揃えて叫ぶ。長い間一番近くで感じていた優しい魔力、間違えるはずがなかった。


「今すぐ逃げて!二人とも!」


二人の顔が見えた時から泣き叫んでいたので彼女の顔はしわくちゃになっていた。

それでも、たとえこの先自分の身がどうなろうと、この二人だけは絶対に守る。その一心で叫んだ。


「逃げる?」


状況がまだのみこめていないお兄ちゃんは首をかしげた。私もまだ状況が正確にわかっていなかった。


「早く逃げて!」

「ストップです、結人君、美月君」


葉子の言葉を遮って古村はそう告げた。

そして、右手に持った拳銃の銃口を葉子に向けた。


「動いたら撃ちます。」


結人も美月も動きを止めた。拳銃が実際に使われているところは見たことがないが、その恐ろしさは知っていた。この訓練所の側面の壁には魔力感知器が備え付けられているため下手な行動はできない。


「聞き分けがいいようで助かります。やはり、あなたに二人の母親役を任せたのは正解だったようですね。」


「どういう事?」


「3年前、たった一組だけ、あなたに育てられた子供だけが『生き残った』時は大いに喜びました。そしてこのような未来が来る事は想定していました。あなたは最高の母親役でした、ただ一点不満をあげるとしたら魔法師の努力の結晶である固有魔法です。あなたは二人に固有魔法を与える事ができなかった・・・私も大変悩みました、そしてある結論に到ったのです。」


古村はそういうと不敵に笑った。

そして両手を掲げる。右手には拳銃、左手には結人と美月に仕掛けたと思われる睡眠薬付き手錠のスイッチ。

古村は高らかに宣言する。


「固有魔法を発現する『きっかけ』を私自身が作ればいいってね。」


「・・・」


「さて、最後の問題です、本条君。希望と絶望、より感情が揺さぶられるのはどちらでしょうか。」


「絶望・・・・・・はっ!」


「正解です!流石ですね、本条君。では報酬として私が今から何をするか教えて差し上げましょう。私が思うに、固有魔法はその人物心情の急激な変化に由来すると思うんですよ。」


古村がそう言った瞬間、私はすべてを理解した。この男の目標は二人に固有魔法を発現させること。

そのためには2人の感情が大きく揺さぶられる出来事が必要。


その方法は・・・


私を殺すこと。




「結人、美月、今までありがとう・・・」



葉子は生きることを諦めた。この男に何を言っても無駄であることなど目に見えていた。


ならば彼女が優先すべき事はただ一つ。

固有魔法にすべてをかける。


「科学に犠牲はつきものですよ、本条君。それでは、さようなら。」


古村はためらいもせず引き金を引いた。葉子は魔力障壁すら展開しなかった。

放たれた弾丸は彼女の脳に命中した。

そして、一瞬のうちに貫通した。


最後の最後まで笑ったままだった。



その瞬間私の中の何かが壊れた。



え?・・・

何が起こった?


ママが・・・

ママが笑ってくれない・・・

ママが動いてくれない・・・


「「許せない!」」


尋常じゃない魔力の渦が2人を包んだ。

部屋の側面に設置された結界魔法や魔力感知器は圧倒的な魔力によって壊れた。

あまりにも魔力な魔力によって魔力を利用した電子機器の全てが壊れ、爆発した。


あまりにも濃い魔力は可視化した。結人は純白、美月は純黒のオーラをまといそれが綺麗に混ざり合う。


他の研究員が慌てる中、古村はただ一人笑っていた。


「ははは、いいぞ!いいぞ!私の目標がついに叶う!」



結人と美月は手を繋いだ。そして、己の力を解き放つ。



ーーー消えてなくなれ!

ーーー元に戻って!


それぞれの強い思いが魔法となって顕現する。


光と闇

善と悪

時間と空間


対極にあって一番近くにある存在。



「「第二段階セカンドリミットブレイク・・・」」



その、全てのエネルギーが2人を包み込むとそれぞれ究極の一撃を放つ。



「<次元崩壊ディメンション・ディストラクション>」


「<時空反転タイム・インベージョン>」


美月の魔法はその名の通り時間の巻き戻す魔法。美月の救いたいという『思い』が魔法となったもの。

魔法陣が死体となった葉子を包むと眩い光を放った。


時間の反転


人知を超えた現象が起こり始める。



対となる結人の魔法はその名の通り空間を次元ごと崩壊させる魔法。結人のこの世界を消したいという『思い』が魔法となったもの。

魔法陣がを包み込むと究極の魔法を放つ。


範囲内のあらゆる物質を包み込む。



そして・・・



全てが無に帰した。



いや、正確には全てではない。時間の反転の最中であった陽子を残してあらゆる物が消えた。





古村研究所周辺


大きさ約10000㎡

研究員60名+被験者数名


国際法に違反した古村研究所を襲撃するため、藁科真人を含めた数百人からなる日本防衛軍が近くで待機していた。


時刻は午後6時を回った頃、手元にある情報では午後の6時になったら研究員の半数は帰宅すると書かれていたが今のところ帰宅者はゼロ。


この作戦の指揮をとるのは朝日奈大将だった。

午後7時になったら藁科率いる魔法師のみで構成された突撃部隊が制圧をする予定だった。

親友の妻であるエリーナからある程度の情報をもらっていた。特に資料にある、とんでもない適正値をもった双子に要注意との事だった。敵の強さをA級魔法師レベルとして最大限の警戒にあたっていた。


それは、突然の出来事だった。


突然真人もびっくりするほどのとてつもない魔力が研究所の中心に集まり始めた。

真人はそれを感じ取るとガラスの窓を蹴り破って飛び出した。


「全員、魔力障壁を展開して魔法を使えない連中を守れ!それとあの研究所に絶対に近づくな!!!」


「「「了解!」」」


数十人の魔法師が飛び出した。

直後、膨大な魔力が一気に一点に集まった。そして光が研究所全体を包み込み球を作ると、凄まじい爆音とともに消えた。

建物はおろか、魔力や空気すら飲み込んだ。地面にはぽっかりと穴が空き、水道管がむき出しになっていた。


「噓だろ・・・」


すると、突然中心に魔力が集まると空間に穴が空き、中から一人の女性が落ちてきた。

俺は<絶縮>を使ってその落下地点に先回りすると彼女を受け止めた。


特に目立った外傷は無く、息もちゃんとある。

俺は何が起こったのか全く理解できなかった。

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