#7 希望の誕生④

事件が起きたのは、魔力適正値の結果が送られてきた次の日だった。

昔は毎日のように二人のもとへ通っていたが、最近は一週間に一日だけー月曜日はお休みをもらうことにしていた。

しかし、その日はあのとんでもない結果を見た次の日だったため、居ても立っても居られなくなり、出勤することにした。


いつものように入口から中に入り、そのまま二人の部屋を目指す。

最後の曲がり角で、いつもように左に曲がろうとした時、突然反対側から変な音が聞こえた。

大人のものか子供のものかわからないが、その音は誰かの悲鳴だった。

そしてそれと同時に10mぐらい先の突きあたりの部屋から白衣を着た若い女性が出てきた。

顔は真っ青でひどく怯えた様子だった。

ぶるぶると震えながらあたりを見回し、私に気付くと驚いた顔をしながらこちらの方に走ってきた。


「本条さん!今すぐ私とあなたを『隠蔽魔法』で隠して!早く!」


「え?」


「急いで!時間が無いの!」


「わかった。<隠蔽魔法>・・・」


5秒ほど時間をかけて即席の隠蔽魔法を展開する。完全に姿を消すほどの高度な魔力操作技術は持っていないので、あくまで側だけ。

外から見たら私達は少し大きめのゴミ箱に見えるはずだ。


魔法自体はとてもお粗末なもので、育成学校卒業した人間であれば気付かれてしまうレベル。だが、魔力回路を持っていない旧人類が気付くはずが無かった。


先ほどこの女性研究員が出てきた部屋を見ると、同じところから一人の老人が出てきた。私は思わず目を丸くする。

部屋から出てきたのはこの研究所の所長である古村茂雄だった。


私は落ち着いて隠蔽魔法をまとわせた防音魔法を展開し、中の音が外に漏れないようにする。


古村は、少しその場でキョロキョロと周りを見回した後、私たちの前を素通りして結人と美月のいる部屋に入った。しばらくして出てくると、再び私たちの前を通り先ほどと同じ部屋に入っていった。

幸いこの廊下には監視カメラが無くどうやら気づかれなかったようだった。


古村が中に入ったのを確認すると、先程の女性はひどく怯えた様子でこちらを見た。今までは慌てていて気が付かなかったが、彼女の顔は見覚えがあった。

最初、同僚となって別の子供を育てていた人で『サードプログラム』以来ーおよそ3年ぶりの再会だった。顔も雰囲気も少し変わっていたが、わずかばかり面影があった。


「お久しぶりです、神代さん。とりあえず隠蔽魔法と防音魔法で隠しておきましたよ。」


「ありがとうございます、本条さん。」


「それで・・・そんなに慌てて何があったんですか?」


古村がいなくなったからか、少しだけ顔色をよくした彼女に私は尋ねてみる。


「私・・・とんでもないものを見ちゃったみたい・・・。たまたま古村さんに質問があってあの部屋に入ったら・・・中に大量の赤ちゃんがいたんだよ。」


「え?どういうこと?赤ちゃん?」


「騙されていたのよ・・・私たちは・・・。ここは、普通の魔法研究所じゃなくて遺伝子研究所だったのよ。私たちが育てていたのは、捨て子じゃなくて遺伝子組み換えされて創られた存在だったのよ・・・」


「そんな・・・」


「それだけじゃないの・・・プログラムを突破出来なかった子供たちーつまり『失格者』はその後どうなったと思う?」


「まさか・・・」


「えぇ、そのまさかよ。おそらくみんな殺処分されちゃっているわ。だから本条さんも今すぐ私と一緒にここからでましょう!」


「でも・・・結人と美月が・・・2人を残してはいけないわ・・・」


「今すぐに日本防衛軍に通報すれば2人を救えるかも知らないんだよ?・・・一緒に行こう、本条さん!」


私はこの時の行動を、後になってひどく後悔することになる。

今になってもどうすれば正解だったのかは今でもわからない。

だが、これだけは言える。私の選択は間違いであったと・・・


「わかりました。行きましょう!」


この研究所内は外部からのハッキングを防ぐために電波を遮断している。

今になって考えれば私たちのような輩を外に出さないようにするためだったのかもしれない。


私は神代さんに手をひかれ、廊下を駆け回った。出口は一つしか知らないのでそこを目指す。

途中で他の研究員に声をかけられたが、それをすべて無視して突っ走る。


そして小さめの玄関口の下にある重力センサーを踏んだ。


しかし、開くはずの扉が開かない。


「え?どうして?」


思わずそんな言葉がこぼれる。そして次の瞬間、後ろのガラス扉が閉まった。

正面のガラスを叩くがびくともしない。

閉じ込められた事を悟った瞬間、下から白い煙が出てきた。

何の煙なのかはわからないが、絶対に吸ったらやばい事はわかる。


「<魔力障壁>!!!」


私は、急いで周りに魔力障壁を展開する。だが、すでに遅かった。


だんだんと意識が遠のいていき・・・


パタンと、その場に倒れた。





「やっぱり『黒』か~いったいどこで抜き取られたんだか・・・今すぐに日本防衛軍に通報してくれない?この研究所、遺伝子組み換えに手を出しているって。」


「は、はい。」


エリーナは、『黒』である事が分かると夫の親友に電話をかけた。


「もしもし?重大な事件発生~え?今、太平洋にいるって?そんなら今すぐ戻ってきて。」



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