#4 希望の誕生


過去編開始です!



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最初は、軽い気持ちだった・・・

私は、国立日本魔法師育成学校金沢校を卒業後、魔法を研究するために日本防衛軍管轄の研究所に志願した。凄まじい競争率の中、なんとか一次試験を突破したが、二次試験の面接で落ちてしまった。

これについては完全に自分のミスなのでどうも思わなかった。

来年、改めて受ける事も考えたが、友人のつてである研究所で雇ってもらえる事になった。


『古村研究所』それが、すべての始まりだった。

最初は、なんて事のない普通の生活だった。この研究所の目的は『効率的に体内魔力量を上げる方法』についてだった。

私は、この研究が世界の、そして人類の役にたつと考えて一生懸命働いた。そんな時だった、この研究所の闇の部分に浸かっていったのは・・・


「本条君、君に、我が研究所の極秘プロジェクト『奇跡の子』計画に携わってもらいたい。明日からは、ここではなく本部への出勤だ。おめでとう、本条君」


「あ、ありがとうございます。では、失礼します。」


私はその日、大いに浮かれていた。この研究所に勤めて二年と少し、ようやく私という存在が認められたのだと・・・

その日は、昔仲がよかった友人と飲み、楽しんだ。



*



次の日、私は期待に心を踊らせながら、本部へ出勤した。


「ようこそ、我が研究所へ、本条君」


そう挨拶した白髪交じりの爺さんは、ここ『古村研究所』の創設者にして所長、古村繁雄こむらしげお。そしてこの男こそが全ての元凶だった。


「はじめまして、本条葉子です。よろしくお願いします。」


「あぁ、よろしくたのむ。さて、早速だが本題に入らせてもらう。君に頼みたい仕事というのはだな、簡単に言えば『子守り』だ。」


「子守り、ですか・・・」


もっと違うものを想像していたため驚いてもう一度聞き返してしまった。

これが、運命的な出会いになるとは知らず・・・


「あぁ、我々の研究に協力してくださっている被験者の子供たちからのデータの採集と世話だ。」


彼は、そう言って私に資料を渡した。

そこには、私の人生を変えた二人の写真が載っていた。


年齢は2歳

2033年2月1日誕生

ファーストプログラム突破

セカンドプログラム突入

特別観察対象


「この2人の管理ということですか?」


「あぁ、そのとおりだ。人数が少ないのは大人の事情でね、名前などは無いから好きに付けてくれたまえ。出身は君には教えられないが、男の子と女の子の双子だ。そして二人は、魔力量に関しては君を既に上回っている。」


「なんですって!まだ2歳の子供ですよ!そんな、ありえません。」


自分の魔力量にはある程度の自信があった。ゆえに驚く。


「君はそう思うかもしれないが、これは紛れもない真実だ。まずは案内しよう、ついてきたまえ。」


「は、はい・・・」


私は返事をすると少し急ぎ足で彼の後を追った。すれ違った研究員に軽く会釈をしながら、資料に目を通した。

しばらく歩くと、小さなホールに出た。

側面には、全部で6つの部屋があった。中には被験者と思われる子供たちが、一つの部屋に一人もしくは二人入っていた。

どの子も一歳か、二歳程度で、彼らは皆、静かに眠っていた。


そして、私から見て、正面にある部屋に二人はいた。


「君は、魔力量に自信があるほうかい?」


「えぇ、まぁそれなりには・・・」


「そうか、ならば必要ないな。」


彼はそう言うと、棚から『ガスマスク』を取り出して自分に装着すると、部屋に入った。

私も続いて中に入ると、所長が何故『ガスマスク』を装着したのかが直ぐに分かった。

部屋の中は、地上では有り得ない程に、魔力が濃かった。魔力回路を持たない旧人類では、最悪の場合では気絶してしまうレベルだった。


そして、気が付いた。何故この子たちがこれほどまでに膨大な魔力量を有しているのかを・・・

そして、気にしなかった。何故被験者となる子供たちが、これほどまでに少ないのかを・・・





2人の子供の『世話』を初めてから1ヶ月が経過した。

同僚となった他の部屋を担当する5人はそれぞれ自分が担当する子供に名前を付けていたので私もつける事にした。

一晩悩んだすえ、男の子の方を『結人』、女の子の方を『美月』と名付けた。特に意味は無いが、これから大事に育てていこうと思った。


3か月が経過した。

子供の成長とは凄まじいもので、二人とも名前を呼んだら返事をするようになり、私の事も『ママ』と呼ぶようになった。

私が2人にするのは、一週間に一回行われる体調チェック以外ほぼすべて、私は次第に愛着を持つようになり、気が付いた時には自分の給料のほぼ全てを二人の教育費につぎ込んだ。

私は、実家から研究所に通っていたが、研究所に泊まる日も徐々に増えていった。

2人も自分たちが兄妹である事を感じているようで、いつもくっついていた。

電子機器の持ち込みは禁止されていたため、昔話の本などを使って日本語を教えた。



そして、ついにその時かやってくる。

二人の子守りを初めて6ヶ月が経過した。

『2月1日』、二人は3歳の誕生日を迎えた。

私は誕生日という事で、近所のケーキ屋で誕生日ケーキを買い、二人の元へと向かった。

しかし、


「すまない、本条君。君に任せた二人は、今日から『サードプログラム』が始まる。よって、今日と明日、そして明後日は申し訳ないが、二人とは面会できない。だから、3日後に来てくれたえ。」


私は、入室どころか見学さえ許されなかった。今日から『サードプログラム』が始まるのは知っていた。だが、面会が許されないとは今日初めて聞いたものだった。


その日は諦めて家に帰った。そして、一人で虚しく三人分のケーキを食べた。


そしてここからどんどんおかしくなっていく。

いや、もしかしたらおかしかったのは最初からだったのかもしれない・・・

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