#3 過去との決別③

摩天楼ーB10ー第4ブロック

その中にある一つの独房で、一人の女性が泣いていた。

名前は、本条葉子。年齢は34歳。服役は9年目で、9年前に無期懲役の有罪がでている。


彼女は結人と美月の近くまで来ると、2人を力いっぱい抱きしめると、号泣した。

結人と同じで、彼女も9年ぶりの再開である。

この狭い独房の中で9年間ずっと考えていたのは自分が育てた2人の子供のことのみ。血は繋がっていないが、我が子のように可愛がってきた。また、彼女は結人と美月の名付け親でもある。

葉子は、独房の中で自分の犯した取り返しのつかない罪を深く反省した。結人がS級魔法師になるのと同時に仮釈放の権利を得たが、自らそれを断るという前代未聞の行動に出た。

理由は自分の娘を救えなかったからというものだった。


しばらくして、落ち着くと結人は美月と出会った経緯を話した。


「昨日ね、『世界魔法祭』の最中にこの前話した謎の魔法陣が出現しっちゃってね。東京を大量のUCが襲った出来事があって、僕がもう使わないって決めた『あの魔法』を使って魔法陣を空間ごと吹き飛ばして攻撃を止めた所までは良かったんだけど、何体か打ち漏らしがあったみたいでそれの対処をしようと思ったら美月が戦っていたんだ。」


「そんな事が・・・」


結人は昨日起こった事を葉子に伝えた。

完全に予想外かつ突然の出来事だったため、内心は今もなお混乱していた。

だが、彼女が、自分の愛した双子の妹の美月であることは確信があった。


魔力パターンは自分と99.99%同じだし、顔もそっくり。雰囲気や性格も変わっていない。

そして何より、美月は藁科の人間しか使えないはずの『龍の力』を使っていた。

それは、何よりの証拠だった。


美月は、葉子に『あの出来事』の後のことを話した。

記憶を失い、途方に暮れていた自分を、石川県に住む老夫婦が救ってくれた事・・・

1年ある日、『あの出来事』に関するニュースを偶然見て、記憶を取り戻した事・・・

唯一の頼れる人物である、結人と葉子を一生懸命探したが、見つからなかった事・・・

魔法師になるために国立日本魔法師育成学校金沢校に入学した事・・・

そして、今年の『世界魔法祭』で、奇跡的に結人と再開した事・・・

それから、日本防衛軍所属のS級魔法師として活動する事・・・


葉子は、真剣に、そしてどこかうれしそうに二人の話を聞いていた。

その顔は、愛する息子と娘を見る顔だった。

久しぶりに見た、二人のうれしそうな顔に嬉しさが止まらなかった。

心の中にあった不安や自己嫌悪といった負の感情が、いっきに吹っ切れるような感覚だった。


「さっ、ここから出よう、お母さん。」


結人は、葉子の右手を優しく握ると軽く引っ張った。心の底から出た言葉だった。


「でも・・・私は・・・私は・・・あなたたちを・・・あなたたちでさえも守れなかった。自分から首を突っ込んでおきながら、あなたたちの人生をめちゃめちゃにしてしまった・・・」


「大丈夫だよ、僕は今、とっても幸せだよ・・・お母さんがいて、美月がいて、咲夜がいて・・・お母さんがどう思ったとしても、僕は十分幸せだよ・・・」


「もういいんだよ、お母さん。お母さんは悪くない。悪くないんだよ・・・私もこうして一緒になることができて、幸せだよ・・・」


「結人・・・美月・・・ありがとう、本当にありがとう・・・愛してるよ・・・」


葉子は、もう一度抱き締めると、二人に愛をささやいた。

そして、三人は揃って独房を出た。



*



そこからの流れは早かった。既に朝日奈はこうなることを予想して、必要な書類を用意していた。


葉子には、摩天楼の55階の一室が与えられ、しばらくそこに住むことになった。



「あの時の出来事が、まさかこんなことになるとはな・・・そう思わんか?藁科茜」


「そうだね~9年前、お父さんが結君を連れて来た時はどうなるかと思ったよ~」


「しかし、そのお陰で世界が保っているというのは、なんとも皮肉な話だな・・・」


「まぁ私は、私の結君にあんなことをしたあいつらを一生許す気にはならないけどね~妹ちゃんもそう思うでしょ?」


「はい、もしできるなら私がこの手で灰すら残さず消し飛ばして差し上げます。」


「ハハハ、でもそのおかげであの完全無欠の超人、『藁科結人』と『藁科美月』が誕生したんだがな。」




9年前に起きた、ある事件の真相を知るものは、藁科の血を引く者と嘉神の血を引く者、そして現日本防衛軍 大将の朝日奈のみだった・・・


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ここから、過去編が始まります!


ちょっと胸糞要素もありますが、楽しんでください!

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