#2 過去との決別②

摩天楼に戻った結人達は、茜に美月を紹介する事にした。

茜の部屋がある51階に行き、ノックをしてから彼女の部屋に入る。

部屋に入ると、茜は難しい顔をしながら書類と向き合っていた。内容はおそらく昨日の事だろう。状況が変わりすぎたのだ

茜は入ってきた結人と美月を見ると手に持った書類を放り投げて机の上に上るとこちらに抱きついてきた。

当然、ぬるりとかわす。


「ちょっと避けないでよ、結君!」


「姉さん!姉としての威厳を保つんじゃなかったの?」


「あ、そうだった・・・」


美月も自分の姉がどんな人なのか楽しみにしていただろう・・・

ごめんね、こんなんで・・・これでも僕たちと血が繋がった姉弟なんだ・・・って言いたくなるまぁ、言わないけど・・・


「はじめまして、藁科美月です。どうぞよろしくおねがいします」


「きた~ついに私にも2人目の妹きた~」


「2人目?もう一人いらっしゃるのですか?」


「あれ?知らないの?嘉神咲夜ちゃん、2年後に結君と結婚するから実質私の妹なんだよ~だから2人目なんだ~」


「そうなんですか・・・あの方が私のお兄ちゃんを・・・」


姉さんは昔から一人ぼっちであった咲夜を本当の妹のように大事にしてきた。

まぁ、もうすぐ本当の妹になるわけだが・・・


「私の事はお姉ちゃんって呼んでね。」


「はい、お姉ちゃん。」


すると、美月は小声で茜の感想を言ってきた。


「私たちのお姉ちゃんは少し・・・いや、だいぶ変わった方ですね・・・」


「それは思っても口に出さない方がいいかな・・・」


「ちょ、ちょっと結君?全部聞こえてるよ?」


茜は大切な事はスルーするくせにこういうときだけちゃんと聞いてる。いわゆる地獄耳というやつだ。昔からこんな感じでみんなを悩ませている。もう慣れたが・・・

結人は茜をスルーして話題を変える。


「とりあえず、9月、10月、11月の3か月で美月には藁科に伝わる空間魔法をすべて教えようと思っている。」


「嘘!たったの3ヶ月で!?結君ですら半年かかったのに?いくらなんでも無茶だよ。」


「それは教えるのがおじい様だったからだよ。僕なら大丈夫、それに代わりに僕も『時間魔法』を教えて貰うつもりだしさ。」


「『時間魔法』も?!」


「うん、美月の魔法適正は、空間魔法5.0、時間魔法10.0だからね。多分なんとかなると思うよ。」


「いや〜それはデビュー当日にS級魔法師になれるわけだ。あ〜あ、私にも才能があったらな〜まぁ無いからまだA級魔法師なんだけどね・・・よし、分かった。これからよろしくね、美月ちゃん。」


「はい、よろしくお願いします、お姉ちゃん」


ここで、茜の表情が急に真面目になった。

どうやらこの後の結人と美月の行動が分かったようだ。


「それで?もしかして結君達は今から『あの人』の所に行くの?」


「うん・・・咲夜に昼ごはんをもらった後でね・・・」


「そっか・・・行ってらっしゃい」


「うん、行ってくるよ、姉さん」





結人達は、茜の部屋を出ると70階にある自分の部屋へと向かった。扉を開けた瞬間、美味しそうな匂いが漂ってきた。

結人達が手を素早く洗い、席に着くと咲夜がちょうど完成したラーメンを持ってきた。

咲夜は、結人専用探知魔法と結人専用盗聴魔法を使って、結人達が帰ってくるタイミングを見計らい、計算して作ったのだ。


「美味しいですね、このラーメン」


「咲夜が作ってくれたやつだからね。すごいんだよ?咲夜はなんでも僕好みに作ってくれる。いつもありがとう、咲夜」


「ふふふ、婚約者として当然ですよ。」


結人は、ラーメンも結構好きで、たまに咲夜と食べに行く事がある。1番好きなのは塩ラーメンで、今回咲夜が作ったのも塩ラーメンだ。

咲夜がラーメンを作る練習をしたのはもちろん結人に食べさせるためである。

自分の料理をより多く食べて貰うために、結人の好きな料理は全てマスターしている。


「そうですか、私もお兄ちゃんが好きな味を知りたいので是非教えて下さいね。」


「私も機会があったら是非昔の結人さんの事を教えて欲しいですね。」


結人は、少し気まずい雰囲気の中、大好きなラーメンを啜った。





摩天楼ーB10にこれから結人と美月がこれから会いに行こうと思っている人が収容されている。

日本で最も強固な監獄はどこかと聞かれたら多くの人がここ、摩天楼の地下10階にある危険人物収容所を答えるだろう。

収容人数は僅か100人にも満たないが、危険人物ばかりが集められている。また、この収容所は難攻不落で、魔力に反応して作動するレーザー銃や魔力を分散させる装置など、数多くの脱獄防止システムが採用されている。例えそれらを突破して地上へ出れたとしても上にはA級以上の魔法師が常駐しているので、脱獄は不可能である。

建設された当時から一人も脱獄者を出していないのがその証拠だ。


そんな、日本最強の収容所に結人と美月は訪れていた。

4つのブロックの第4ブロックにある、お目当ての独房に訪れていた。

この収容所には、面会室というものが無いため面会の時は直接中に入る事になっている。とわいえ、面会を希望する人はたまに日本防衛軍の人間が犯罪組織の情報を聞きに来る程度で、一般人の面会は1年に1人いるかどうかである。

また、この収容所に入れられるレベルの危険人物に対しては、精神系の魔術の使用が認められているので、情報を隠すことはできないようになっている。


結人もこの人に会う時以外は訪れた事がない。

ロックを解除し、中に入ると目当ての人物は静かに座っていた。

そして、結人の顔を見つけるとパッと顔を明るして立ち上がった。


「こんにちは、結人君・・・それと・・・噓!!!」


後ろに控えていた美月を見つけると、凄く驚いていた。

そして、少し自信がなさげに美月に尋ねる。


「もしかしてだけど・・・美月ちゃんなの?・・・本当に、美月ちゃんなの?・・・」


美月は、にっこりと笑顔を作ると、涙を浮かべながら応えた。


「お久しぶりです、お母さん・・・」



____________________


さぁ、二人の過去がだんだんと明るみになってきました!

というよりもう予想できた方もいるかもしれません。

次回更新もお楽しみに!

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