#5 希望の誕生②

3日後・・・

私はケーキを買い直すと、私は例によって2人の部屋に向かった。

カードをスキャンしてホールの中に入ると、二人は初めて会った時と同じように寝ていた。

その2人の寝顔を見て、私はほっと一息入れた。


そこで私は、ある違和感を覚えた・・・


いないのだ・・・


3日前まではいたはずの他の部屋の子供たちが・・・

でも、考えてみればそれは当たり前の事だった。私の子供たち・・・結人と美月は、3歳の誕生日を迎えたから『サードプログラム』を受けたのだ。

他の子供たちは、まだ誕生日を迎えていない。もしくはもうすでに迎えたはずだ。

私はそう解釈すると、2人の部屋の扉を開けた。


すると、いつものように凄まじい魔力が私を襲った。だが、その魔力は以前とは比べ物にならないほど濃かった。

体感で、ざっと10倍・・・

もし、魔力回路を持たない一般人であれば最悪の場合、死に至るレベルであった・・・


私は嫌な予感がして、急いで2人の元へと駆けつけた。そして、2人を抱き上げた。

顔色は普通・・・

体温も普通・・・


私の存在に気が付いたのか、結人はそっと目を開けた・・・

結人は私を見つめると、にっこりと笑顔を向けた。


「大丈夫だった?結人・・・」


「うん、別に何ともなかったよ、ママ」


結人はケロッとした顔でそう言った。

笑顔を無理矢理作っているという感じはしなかった・・・


「どんな事をしたの?」


「んっとね~何か椅子に座ってちょっとしたら終わっちゃった~本当に何にもなかったよ。」


「そ、そう・・・それならよかった・・・今日はケーキを買ってきたからみんなで食べましょ。」


「ケーキ?どうして?ママ・・・」


「2人の誕生祝いよ。」


私の声を聞いた結人は、両手を挙げて喜ぶと、寝ている美月をゆすった。


「起きて、美月!!!ママが帰って来たよ。」


「ん?お兄ちゃん?それと・・・ママ?えへへ、お帰り、ママ・・・」


美月も、眠そうに目をこすりながら目を開けた。


「おはよう、美月。ケーキがあるよ、どれがいい?」


「え?ケーキ?わ~凄い!美味しそう!」


「どれでも好きなのを選んでね、二人とも!」


二人はそれぞれショートケーキとチョコレートを選び、お互いに食べさせあった。。

私は、余ったチーズケーキを食べた。

この日から、結人は苺が大好物になり、美月はチョコレートが大好きになった。





18:00

普段なら研究員が帰る時間になっても、他の子供たち及び同僚は現れなかった。

それどころかひとりも現れなかった。


そのことを不審に思った私は、2人に別れを告げるとこの研究所の所長・・・古村所長の部屋へと向かった。

「失礼します」と言って中に入る。

古村所長は、研究資料に目を通していた。

やがて、私を見つけるとニヤっと笑って資料を手元においた。


「やぁ、待っていたよ、本条君。君なら必ず来ると思っていたよ。」


「は、はぁ・・・あの、所長」


「まぁ待ちたまえ。君の質問はわかっている。『どうして君の同僚が来ないか』だろう?」


「はい、そうですけど・・・」


「君には明日告げようと思っていたのだが・・・彼らは、他の部署へと移転となった。そして彼らが担当していた子供たちだが・・・『失格』となつた。」


「『失格』ですか?それってどういう・・・」


「簡単な話だ。彼らには『サードプログラム』を受けるべき資格が無い事がわかったのだ。よって、『失格処分』となったのだ。」


「なるほど・・・」


私はこの時、『失格』となった子供たちは親御さんの元へと帰ったのだと思い込んだ。

特に会話らしい会話をしたわけでもなかった・・・


この時は、「あぁそうなんだ」程度にしか関心しなかった・・・


「そこで、君に1つ頼みがある。彼らに魔法を教えてやってはくれないか?君も知っての通り、我々大人は魔力回路を持たないから魔法を教えられない。だが、魔力回路を持ち、母親役である君ならば彼らに魔法を教えてあげる事もできるだろう?」


「魔法をですが・・・基本魔法ならばできると思いますよ。」


「あぁ、よろしく頼む。練習用の部屋を用意しておくから、明日からぜひ始めてくれ。」


「はい、わかりました。」


「以上だ。もう帰っていいぞ。」


「はい、失礼します。」


私は、立ち上がり椅子を戻すと、「失礼しました。」と、言って部屋を後にした。

二人の元に戻ろうと思ったが、また明日会えるだろうと思って、そのまま自宅へ帰った。

その日は、疲れていたのか、ベッドに寝転ぶとすぐに寝てしまった。





「よかったのか?本当の事を伝えなくて・・・」


本条葉子と入れ違いで所長の部屋に入って来た男は、低い声で尋ねた。


「何の話だ?私は真実を伝えたが・・・」


古村は、作業の手を止めると、男の方を向いた。


「決まっているだろ?『失格者』の処分についてと『サードプログラム』についてだよ。」


「知らない事の方が幸せさ。どうやら本条君はあの2人を本当に愛しているようだ・・・。『失格』となった者がその後どうなったかなど知らぬが仏だろう。同じ理由で『サードプログラム』唯一の成功例である彼らをこれからも順調に育ててくれるだろう。それと、そっちの方は大丈夫なのか?4期生と5期生の方はどうなっている?」


「思ったよりも良くない。『ファーストプログラム』突入者が6人、『セカンドプログラム』突入者は2人だ。それだけ、3期生が優秀だったようだ。古村、あの二人に何をしたんだ?」


「さぁ・・・私もわからんよ。逆にいじった方はみんな『サードプログラム』で失格となっている。案外、どれだけ愛情をもらったかが関係しているのかもな。」


「あぁそれもそうだな・・・ところで本条にはいつあの事を伝えるんだ?」


「決まっているだろ?不可能と言われた人類の夢、『時間魔法師』を創り出すまでだ。」



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