#30 時を司る者③

ライデン社の新型ハンドガン、『R8-ヘル・シャーク』の実演が終わると、私たちは先程のお兄さんに再びテントの奥へと案内された。

スタッフのお兄さんは空さんと千恵の手をとると、上機嫌で2人にお礼をした。



「いや〜凄かったよ、2人とも!おかげで大盛り上がりだったよ!本当にありがとう!」


「いえいえ、私の魔法なんてこっちの彼の魔法に比べたらしょぼかったですし・・・」


「そこは、俺も悪かったな。まさかあそこまで盛り上がってくれるとは思っていなかった・・・」


あんなに凄い魔法を披露したのに、彼はあまり機嫌が良さそでなかった。

どこか現実から目を離すかのような顔をしていた。

スタッフのお兄さんは2人に面白い提案をしてきた。


「それで、今回のお礼何だけど、私としては是非ともおふたりには契約を結んで欲しいなって思うんだけど・・・」


「け、契約ですか?!」

「・・・」


「はい、私たちとしては、優秀な未来の魔法師に是非とも我が社の製品を使って頂きたいと・・・」



魔法師は企業と契約を結び、ただで魔法具を貰う変わりに雑誌に載ったり使っている所を見せたりして会社の事を宣伝する。スポンサー契約のようなものだ。

もちもん契約を結ばないという選択肢もあるが、有名な魔法師はともかく財力に乏しい私たちのような学生にはとても美味しい話だ。


ちなみに結人と咲夜は、エリーナの経営する『銀の船』と契約を結んでいる。他のS級魔法師もほとんどが、『銀の船』だ。


ライデン社は国内トップ10に入る大手メーカーではあるが、A級魔法師が最大で、S級魔法師とは1人も契約していない。



「それなら、是非お願いします!」


千恵は迷わず即答した。こんなチャンス滅多にないからだ。

彼女の選択は正しかったと思う。


「俺は辞めておきます。わざわざ契約するよりも買った方が早いですから。」


「そっか、残念です・・・また気が変わったら教えて下さい。本日は御協力ありがとうございます。」


彼は少し考えた後、提案を拒んだ。ある程度財力に余裕があるならこういう選択も正しいと思う。


「「貴重な体験をさせていただき、ありがとうございました。」」


カップルは、そうお礼を言うと、ブースを後にした。

この2人とはここで別れ、千恵はその場で契約書にサインをした。

商品は後日学校に届けるという事で合意した。


ブースを出ると時刻は17時をさしていた。

そろそろ『S級魔法師会議』が終わるころだろう。この会議で決まった事は明日のフィナーレでまとめて発表される。

噂では、第3次奪還作戦が行われるとか行わないとか・・・

私たちには実質的な関係はないものの、もちろん興味はある。


「これからどこに行きましょうか、千恵」


「ん〜そ〜だね〜。歩き疲れたから少しカフェで休憩しない?」


「はい、そうしましょう。」


「そんじゃあレッツゴー!」


千恵は上機嫌に腕を掲げると、17時を知らせるチャイムが東京に鳴り響いた。


それと同時にとてつもない魔力が上空に集まり始めた。

私たちは、一斉に空を見上げその様子を眺めた。周りの人達も同じように空を見つめる。

空には巨大な魔法陣が浮かんでいた。


私はその魔法陣が人間によるものでないと気づくと急いで千恵の手を引き、走り出した。


「ちょ、どこ行くの!美月!」


「あれは人間による魔法陣ではありません。ここは危険です。早く逃げないと!!!」


「大丈夫だって、今日はS級魔法師が勢揃いしているんだよ?」


「だとしてもです!邪魔にならないように私たちは今すぐに退避すべきです。千恵、都民の皆さんに声をかけて危険である事を知らせてあげて下さい!」


「わ、わかった・・・!!!」




「「皆さん聞いて下さい!あの魔法陣は人間によるものではありません、ここは危険です!急いでシェルターか、日本防衛軍の施設へ避難して下さい!」」


私たちは大きな声で周りの人達に呼びかけた。最初のうちは相手にしてくれていなかった人々も、けたたましいサイレンの音が鳴ると、一目散に逃げ出した。

人々が混乱する中、魔法陣の中からとてつもない魔力を、持った化け物が出現した。





アマテラスーブリュンヒルデ


「魔力量10億!高度10000!間違いありません!規模は違いますが、例の魔法陣と同じ反応です!」


「急いで緊急システムを作動させてちょうだい。データをとるのも忘れないで、それと日本防衛軍本部に連絡!今は『世界魔法祭』の『S級魔法師会議』が行われているはずだから急いで彼らに連絡してちょうだい!被害無しで抑えるわよ!」


「「「了解!!!」」」


アマテラスより、緊急システムが発令され、東京にサイレンが鳴り響いた。

重要な施設は、バリアで覆われた。

訓練を除けば初めてとなる緊急システムの作動だった。





「おい!どうした?!何があった!」


グレンの声が会議室内に響く。が、肝心の会議室の中は空だった。

当然、返事は返って来ない。


「どうやら東京の上空10000mに巨大な例の魔法陣が出現した見たいです、グレン」


「わかった、なら俺はすぐに向かう!」


「ダメですよ、グレン。間に合うはずがありません!ここは大人なしく待っていて下さい!彼らならば大丈夫ですよ。」


「それもそうだな。頼んだぞ、最強結人


グレン達は結人の勝利を信じて託した。








『S級魔法師会議』では部外者の参加は許されていない。

ジルトレア最高責任者であるセランは、朝日奈と共に摩天楼の中で東京の都市を眺めながらある後悔をしていた。

後悔の内容というのはもちろん『第3次奪還作戦』の事だ。

S級魔法師とはいえ、たったの11歳で人類最大の敵であり、何度も討伐計画が作られた破滅級UCをたったの1人で少年に接敵させてしまい。

さらにその破滅級UCを討伐してしまった時からセランは少年が20歳になるまでは奪還作戦など、絶対に立てないと固く決意した。

だというのに・・・

まだ4年しか経っていないのにも関わらずセランは、それを破ろうとしていた。


「そう気に病むな、セラン・・・キリアのためにも、私たち人類は絶対に領土奪還という悲願を達成しなければならないのだ・・・」


「だが・・・まだ彼は15歳の子供だぞ?!」


「彼だって覚悟はしているはずさ。多少強引であったかもしれんが、これも人類の明日を掴むためだ。責任は全て我々大人が負えばいい。」


「そうだな・・・」


そうだなと応えたものの、セランはまだ割り切れていなかった。


この時、17時を知らせるチャイムと共に東京の空は大変な事になっていた。

しかし、魔力回路を持たない彼らは気付くのが少し遅れてしまった。


重い雰囲気が漂う中、その静寂をぶち壊すかのように勢いよく扉が開いた。


「どうした!」


朝日奈が大声で怒鳴ると隊員は最悪の事態を告げた。


「ほっ報告します!東京都上空10000mに巨大な魔力を感知、例の魔法陣です!黒白様によると、魔法陣の破壊は不可能なため、魔力切れを待つとのことです!現在、黒白様を含む7人のS級魔法師が交戦中!A級以下の魔法師が避難誘導を行っております!」


「なんだと?!今すぐに摩天楼内にいる全魔法師を出撃させろ!命令は私からのものよりも黒白か、ゼラストの物を優先させろ!手の空いている職員は、全員避難誘導だ!市街戦だ、絶対に戦闘機や戦艦を使うな!何としても東京を落とさせるな!!!」



「了解っ!」


「我々も行こう、セラン。こういう時こそ、我々が前に出るべきだ。」


「あぁ、私たちの戦いを始めよう。」




セランと朝日奈はこの摩天楼にある、指令室へと向かった。


これは、ますます第三次奪還作戦を実行しなければならないな・・・


セランは密かにそう思った。


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