#25 世界魔法祭③
「2年以内に第5区を奪還する。」
「え?!」
「正気か?セラン!キリア=メスタニアの二の舞になるぞ!」
朝日奈は机を大きく叩くと立ち上がった。
結人は黙ってゆっくりとお茶を飲む。こうなる事は、藁科家を継ぐと決めた日から覚悟している。単独での戦闘だとしても結人の方が1枚上手だからだ。
だが、朝日奈さんが焦る理由もわかる。
キリア=メスタニア、初代序列一位にして人類絶滅の危機を救った英雄。魔法社会の基礎を作った人物でもある。
しかし、彼女は既に亡くなっている。死因は戦死。
第一次奪還作戦はキリア=メスタニア率いる揺動部隊の活躍により全軍合わせて3体の災害級UCを討伐したが目的であったアラビア半島奪還は果たす事ができず失敗。
ヨーロッパ連邦が発足される理由にもなった、2029年に行われた第二次奪還作戦はインドを陥落させたと思われる破滅級UCに遭遇し、全軍撤退。
その際、
ジルトレアの行った2度に渡る奪還作戦は共に失敗に終わった。
「私とてわかっているさ、今この状況で結人君を失えば人類の滅亡はほぼ確定だ。確認できているだけでもこの世界に破滅級が10体も存在している。彼無しで倒せる訳がないだろう?」
「なら!」
「現在第5区に存在する破滅級UCは2体のみ、今がチャンスなんだ。それに、今はなんとか前線を維持できているがこのままいけばいずれ綻びが生まれて前線は必ず崩壊する!なら、今のうちにに打って出るべきだ!1体を我々アメリカのS級魔法師4人、空中戦闘艦『スワロー』と日本の『紅焔』、『深緑』の6人で討伐。もう一体を結人君と空中戦闘艦『ツクヨミ』で討伐。そして、この作戦の目標は『地獄の門』だ。」
その後も作戦の具体的な内容が話し合われた。5時間に及ぶ会談によって色々な事が話し合われた。
まずは魔法使用制限法について、これはセランの提案したものに全面的に採用された。
そして今回の議題の本題である『第三次奪還作戦』。
部隊の配置や編成、作戦の具体的な内容を決めた。魔力量の問題でS級やA魔法師の最大戦闘時間は3時間程度。そしてクールタイムは5時間程度とされている。
誰をどのタイミングで使うかが鍵となる。
時間との戦いだ。
5時間という膨大な時間を使って少しずつ、けれど確実に最適化していく。
参謀に任せるよりもこちらの方がより正確でより確実になる。
大事な作戦は参謀部ではなくセランと朝日奈で決める事が多いのはこれが理由だ。
まだ、仮だが作戦はある程度まとまった。
作戦名は『
そしてその日時は・・・
*
「すまなかったな、結人君、咲夜君、茜君」
朝日奈、結人、咲夜と後から合流した茜の4人は摩天楼の80階にある特別なレストランで食事をとることになった。ここは街を一望できる個室なので仮面は外している。
開口一番に朝日奈は頭を下げた。
「どうして!結君と咲夜ちゃんが普通の学校生活を送れるように私は・・・」
茜は、場を乱し、立ち上がる。
姉さんらしくない大声をあげ、立ち上がる。弟と妹を守るため必死に頑張って来たのにその全てがうち砕かれてしまった気持ちになる。
「大丈夫だよ、姉さん、朝日奈さん。時機にこうなる事は予想できていましたし・・・それに姉さんも分かっているでしょ、僕は序列一位なんだよ。S級魔法師である以上、やる事はやらなきゃ・・・」
「私も不満は結人さんと違う部隊である事ぐらいですし・・・」
「でも・・・」
「本当にすまん・・・俺はあいつの言っていることが全部正しく感じてしまった。確かに我々人類は未だ何の反撃もできていない。前線は維持できているがそれもいつまでもつかわからない、その上あの魔法陣だ。あれのせいで全部が狂った・・・今まで海だけを警戒していればよかったが今度は空からとは・・・」
すると箸を止めた咲夜が自慢げに言う。
「大丈夫ですよ、きっと私の結人さんがやっつけてくれます!アハハ~」
「ねぇ咲夜、もしかして酔っている?」
咲夜の様子に違和感を覚えた結人は本人に聞いてみる。
嫌な予感はあたるものだ。
薄っすらとだが、アルコールの匂いがする。咲夜がお酒やワインの類を飲むはずがない、ということはアルコール入りのチョコレートか何かをレネに食べさせられたのだろう。
「へ?私がですか?そんな事あるわけではないじゃないですか~私は元気ですよ~」
「・・・ダメみたいですね、朝日奈さん」
「そうみたいだな、結人君。一旦切り上げよう、話はまた明日にしよう。70階にある君の部屋に運んでやれ、お姫様のエスコートを頼んだぞ。」
「はい、おやすみなさい、姉さん、朝日奈さん、ではまた。」
「うん、おやすみ〜結君」
話を一旦切り上げて、2人は自室へと戻った。
残った2人の大人は再び向かいあった。
「全く・・・情けないな・・・我々人類はもうこの小さな子供に頼るしかないとは・・・。私が子供の頃は考えられなかったな、まさかこのような日が来るとは・・・」
「私は軍に入隊してから今日までずっと結君の事を第一に考えて来ました。なのに・・・」
「だからこそだ・・・。君は真実を見つめたくないだけだろ。それを自分のせいにして落ち込む、君の悪い癖だ。それに姉である君も知っているだろ、彼はまさしく最強、簡単には潰れないさ。あのキリア=メスタニアでさえ彼にとってはただの子犬程度にしかならないのだろう、彼を信じてやってくれ。」
「分かってます・・・・・・わかりました。我々『夜明けの光』は本作戦『スカイ・バースト』を承認します。」
茜は朝日奈の目を見つめる。数秒の沈黙の後、朝日奈はゆっくりと小声で「ありがとう」と、言った。
*
重力魔法式エレベーターを使って自室に向かう。
「結人さ~ん、これからどこへ連れていってくれるのですか~もしかしてベットですか~そして私を食べちゃうんですか~?えへへ~、お願いしま~す。」
「はいはい、そんな訳ないでしょ。まぁ半分正解だけど・・・」
「今日は楽しくなりそ~ですね~。既成事実を作っちゃういましょ~」
そう言い残して彼女は眠りについた。
100階建てのこの摩天楼の70階にある自分の部屋に訪れるのは久しぶりだ。
中に入るとそこはとても清潔に保たれていた。どうやらこの摩天楼で働く職員が掃除などをしてくれたのだろう。
部屋は電気をつけると咲夜が眩しがると思ったので月明かりのみ、結人は彼女をベットに運ぶ。
そして身体を綺麗にする魔法を使った。
咲夜程の魔法師であれば息をするかのように酔いぐらいであれば無効化できる。では何故魔法を使わないか、それは単に彼女がアルコールにとてつもなく弱いからだ。
一口飲んだだけでこのようにまともな思考をする事ができず、本能のままに動く人間となってしまう。
「さて寝るか、咲夜。」
と、平和に眠る選択肢をとろうとすると、
「ゆ・い・と・さ~ん今日は何日ですか?」
「えっと~8月19日だね。だから今日はそのまま寝る日じゃ・・・」
「結人さん?何を勘違いしているんですか?奇数日が休みなのはどっかの誤字ばっかの小説の更新日ですよ。私達の約束では5で割り切れない日でしたよね?」
「そ、そうだったかもしれないですね・・・」
咲夜は、服を1枚ずつ脱ぎ捨てると、下着姿になる。そしてとろんとした目で結人を見つめた。
「さ、召し上がれ♡」
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読んでいただいてありがとうございます!
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結人と咲夜が喜びます
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