#4 海に来た④




「◼◼◼!手を!」



赤く燃える炎の中で少年は手を伸ばす。

だが、その手が交わることはなかった。

次の瞬間、はスローモーションで底の見えない谷に落ちていった。




「ん?ここは・・・?」


この夢、いやこの・・・


久しぶりに見た。


目を開くといつもの寮とは違う天井がある。そういえば今日は別荘に来ていたんだったっけ・・・


最近この夢、を夢の中で見ていなかった。


一生忘れることはないだろう、いや忘れてはならない。


この出来事で僕は間違いなく変わった・・・



        *



起き上がろうとするが、何かに両肩をつかまれているため動けない。

その理由を確認するために顔を右側に傾けると予想通り、僕の愛する人が気持ちよさそうに眠っていた。同棲しているということもあり最近では見慣れた光景だ。

窓から差し込まれた光によって彼女の銀色の髪が光り輝く。相変わらず可愛い寝顔だ。


反対側を向くと自分と同じ黒髪の少女が眠っている。

周りの人によく似てるねっと言われるが、個人的にはあまり似ていないと思う。彼女もとても可愛い美少女だと思う。


顔を正面に戻し壁にかかっているアナログ式の時計で現在の時刻を確認する。


「え!もう8時半?!やばい寝坊した・・・」


普段起きる時間は6時半なのでいつもよりも2時間も遅い。

でもなんとなく、この幸せな時間をもう少し続けたいと思った。



すると突然、その平穏な時間をぶち壊すかのように誰かが木造の扉を叩いた。


「おい!結人!そろそろ起きたか?」


戸をバンバン叩く音とともに樹の大きな声が聞こえた。

しかし、このまま寝たふりをする事にする。

この幸せな時間を邪魔されてなるものか。


「おい、さっさと返事しろ!でないとこのドアに<地獄の業火ヘルフレア>をぶち込むぞ。5、4、3、2ー」

「ちょ、ちょっと待ってそんな事したらこの別荘ごと吹き飛ぶから!」


樹の場合本気でやりそうなため、あわてて返事をしてしまった。

僕の安らぎの一時が・・・


「何だよ、起きてんじゃねーか。ならさっさと出てこい!朝飯だ!」


「ごめん、今動けそうにない!」


「そこは自分で何とかしろ!序列1位だろ?もう先食べてるからな!」


状況を察した、樹があきれながら応える。


「うん、分かった。頑張ってみるよ、先食べてて~」


「わかった。早く来いよ~」


そういうと、どたどたと音を立てながら去っていった。

結人はとりあえず、茜から起こすことにした。


「姉さん起きて、朝食だってさ。」


「ん、ん~~もう朝?結君。」


「うん、早く起きて、そして着替えて!」


「は~い、それじゃ早速~」


そう言うといきなりポンとパジャマと下着を全て脱ぎ棄て全裸になる。

これは茜の悪い癖だ。周りへの配慮が全くできない。

言ってもあまり意味がない事は分かっているが一応警告する。


「っちょ姉さん!ここで着替えないでよ!」


結人は視界に入らない用に咲夜の方を向く。弟とは言え、16歳の男子の前でいきなり脱ぎだす癖をどうにかして欲しい。

咲夜の寝顔で気力を回復させる事にした。


「い~じゃん別に、見てる人いないんだしさ~それに服ならここにあるし。」


そう言って亜空間から洋服一式を取り出す。


違うそうじゃない。弟とはいえ、今年16歳になる男の子の前でいきなり全裸になるのは流石にどうかと思う。


気を紛らわせるために結人は咲夜を起こすことにした。


「咲夜~朝だよ~起きて~」


横になり、自由になった左手で咲夜の頬をツンツンする。

とても柔らかい。

しばらく触っていたが、返事がないのでもう一度呼びかけてみる。


「咲夜起きて、朝だよ~」


「キスをしてくれたら起きられる気がします。」


するとどこからか声が聞こえた。


「仕方がないな~僕の婚約者フィアンセは・・・」


結人は咲夜に覆いかぶさると短くて甘いキスをした。

すると咲夜はゆっくりと口を動かした。


”もーいっかい”


実際にそう言ったのかどうか分からない。

でも、2人は同じ気持ちだった。

今度は長いキスをした。


「ん~~///」


咲夜から可愛い喘ぎ声が漏れる。

2人は再び見つめ合い、微笑み合うとベットから出た。

お互い背中合わせで着替えを済ませると3人は一緒にダイニングへ向かい、少し遅めの朝食をとるのだった。




       *




結人が起きる少し前


いつも通り6時に起きた咲夜は同じく早めに起きていた茜に作戦を伝える。


【お姉様、私に1つ案があるのですが・・・】


結人にバレないように会話するために念のため結人に内緒で作っておいた通信魔法で会話をする。

流石の結人でも睡眠中では魔法を行使する事ができない。

超強力な4重の魔力障壁と魔力感知は常に結人の周りに展開されているが結人の事を知り尽くした2人がそんなものに引っかかるようなへまはしない。


2人は目を閉じて寝たふりをしながら結人の情報を交換した。


【ど~したの?妹ちゃん】


【最近の結人さんは少し疲れが溜まっているみたいです。先日の人型UC捕獲失敗が思ったより責任を感じているみたいであの日以来ずっとハードな特訓をなさっていました。いつもならばもう起きる時間ですが、今日は寝かしてあげませんか?】


【やっぱりね~私も気にしていたんだよ、結君は責任感が強いからね~昔から何でも1人で抱えこもうとしちゃう。やっぱり学校に入学させてあげて正解だったね。】


【そうですね、お姉様の判断は正解だったと思いますよ。昔よりもずっと自分の事をお考えなさっています。それに最近は休日に私と共にお出かけして下さるんですよ。】


【いいな~結君とデートか、私も最近遊べていないんだよな~】



以前の結人にはもちろん遊ぶ暇など無い。

あるとすれば家族と会う時か、咲夜とお出かけする時ぐらいだ。


【最近だと、水族館に行きました。とても楽しかったです・・・】


【いいな~水族館か~同棲も始めたし、なんかいよいよ夫婦って感じになってきたね~結婚まであと2年か~】


【藁科 咲夜・・・結構よい響きだと思いませんか?お姉様】


【あ~あ本当は私が結婚したかったのにな~私の結君を頼むよ、妹ちゃん。】


【はい、お姉様。共に結人さんを支えてまいりましょう。】




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読んでいただいてありがとうございました。

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