#5 海に来た⑤
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「あ~分からん。何なんだよこれ・・・こんなんやる必要ないだろ。」
「ダメだよ、樹!最低でもこれぐらいは覚え置かないと・・・」
東京校のテストの回数は他の学校に比べて限りなく少ない。
1年生と2年生は前期と後期、それぞれの学期末に2回のみだ。
つまりその時の成績次第で将来が大きく左右される。
そのため生徒たちはこの夏休みに皆必死になって勉強するのだ。例に漏れず結人たちもこの別荘で勉強会をする事になった。
「ここ違っているぞ、樹。」
「まじかよ・・・結構自信があったんだけどな。」
樹はバツの悪そうな顔をして消去ボタンを押す。
日本では2030年より、ノートを使った授業を完全廃止した。
そこで代わり導入されたのがこのタブレット端末。これにより色々な事がよりスムーズになった。
「ねぇ咲夜ちゃん、樹君ってどこの中学校に通っていたの?今のって中学の問題だよね・・・それも結構簡単な方の・・・」
「樹さんは昔から色々な事を感覚で覚えるいわゆる感覚派って奴なんですよ。そのため少し、いやだいぶ偏っているんですよ。私も正直よくこのAクラスに入れたなって思いました・・・」
「私も正直思っちゃったんだよね、あの様子を見ていると・・・まぁでも成績がピンチなのは樹君だけじゃなくてこの子もなんだけどね・・・」
桃はそう言うとこっそりとその場から離れようしていた雷華の肩を掴む。
「ところで雷華?この前の50点満点の小テスト何点だったのかな?」
「・・・2点」
「え?何だって?」
「2点だ、悪いか!だいたいこの学校のカリキュラムが悪いんだ!何故雷魔法の使い手である私が多系統の属性の魔法、それも使えもしない応用魔法の魔法式を覚えなければならないのだ!!!」
流石に2点は酷すぎる。確か平均点が30点ぐらいだったから、雷華はもしかしたら最下位かもしれない。
ちなみに樹は20点、難しい魔法式を書いたら丸をもらえたらしい。
そして当然のことながら結人と咲夜は満点だった。
その問いに、桃に代わって茜が応える。
「それはね~あれなんだよ雷華ちゃん。入隊試験や昇格試験に出るからなんだよ~」
「そうなんですか、茜さん・・・やばいどうしよう、私昇給試験受かる気がしない・・・」
「それなら私が教えてあげよっか?雷華ちゃん」
「いいのですか?!是非お願いします!」
すると1つの確信を覚えた大和が茜に質問をする。以前調べた事が本当かどうか確認する。
「ところで茜さん、1つ質問をしてもよろしいでしょうか。」
「何々~?応えられる事なら何でも応えるよ~」
「あなた様は何者何ですか?普通の人間が魔法師の昇格試験の内容など知らないと思うのですが・・・それにこの別荘も、個人が所有するものにしては豪華する気がするのですが・・・」
「ん?ただの魔法師だけど?」
「失礼ですが
「あれ?言ってなかったっけ、日本防衛軍所属のA級だよ。」
「「「え?えぇぇぇーーー?」」」
桃、雷華、大和は驚きの声をあげる。
3人が驚くのは当然の反応だ。
「噓!!!」
「本当何ですか、茜さん」
「A級だったなんて・・・」
「まぁA級といっても序列はそんなに高くないんだけどね~一応A級だよ~あ、一応この事は口外しないでね~色々と困るからさ。」
「は、はい。わかっています。」
「了解しました。」
桃と雷華の2人は思わず敬礼をする。
どうやら癖が抜けていないようだ。
「あ、今日は非番だし、敬礼はいいよ。」
「「は、はい。」」
「それじゃあ始めよっか雷華ちゃん」
「は、はい。改めてお願いします!」
「オッケー!」
茜はこんなんだが、勉強に関してめっぽう強い。それももしかしたら咲夜を上回るレベルだ。次期当主の継承権を放棄した茜は、それによって得た時間のほとんど勉強に費やした。
将来世界を支えるであろう弟を手助けするために。
茜の魔力操作技術は通常状態の結人に匹敵する程の人外級だ。しかし彼女が当主になるには圧倒的に体内の魔力量が足りなかった。
たったそれだけの事で茜は『無能』の烙印を分家の人間に押されてしまった。
そして代わりとなった結人が次期当主となり、藁科の空間魔法をわずか1年で網羅したのだった。
茜は雷華の隣に座ると早速勉強を始めた。
「さて、そろそろ僕たちも再開しよっか、樹」
「そうだな、俺だけは違うクラスはごめんだからな!やってやるぜ!」
「その意気だよ、樹。」
結人たちもそれに見習って勉強を始めた。
*
結人たちは昼休憩を挟んで午後の2時まで練習を続けた。
結人と咲夜以外の4人は今日で帰るということなので勉強を切り上げ、それぞれ魔法をA級魔法師である茜に見てもらうことになった。
「ん~雷華ちゃんはね~。も~ちょっと他の魔法も使った方がいいよ~。」
「あの~それはどういう・・・」
「ん~、雷魔法って使い手が少ないでしょ?その理由は雷華ちゃんも知っての通り、魔法のコントロールが非常に難しい上に同時にたくさん展開しないと真価を発揮できないでしょ?だからそのために、魔法を上手に組み合わせるの。」
茜は右手を海に向けるとお手本を見せた。
「<
右手の手のひらから繰り出された黄色い球体が水面に触れたかと思うと巨大な爆発を引き起こした。
茜の作った超電圧の電気の塊が水を急激に電気分解させるとその場に凝縮しきれなくなった気体がはじけ飛んだのだ。
直接電気で感電させるのは非常に難しい。何故なら避雷針のような物を使われたら一巻の終わりだからだ。
「「「おぉぉ~~」」」
雷魔法だとは思えないほどの爆発に思わず周りから拍手が起こった。
もちろんそれは学生のレベルでの話だ。
茜もやろうと思えばここ一帯を包み込むほどの雷魔法を使うことができる。
茜は次に桃のもとへと向かう。
「桃ちゃんはね~思考加速魔法の練習をすべきだと思うよ~」
「思考加速魔法ですか?」
「精神系の魔術が使える人はね~どうしても単独での戦闘力が低いの。例えば精神攻撃が効かない相手に対してほぼ何もできなくなる。だからどうしても精神系の魔術以外の戦闘手段か、仲間をサポートする魔法が必要なの。」
「な、なるほど・・・練習しておきます・・・」
助言を終えた茜は次に大和の所へ向かった。
「次に大和君だね、君は~って危ない!」
慌てて茜が大和を押し倒すと次の瞬間、茜が立っていた場所に雷をまとった水の球が通過した。感電死するレベルではないが当たったら痺れる程の威力だ。
おまけに隠蔽魔法付き。
隠蔽魔法がかかっていたとはいえ、結人と咲夜がそれに気が付かないはずがない。
にもかかわらずに黙ったままだったのにはもちろん理由がある。
「ちょっと!何すんの加奈子!」
「あ~ごめんごめん、目障りなUCがいるなって思ったらあなただったのね。」
この口調・・・間違いなく彼女だ。
見上げると予想通りの人物がいた。
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