#11 それぞれの戦い①
東京校を出発した結人達はその日のうちに最初の目的地が見えて来た。
「ねぇ、みんなあれを見て!」
桃が外を指さしながら大きな声をあげる。どうやらあの要塞に近づいてきたようだ。
「あれが、日本の防衛の要ーアマテラス・・・想像していたものよりもずっと大きいな・・・」
「あの真ん中の建物の上に付いているヤツもしかして・・・」
「そうですね、桃さん。あれこそが世界に9機しかない魔力測定器、自分も初めて見ました!!!」
第1対UC用人工島ー通称"
いずれ押し寄せて来るであろうUCの大進行に備えて日本防衛軍はいくつかの要塞を保有している。
天照は10年前に5年間かけて建設された本土防衛の要で本土からおよそ1000kmの地点にあり、大きさは直径1300mの円形の人工島だ。
この人工島は現在、魔法師の休憩所や輸送の中継地点、対UC用戦艦の待機場として大いに活躍している。
そして中央にそびえ立つ高さ300mの司令塔に付いているのは世界で9つしかない魔力測定システムの1つ"ブリュンヒルデ"。
人間は魔力の多さや系統などであれば、それを魔力感知によってある程度知る事ができる。
しかし、それを数値化し、人に伝える事が大雑把にしか出来なかった。
そこで開発されたのがこの魔力測定システムだ。
9つのある魔力測定システムにはそれぞれ戦姫の名前が付いており、魔力の質、量、系統などを正確に測定する事ができる。
一般的にUCの脅威度は保有魔力量に匹敵する。
基準となるのは気温20℃、気圧1013hPa、上空100mにある1立方メートル内にある魔力量を1とした時の数値となっている。
一般の成人男性が約100、下級UCはその200倍である2万ほど、災害級UCになると約1億程の魔力を保有している。
この装置で読み取った数値をもとに派遣する部隊や戦力を決めていた。
その為この装置は日本防衛軍になくてはならない存在だった。
しかし、この装置はものすごくコスパが悪く一機作成するのに約2兆円の費用がかかるまた、維持費も毎年湯水のように税金が使われている。幸い、9つの魔力測定システムで人類の生存圏全てをカバーする事ができるので今のところこれ以上多く作る計画は今のところない。
この巨大な要塞に48人の生徒を乗せた軍事用航空輸送機が着陸した。ここに来た目的は、今回乗る高速艦に乗り換えをする事と、今回お世話になる助っ人と交流するためだ。
航空機を降りた生徒達は整列したまま、高速艦の出航所へ向かう。
途中で見覚えのある戦艦を見つける。
「ねえ、あれ!日本に4つしかない空中戦闘艦じゃない?」
桃が海上に浮かぶ戦艦を指さしながら声をあげる。
「あれは、空中戦闘用1番艦"イザナミ"ですね。日本で初めて設計された空中艦で、最高速度はマッハ2を超える高速艦です!自分も実際に見たのは初めてです!それにしても大きいですね・・・いつか自分も乗ってみたいです。」
「私も初めてみました・・・私たち、本当に戦場に来たんですね。」
周りの生徒たちも、初めて見るイザナミに驚いていた。
「俺は乗りたくね~な。なんか落っこちそうだし、自分で飛んだ方が安心だろ?」
【樹ったらいつも乗ってるのにね。】
【そうですね、夜明けの光のみんなといる時はあんなに張り切っていますのにね。】
結人と咲夜は樹の普段と違う態度をみて苦笑いする。
そうこうしているうちに目的地に着く。
すると、見知った顔の男が生徒たちを待っていた。
その男は結人と目が合うとニコッと笑った。そして生徒たちに向かって簡単に自己紹介を始めた。
「皆さんどうもこんにちは、既にご存知かも知れないが一応簡単に自己紹介させてもらおう。」
「え?」
「嘘・・・」
「本物?・・・」
多くの生徒がその存在に気付き、驚く。その中でも一番驚いたのはこの生徒だろう。
「父さん??」
「皆さんこんにちは。日本防衛軍所属のA級魔法師 水篠正樹だ。今回は君たち生徒の護衛役として派遣された。万が一の出来事が起こらない限り特に何もしないので安心してほしい。まずは私から一言アドバイスをさせてもらおう。絶対に仲間を信じて行動してほしい。たとえあの世界最強の黒白様も紅焔様というパートナーがいる。こういう話をすると後で怒られてしまうかもしれないが、二人でいる時の彼らは凄いですよ。まぁとは言っても個々の力も私など遠く及ばないがね・・・」
「「「・・・・・・」」」
誰もなにも言うことが出来なかった。同じ人間のはずなのに桁違いのオーラを放っている。水篠さんは場の雰囲気を和ませるために結人達の事を話したのだろうが、それは逆効果だった。
誰かの冷や汗が地面にぽたりと零れた。
緊張はさらに高まる。
「まぁまぁそう緊張するな、水篠さんは確かに少し怖いかもしれないが中身はとてもやさしい方だ。安心するといい。」
生徒の様子をみた立川も緊張をとこうとする。
「・・・まぁいっか、1年生は全員、早速
「2年生はこっちのだ。こちらも寮の部屋と同じにする。行くぞ。」
【私、結人さんと一緒にいるといつもの100倍強くなる気がします。だからもっと一緒にいましょう!!!】
【そ、そうだね。】
結人は小さな噓をついた。本人に言えるわけが無かった。一人で戦っていた方が楽だということは。
*
自分達の部屋に案内された結人と咲夜は荷物を置くとゆっくり休んでいた。
「久しぶりだね、この感じ。」
「入隊したばかりの頃を思い出しますね。あの頃はずっと一緒にいられたというのに最近は会う機会も減っていましたからね。」
結人と咲夜が泊まる2段ベットの置かれた小さな部屋には懐かしい思い出があった。入隊した直後、正確にはこの部屋ではないが、この部屋と全く同じ間取りの部屋で1年間過ごした。
茜の提案で、日本防衛軍のシステムを知るために1年間、夜明けの光とは別の隊に配属されたのだった。とはいっても隊員は結人達を入れて5人しかいない小さな部隊で、簡単な任務や援護をするだけの簡単なお仕事だった。
その時の日々を思い出す。
思い出を語っているといつのまにか時間が経ち、結人と咲夜は予定通り5分前に甲板に出る。
既に結人達以外の全員が揃っており、最後の到着だった。
立川先生は全員揃った事を確認すると説明を始める。
「今乗っているこの戦艦は現在30ノット前後で目的地に向かっている。特に問題も発生しておらず、今のところ概ね予定通りだ。これからの予定を説明する。明後日の朝、今回防衛を任されたエリアに到着する。そこで2年生と合流し、それぞれ60時間の任務にあたってもらう。また、到着するまでは自由に行動してかまわない。ただし、立ち入り禁止エリアには入らないように。何か質問がある者はいるか?」
先生は一度周りを見回し、質問がない事を確認すると解放を告げた。
生徒たちは早速辺りを探検しに行く。
いつものメンバーはその場に残る。そして大和を先頭に今回の助っ人のもとへおもむく。
「とっ父さん・・・・・・」
いつもの大和とは程遠い行動をする。
「なんだお前か。どうしたんだこんなところに。」
「あの・・・・・・どうしてここに」
「これも任務だ。我々の仕事は何も戦闘だけではない。未来を担う人材を育てることも我々の重要な仕事だ。別にお前がどうこう言う話ではない。」
「ご、ごめんなさい。」
察するに父親との関係があまりよくないようだ
普段結人が見る優しい正樹さんとはかけ離れた存在だった。
その様子を見て思わず笑みがこぼれる。
結人は一番後ろにいたため幸い他の人には気が付かれなかった。ただ一人咲夜をのぞいて。
【結人さん、笑ったら失礼ですよ。気持ちは分かりますが・・・】
【ごめんって、気を付けるよ・・・】
「用がないなら行くぞ。」
「あ・・・」
何も告げずに自分の持ち場へと去っていった。
その場に残された6人は何とも微妙な雰囲気になっていた。
「みなさん、お見苦しい姿をお見せしてすみません。実は最近あまり上手くいっていないんですよ・・・」
「今回の訓練で少しは距離が縮まるといいね。」
「そうだね、大和。」
「ありがとうございます、皆さん。」
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